2023.07.05

2023/07/05 文献紹介

7月に入ってもう数日経ってしまいましたが、
6月後半の文献紹介は、練馬光が丘病院の竪と東京ベイ・浦安市川医療センターの山本です。

前半は練馬光が丘病院 総合救急診療科(救急部門)の竪  良太です。
私からは2つの文献を紹介します。

① Hiram Shaish, et al. Diagnostic Accuracy of Unenhanced Computed Tomography for Evaluation of Acute Abdominal Pain in the Emergency Department
JAMA Surgery 2023 May3; e231112

1つ目は救急外来に来院した急性の腹痛患者に対する単純CTの診断正確性に関する研究です。

急性の腹痛で来院した患者に対して、初めから単純+造影CTを撮像する先生もいると思いますが、まずは単純CTを撮像して、その所見を見てから造影CTをどうするか考えるというスタンスの先生もいるのではないでしょうか。これまでの研究では単純CTもそれほど診断精度は悪くはないとの結果でしたが、診断名が限定されていたり、対照群が厳密でなかったりしました。

今回の研究では、3つの病院の救急外来を連続して受診した計201人の成人の急性腹症患者を対象として、造影CTの画像データからヨードを除くことで単純CTの画像を作成し、それを放射線科医が読影しました。対照群は別の放射線科医による造影CTの読影結果です。

急性腹症の原因となる疾患だけでなく、副腎偶発腫瘍など急性腹症とは関係しないものの臨床的に重要な所見に関しても診断正確性を検証しています。

結果ですが、単純CTでは造影CTより診断正確性が約30%低下しました。スタッフとレジデントで全体の診断正確性に有意差はありませんでしたが、スタッフで偽陽性、レジデントで偽陰性が多かったです。スタッフの方がより細かな所見を拾っていたからでしょう。

急性の腹痛の原因に限ると、スタッフなら約15%、レジデントなら約25%の診断正確性の低下であり、スタッフなら単純CTでもある程度は急性の腹痛の原因を診断できますが、夜間など非専門医が読影しなければならない状況を考えると、単純CTの限界を十分に認識して診療に当たる必要がありますね。

②Lin Hou, et al. Comparison of Single-operator Laser-assisted Ultrasound-guided Radial Arterial Cannulation in Young Children with Traditional Ultrasound Guidance: A Randomized Clinical Trial
ANESTHESIOLOGY 2023; 138: 497-507

2つ目は幼児の橈骨動脈へのレーザー補助下のエコーガイドAライン留置と通常のエコーガイドAライン留置を比較した中国の単施設RCTです。

ここ10年でAライン留置はエコーガイドが主流になってきており、その成功率を上げるための方法を紹介する文献も最近出てきています。しかし幼児に関しては定まった方法がなく、習熟した医師にとっても難解な手技のままです。

そんな中で、今回通常のエコーガイドにレーザー補助を加えた方法が検証されました。実際の装置や手技の様子はFigure1,3,4を見て頂ければと思います。

エコープローブの真ん中に橈骨動脈の中心がくる皮膚の箇所を2点マーキングし、レーザーの太さが橈骨動脈の径と同じになるように設定します。両群とも、短軸法でのdynamic needle-tip positioning(針先を描出させながら穿刺していく方法)を採用しています。

レーザー群はエコープローブをアームで固定でき、実際のカニュレーション時に両手がフリーになること、エコーで押しすぎて橈骨動脈を圧迫してつぶしてしまわなくてすむことなどの利点もあります。

Aラインを必要とする全身麻酔下で、予定もしくは緊急手術を受ける2歳未満の幼児を対象としています。

初回成功率は通常群の70%と比較して、レーザー群では90%と有意に高い結果でした。手技時間もレーザー群で有意に短かったのですが、レーザー群では事前の準備の時間を含めていません。初回穿刺の部位の正確性も評価されており、レーザー群で明らかに動脈の中心部を穿刺できていました。

2歳未満の橈骨動脈の径は平均1.2mmで、4割くらいは1mm以下という報告があり、その難易度は容易に想像できます。

今回の研究で手技を行ったのは、5年目くらいの麻酔科アテンディングで、成人には100例以上のエコーガイドAライン留置の経験がありますが、小児への経験がない医師2名です。

迅速性が要求される救急では現実的でありませんが、手術室や集中治療室では今後日本でも導入される可能性がありますね。

後半は東京ベイ・浦安市川医療センター 救急集中治療科(集中治療部門)の山本 一太です。
私からは、救急外来でのProcedural sedation and analgesia(PSA)時の酸素投与についての文献を紹介します。

救急外来で高齢者に対するPSAの際、予防的な酸素投与をしていますか?
PSAに際しては多くのガイドラインで事前の酸素投与が推奨されています。
しかしその根拠は若年者や非高齢者が対象の研究で、高齢者を主として対象とした研究はありませんでした。

この研究はJapanese Procedural Sedation and Analgesia Registry (JPSTAR)というレジストリからの研究です。
2017年5月から2021年12月まで救急外来でPSAを受けた65歳以上の高齢者が対象です。
主要アウトカムは低酸素血症(SpO2 < 90%)の発生率、二次アウトカムは一過性の呼吸停止に対するバッグバルブ換気施行率です。

753人の高齢者が解析の対象となり、そのうち465人(61.8%)がPSA時に予防的な酸素投与を受けていました。一方で288人(38.2%)が酸素投与を受けていませんでした。
対象の平均年齢は酸素投与群が77.7歳、非投与群が77.5歳でした。
用いられた鎮静薬は酸素投与群でベンゾジアゼピン、非投与群でチオペンタールが最も多かったようです。
有害事象は低酸素血症(11.4%)、無呼吸(6.6%)、低血圧(2.5%)などが記録されています。
傾向スコア法(IPTW法)で潜在的な交絡因子を調整したところ、酸素投与群では非投与群と比較し、低酸素血症の発生率が有意に低いことがわかりました(6.2% vs 19.3%; 差 -13.1%; 95% CI -9.8〜-16.4%; p<0.001)。
またバッグバルブマスクによる換気も酸素投与群で低い結果でした(5.2% vs 15.4%; 差 -10.2%; 95%CI -7.1〜-13.2; p<0.01)。

高齢者のPSA時の予防的酸素投与は、ルーチンでやられている方、必要時のみおこなっている方とバラバラだと思います。
この研究では予防的な酸素投与の重要性が明らかになりました。
非常にインパクトのある結果だと思います。