2023.06.03

2023/06/03 文献紹介

気づけばもう6月、今年度から研修が始まった皆さんはそろそろ慣れてきた頃でしょうか。
台風も迫ってきていますがじめじめ蒸し蒸しした空気を吹き飛ばす熱い文献を今月もお届けしますので、
ぜひ最後までご覧になってください!

まずは湘南鎌倉総合病院 救急科の田口から、元文献班の宮本雄気先生が関わられた文献を紹介します。

①H.Ohbe, et al. One-Year Functional Outcomes After Invasive Mechanical Ventilation for Older Adults With Preexisting Long-Term Care-Needs.
Crit Care Med.2023 May 1;51(5):584-593. Epub 2023 Feb 28.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36847518/

高齢者の人工呼吸器管理、その適応に悩むことはないでしょうか? 患者のADLが低い場合、その予後は悪そうであることは誰もが感じることだと思います。
これまで年齢や認知症の有無に注目した人工呼吸器管理と予後についての研究はありましたが、ADLに着目したデータはありませんでした。

本研究は栃木県のデータを利用したコホート研究です。2014-2018年に65 歳以上で人工呼吸器管理を受けた方の要介護度に応じた 一年後の死亡率、要介護度などを調査しました。

対象者のうち4198人が人工呼吸器管理を受けました。平均年齢は81.2歳、55.5%が男性でした。
解析では要介護認定なし、要支援1~2と要介護1、要介護2~3、要介護4~5の4群に分けられ、それぞれの平均年齢は78.2歳、83.4歳、84.2歳、83.6歳でした。

一年後死亡率はそれぞれ43.4%、54.9%、67.8%、74.1%で、一年後の要介護度が上がった人は22.8%、24.2%、11.4%、1.9%でした。
年齢や入院時の主な診断名などの交絡因子を調整した各群の一年後死亡率の調整Odds比(aOR)は要介護認定なしをreferenceとして、aOR(95%CI) 1.72 (1.44–2.06)、2.71 (2.23–3.29)、3.57 (2.86–4.45)でした。

以上より、要介護度が高いと一年後死亡率が高いということがデータで示されました。

予想通りの結果ではありますが、日常から感じていたことがきれいに示されており納得ができるのではないでしょうか。
またこの結果を実臨床でどう使うかについては、本文でも述べられているように、患者、家族、または他科の専門家と議論する際に一つのエビデンスとして意思決定に利用できると思います。予後が悪そうだからといった直感的な判断ではなく、具体的な数値があることで議論がしやすくなります。

ただし、もちろん個々の患者に合わせて人工呼吸器の適応を判断することが重要です。

続いて中東遠総合医療センター 救急科の大林からはこちらの2本です。

②Choi H, et al. Impact of intravesical administration of tranexamic acid on gross hematuria in the emergency deprtment: A before-and-after study.
Am J Emerg Med. 2023 Jun; 68:68-72. Epub 2023 Mar 16.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36948083/

「肉眼的血尿の持続膀胱洗浄前にトラネキサム酸(TXA)局所投与」
EMA文献班の好物ですか、と思うぐらいこれまでTXAに関する文献を紹介してきましたが、
今回は肉眼的血尿に対するTXA局所投与の効果を調べた研究を紹介します。

救急外来で肉眼的血尿の患者さんに、血栓による尿閉予防を目的に持続膀胱洗浄を行うと思いますが、
膀胱灌流には希釈による血栓除去があるものの止血効果はありません。
すでに膀胱洗浄前にTXAを局所投与することで、生理食塩水の量を減らせるという報告(Moharamzadehら、PMID: 28916142)がありましたが、
今回の研究では救急外来の滞在時間や膀胱留置カテーテルの留置期間を短縮できないか、という観点で研究が行われました。

韓国の退役軍人病院(年間30,000件のER受診)での電子カルテのレトロスペクティブレビューに基づく単施設ビフォーアフター研究です。
この病院では2015年11月以降、肉眼的血尿でグレード6以上の患者に対して3Wayフォーリーカテーテルによる膀胱灌流をルーチンで実施していて、
2022年3月からTXAの局所投与を開始しました。
(血尿のグレードについては、Abdul-Muhsinらの文献を御覧ください。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31197524/ )
肉眼的血尿でERを受診した18歳以上の患者を対象に、2021年3月〜2021年9月を非TXA群(before群)、2022年3月〜9月をTXA群(after群)をとしてカルテレビューしました。

TXA局所投与の方法は以下のとおりです。
1.3wayフォーリーカテーテルを挿入して残尿を十分に排尿する。
2.TXA1gを生食100mLで希釈しカテーテルから投与する。
3.カテーテルをクランプして15分間待つ。
4.15分後、クランプを解除して膀胱洗浄を開始する。
5.血尿がグレード3以下となり、血栓がなくなればカテーテルを抜去する。

主要アウトカムは、ERの滞在時間とカテーテル留置期間で、患者が希望によりカテーテルを抜去せず帰宅した場合は、診察終了時間を抜去時刻と仮定しました。
副次的アウトカムとして、入院と48時間以内の再受診(血尿で膀胱洗浄が必要な場合)を設定しました。

非TXA群73名、TXA群86名が解析対象となり、

滞在時間の中央値:411分 vs 274分(P値 < 0.001、非TXA群 vs TXA群、以下同)
カテーテル留置期間の中央値:308分 vs 145分(P値 < 0.001)
再受診:12.3% vs 2.3%(P値 0.030)
入院:45.2% vs 29.1%(P値 0.052)

という結果でした。

出血源が下部尿路とは限らない点、血尿のグレード評価が主観による点、抗凝固薬・抗血小板薬投与率の差について言及していない点などの研究上の限界はありますが、
比較的簡単な手順で行えるので今度膀胱洗浄する際にはぜひ試してみてはいかがでしょうか?

③Brown CS, et al. Safety of peripheral 3% hypertonic saline bolus administration for neurologic emergency.
Am J Emerg Med. 2023 Apr 10.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37079938/

「3%食塩水は末梢ルートからでも急速投与できる」
重症頭部外傷やその他の神経系救急疾患の緊急治療で、頭蓋内圧のコントロールや脳浮腫の改善などを目的に高張性食塩水(以下、HTS)が使用されています。
濃いものだと23.4%のHTSがボーラス投与に使用されますが、中心静脈路がない状態でそのような溶液を投与するのは、
血管外漏出や静脈炎の問題があり安全とは言えず、3%のHTSが使用されることが一般的です。

これまでの研究で末梢静脈路から3%HTSを75mL/hで持続投与することは安全とわかっていましたが、緊急時に急速投与することの安全性はわかっておらず、
著者らはレトロスペクティブに3%HTSが250mL/h以上の速度で末梢路から投与された症例について調べました。

2018年5月5日から2021年9月30日の間にMayo Clinicに入院した成人患者で、3%HTSを250mL/h以上の速度で投与された37人を調べたところ、
・留置カテーテルサイズの中央値は18G(IQR 18,20、8名はサイズ不明)
・正中静脈留置が最多(48.6%)
・投与量の中央値は250mL(IQR 250, 350) または3.9mL/kg(IQR 3.0, 4.6)
・投与速度の中央値は760mL/h(IQR 500, 999)
という結果でした。
これらの患者で血管外漏出や静脈炎の報告はありませんでした。

レトロスペクティブな研究ではありますが、救急外来などで急いでHTSを投与したい時には、18Gのカテーテルを正中静脈などに留置して行えば安全に投与できそうです。

湘南鎌倉総合病院 救急科/東京大学大学院 医学系研究科 公共健康医学専攻 田口 梓
中東遠総合医療センター 救急科 大林 正和