2023.07.16

2023/07/16 文献紹介

連日異常な暑さが続いており熱中症患者が増えてきましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
今回は前半2本が国際医療福祉大学成田病院の井桁、後半1本は聖マリアンナ医科大学病院の川口より大学病院コンビでお届けします。
少し分量が多めですので、クーラーの効いた涼しいところでゆっくりお読みください。

①ビデオ喉頭鏡 vs 直接喉頭鏡
②CVC挿入時は血小板いくつ必要?
③重炭酸ナトリウムの使い所

①Prekker ME et al. Video versus Direct Laryngoscopy for Tracheal Intubation of Critically Ill Adults. N Engl J Med. 2023 Jun 16. PMID: 37326325.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37326325/

ビデオ喉頭鏡と直接喉頭鏡の仁義なき戦い(RCT)が発表されましたので紹介します!

P:18歳以上の重症成人患者
I :ビデオ喉頭鏡(VL)での挿管
C:直接喉頭鏡(DL)での挿管
O:初回挿管成功

アメリカの11施設で行われた研究でERとICUで挿管が実施された症例です。
具体的なデバイスの種類やブレードの大きさなどは手技者に一任されています。
挿管手技ではほとんどpreoxygenationが行われ、95%以上が筋弛緩薬を使用してRSIを行なっていました。

Primary outcomeの初回挿管成功はVLで85.1%、DLで70.8%とVL群の圧勝となり、有効性が明らかとなったため試験は途中で中止となりました。(abdolute risk difference,14.3%, 95%CI 9.9-18.7; p<0.001)
Secondary outcomeである挿管中合併症(低酸素、低血圧、心停止など)は有意差は認めませんでした。

年齢中央値は55歳と若く、ERで挿管されたのは69.7%、挿管の適応は意識障害(45.3%)、急性呼吸不全(30.4%)でした。
挿管者は救急集中治療系のレジデントが70%とほとんどで、彼らの挿管経験は中央値で50例、ビデオ喉頭鏡での挿管経験はほとんどが半分以上と回答していました。
まとめると挿管者は比較的若手で、ビデオ喉頭鏡での挿管経験が多いという特徴があります。

subgroup解析でほとんどの要因でVL優勢であることは変わりませんでしたが、「挿管経験が100例以上ある」「ビデオ喉頭鏡の経験が少ない」という因子でのみVLとDLで有意差は認めませんでした。つまりベテランではどっちでもあまり変わらないということですね。

日本でも若手の先生方はほとんどがVLという施設も多いのではないでしょうか?
この結果を踏まえ、VLの方が成功率高いんだからVL一択でしょう!となるのか、DLしか出てこない場面もあるからちゃんと練習しないと成功率こんなに下がったら困るな…と思うのか、皆さんはどちらですか?
私はどちらかというと後者です。

②van Baarle FLF et al. Platelet Transfusion before CVC Placement in Patients with Thrombocytopenia. N Engl J Med. 2023 May 25;388(21):1956-1965. PMID: 37224197.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37224197/

皆さんはCVC留置の際は血小板数がいくつで輸血をしていますか?
日本のガイドラインでは過去の観察研究からCVC挿入時は2万以上にすべし、2万から5万の場合はリスクに応じて判断、5万あれば輸血は不要と記載されています。http://yuketsu.jstmct.or.jp/wp-content/uploads/2019/07/065030544.pdf

CVC挿入の手法が昔と比べてエコーガイド下が一般的になってきていることや、血小板のコスト問題などがあり、今回はCVC挿入に関して血小板輸血はどのくらいがいいか再検討するためRCTが組まれました。

概要は以下です。
P:血小板数が1~5万/mm^3を伴う血液内科病棟・ICU患者(除外:抗凝固薬の使用、PT-INR≧1.5など)
I:CVC挿入前に血小板輸血を行う(1単位≒日本の10単位)
C:CVC挿入前に血小板輸血を行わない
O:留置後24時間以内のグレード2~4のカテーテル関連出血

カテーテル関連出血とは下記のような項目です。
Grade1:ウージング、血腫(20分以内の圧迫で止まるもの)
Grade2;20分以上の圧迫などそれなりの介入が必要
Grade3:放射線治療、手術、赤血球輸血が必要
Grade4:血行動態不安定になるもの

オランダの10施設で行われ393人が登録されました。
グレード2-4の出血は輸血群で4.8%、無輸血群で11.9%に発生しました(絶対リスク比 7.1%,90%CI 1.3~17.8、相対リスク 2.44, 90%CI 1.27~4.70)。
結果としては無輸血群は非劣性を示せませんでした。

サブグループ解析では以下のような結果が示されました。
・血液内科病棟の患者の方がICU患者よりリスクが高い(血小板減少の病態の違い?)
・トンネル型カテーテルの方がリスクが高い

結構出血合併症多いなーという印象ですが、普段救急科があまり担当しない血液内科疾患やトンネル型カテーテルなどが含まれているからかもしれません。
また内頸静脈の割合が半分で鎖骨下静脈が38%程度含まれていることや、透析カテーテルが17%程度あることなども注意が必要です。
手技に関してはエコーガイド下で、CVC挿入を50回以上やったことがある術者に限定していますのでその辺りは実臨床に合っている印象ですね。

この研究を経て血小板数2万を一つの基準にしつつ、高リスク患者や低下トレンドである場合などは閾値を低く血小板輸血をしてからCVC挿入をしようという気持ちになりました。
皆さんはいかがでしょうか?

③Wardi Gabriel, et al. A REVIEW OF BICARBONATE USE IN COMMON CLINICAL SCENARIOS. The Journal of Emergency Medicine, 2023 April.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0736467923002639 無料で全文読めます!

みなさんは実診療で重炭酸ナトリウム(メイロン®️)をどのように使っていますか?

代謝性アシドーシスをアルカリの重炭酸ナトリウムで治療することは直感的には理にかなっているいるように思えますが、実際には下記のような害を及ぼすことがあり、投与の是非には議論の余地があります。
・酸素解離曲線の左方シフトによる組織レベルでの酸素利用障害
・アルカレミアになることでCaとAlbの結合が増加→イオン化Ca減少→心収縮力低下
・高浸透圧(8.4%なら2000mOsm/L)による体液シフト→肺や脳の浮腫
・重炭酸アニオンと水素イオンが結合してCO2産生→逆説的にpH低下
・静脈炎

本レビューではERで遭遇する代表的な病態における重炭酸ナトリウムの効果・推奨について解説されています。

・乳酸アシドーシス+循環不全(Type A乳酸アシドーシス)
重炭酸ナトリウムのルーチン使用は推奨されない(推奨レベルB)が、急性腎障害およびpH<7.20の患者における初期蘇生後の重炭酸ナトリウム投与には効果がある可能性がある。

・心停止
重炭酸ナトリウムのルーチン使用は推奨されない(推奨レベルB)。
推奨される例:高カリウム血症、三環系抗うつ薬中毒、コカイン中毒、その他ナトリウムチャネル遮断物質の中毒
原因のはっきりしない心停止に対する投与はタイミング次第で有効となる可能性があり、さらなる研究が必要となる。

・糖尿病性ケトアシドーシス
初期蘇生段階での重炭酸ナトリウムの投与は推奨されない(推奨レベルB)。
脳浮腫が起こるため小児患者には有害。pH<7.0の重症アシドーシスや高カリウム血症を伴うDKA対する投与に関するデータが不足しているが、一部推奨する学会もある。

・横紋筋融解症
尿のアルカリ化目的の重炭酸投与は効果がない(推奨レベルA)。蘇生輸液が最優先となる。初期蘇生における輸液製剤に関するRCTはない。

・アニオンギャップ非開大性代謝性アシドーシス(NAGMA)
重症の場合は重炭酸ナトリウム投与は推奨される(推奨レベルB)。RCTは限られているが、生理学的根拠に基づいている。

まとめると、重症病態に対する重炭酸ナトリウム投与の効果は特定の原因による心停止と重症なアニオンギャップ非開大性代謝性アシドーシスに限定され、救急医には酸塩基平衡の知識とアセスメントが求められることがわかります。

以上です!
まだまだ暑い日が続きますので気をつけて過ごしていきましょう!