2023.06.15

2023/06/15 文献紹介

6月前半の文献紹介は、沖縄県立中部病院の岡と福岡徳洲会病院の大方です。

前半は沖縄県立中部病院の岡です。
暑い沖縄から熱い文献をご紹介します。

①Kelley R H Branch et al.
Diagnostic yield, safety, and outcomes of Head-to-pelvis sudden death CT imaging in post arrest care: The CT FIRST cohort study.
Resuscitation. 2023 Apr 3;109785. Online ahead of print.
PMID: 37019352 DOI: 10.1016/j.resuscitation.2023.109785
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37019352/

「原因不明の院外CPA患者、ROSC後に全身CTをすべきか?」

CPAに至った原因を特定するのは難しいけれど、治療方針を決定するために重要です。

例えば、敗血症、くも膜下出血、肺塞栓、心筋梗塞、外傷、電解質異常…、治療方針が全く異なります。
蘇生後できるだけ早い全身CTで、原因が特定され、予後が改善できるのでは?

今回の研究では、病院前でROSCした患者について、全身CTによって診断率が向上するか調べられました。
病院到着6時間以内に、突然死プロトコールCT撮影(SDCT)群と、標準治療群(必要に応じてCT撮影)を比較しました。

SDCTは以下を含みます。
・頭部単純CT
・心電図に同期させた胸部造影CT
・腹部骨盤造影CT

前向きコホート研究です。
原因が特定された患者や、状態が不安定すぎる患者は除外されました。

最終的にSDCT104人と標準治療143人が比較されました。
主な結果は以下です。
・SDCT群では原因特定率が高かった。(92% vs. 75%、p <0.001)
・原因診断までの時間は、SDCT で短かった。(3.1 時間 vs. 14.1 時間、p <0.0001)
・緊急疾患(心筋梗塞、肺塞栓、大動脈解離、肺炎、塞栓性、脳出血、脳梗塞など)の診断率に差はなかったが、緊急疾患の診断の遅れ(6時間以上)はSDCTが少なかった。(12% vs. 62%、P <0.001)

…全身CTええやん!
しかし、ちょっと待ってください。注意が必要です。

全身CTをすべきか?と聞くと、外傷患者に対する全身CTの有用性を検証したREACT-2試験を思い出します。
EMA文献班で紹介しました。2016年です。
http://emalliance.sakura.ne.jp/education/recommend/dissertation/2016718-journal
今回の試験も、REACT-2と同様、予後の改善はありませんでした。
全身CTによる死亡率の改善はありませんでした。
予後を改善しないのに、本当に意味があると言えるか疑問が残ります。

また、そもそもRCTではありません。

ROSC後の全身CTは、まだここまでしかわかっていません。

… これからも自分は、ROSC後に全身CTを撮影します。
原因がより早期に・多く特定できると期待するからです。
そうなれば、治療方針やご家族への説明内容が変わります。
ただし、患者の予後が改善できるかまではわかりません。今のところ。

岡正二郎

後半は福岡徳洲会病院の大方です。

②Jennifer C Laws et al.
Acute Effects of Ketamine on Intracranial Pressure in Children With Severe Traumatic Brain Injury
Critical Care Medicine. 2023 May 1;51(5):563-572.
PMID: 36825892 DOI: 10.1097/CCM.0000000000005806
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36825892/
「重症外傷性脳損傷の小児において、ケタミンを投与したことによる頭蓋内圧への影響」

重症外傷性脳損傷(以後sTBI)の患者では頭蓋内圧が上昇している症例もあり、鎮静する際にケタミンを使用しない施設が多いのではないでしょうか。
TBIでなくても頭部外傷であれば、鎮静目的でケタミンの使用を制限している施設もあるかもしれません。
ケタミンが頭蓋内圧(以後ICP)を上昇させると言われてきたことが影響していると考えられます。実際、ICPが亢進している患者への使用は日本の添付文書では禁忌となっております。

本文献はsTBIの小児患者に対して、鎮静目的やICPが上昇した際の治療としてケタミンや他の薬剤を投与し、その後のICPや脳灌流圧(以後CCP)への影響を調査した単施設での後ろ向き観察研究(preliminary study/exploratory study)です。
結果としては、「ケタミンの投与によるICP上昇はなく、ICP上昇時のケタミン投与はICPの低下とCCPの上昇に関係していた。」です。

対象は1ヶ月から16歳のsTBIの小児患者33人で、そのうち22人がケタミンのボーラス投与を受けました。
ICPとCCPは5分ごとに測定され、ICPが20mmHgを超える状態が5分以上続く場合をICP crisesと定義しました。ICP crisesに対しては11人がケタミンのボーラス投与を受けました。
結果は、鎮静のためだけにケタミンを投与した際はICPに変動はありませんでした。
また、ICP crises時のケタミン投与では、ICPは低下(p=0.0001)、CCPは上昇(p=0.0013)しました。

ただしICP crisesではない時にICPを低下させておらず、ケタミンによる効果ではなく全身管理の効果でICPが低下した可能性もあります。今後の大規模、多施設の研究次第ではケタミンがsTBIのICPを低下させる治療薬として検討されるだろうと考えられています。

n数が小さく、さらなる研究の必要があるとは思いましたが、この結果を受けてsTBI小児患者において、処置時の鎮静などでのケタミンの使用は比較的安全かもしれないと考えました。
また、より広くTBIを対象とした研究が今後なされた場合は、TBI小児患者の処置時の鎮静剤としてケタミンが選択肢の一つとなるかもしれません。
ただし、日本ではICP亢進の患者への使用は添付文書上で禁忌となっているため、すぐに現場に適応できるものではない事は注意されてください。

③Merel van Loon-van Gaalen et al.
Frequencies and reasons for unplanned emergency department return visits by older adults: a cohort study
BMC Geriatrcs. 2023 May 18;23(1):309.
PMID: 37198554 PMCID: PMC10193595 DOI: 10.1186/s12877-023-04021-x
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37198554/
「高齢者が救急へ予期せずに再来院する頻度や理由は?」

救急診療をしていると短期間で複数回来院する患者を診ることは珍しくありません。このような患者には良くないバイアスがかかりやすく、例えば経験のまだ浅い医師はアンダートリアージをしたり、検査を省いてしまうようなことがあるかもしれません。
また、再来院を減らすために患者教育などの介入の必要性を考える方もいるかもしれません。

今回紹介する研究は、オランダの単施設で30日間に救急科へ再来院した高齢患者の頻度と理由について調べたcohort studyです。
対象は救急科を受診し帰宅となった経緯のある70歳以上で、入院や別施設への転院、経過フォローのための来院やクリニックへの予定受診は除外されました。
222人の患者が該当し、全再来院数は279回でした。
結果は、基礎疾患の再発や増悪、合併症発症、前回来院時とは別の主訴で再来院した人が77%と大部分を占めており、不安などの身体的疾患ではないものが14%でした。

これらの結果から、予期せず再来院することを予防すべきかどうかは議論が必要であると結論づけられています。
この研究は国や地域が違えば結果が異なる可能性がありますが、再来院の患者には留意をしながら診療することが重要だと感じました。
また今回の結果を踏まえて、再来院は防ぎ得ないもしくは防ぐ必要がないかもしれません。