2023/04/19 文献紹介
新年度が始まりましたね!
新たな地で、新たなメンバーで盛り上がっているところも多いかと思います。
今回は聖マリアンナ医科大学病院の川口と、国際医療福祉大学成田病院の井桁が3本の論文をお届けします。
①Bouzat P, et al. Efficacy and Safety of Early Administration of 4-Factor Prothrombin Complex Concentrate in Patients With Trauma at Risk of Massive Transfusion: The PROCOAG Randomized Clinical Trial. JAMA. 2023 Mar 21:e234080. PMID: 36942533https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36942533/
外傷患者に4F-PCC(例:ケイセントラ®︎)を使用しても血液製剤使用量は減らなかったが血栓症は増えた
外傷関連凝固障害による出血に対する治療戦略として、トラネキサム酸投与、輸液制限、迅速な出血コントロールに加え、固定比率の血液製剤投与、血液粘弾性試験(VET)の重要性が知られています。
観察研究において4F-PCCの単独投与およびFFPと組み合わせた投与が血液製剤使用量の減少や死亡率の低下と関連がみられたことを受け、そのエビデンスをさらに検証するために本RCTが組まれました。
フランスの12の外傷センターで大量輸血のリスクがある成人外傷患者計324人が対象となり、介入群164人には1mL/kgの4F-PCC(25IUの第IX因⼦/kg)、対照群160人には1mL/kgの⽣理⾷塩⽔が投与されました。
※大量輸血のリスクの定義
・病院前診療の段階で最低1単位(日本の規格だと2~2.5単位に相当)の赤血球輸血が必要
または
・来院1時間以内でThe Assessment of Blood Consumption (ABC) scoreが2点以上
または
・指導医の判断
※大量輸血の定義
・来院後1時間以内に3単位以上の赤血球輸血
または
・最初の24時間以内に10単位以上の赤血球輸血
一次アウトカムは救急外来到着後24時間以内の血液製剤の総使用量
二次アウトカムは各血液製剤の使用量、PT比を1.5未満まで下げるのに要した時間、出血コントロールがつくまでの時間、24時間および28日死亡率など でした。
結果は、24時間の血液製剤総使用量 4F-PCC群 12 [5-19]単位 vs プラセボ群11 [6-19]単位 absolute difference, 0.2単位 [95% CI, −2.99 to 3.33]; P = .72 となり、両群間に差はありませんでした。また、その他のアウトカムにも有意な差はみられませんでした。
しかしながら、1回以上血栓塞栓症を発生した割合は4F-PCC群で多く見られ、4F-PCC群 56人(35%) vs プラセボ群 37人(24%) relative risk, 1.48 [95% CI, 1.04-2.10]; P = .03 という結果でした。
外傷患者に対して一律に4F-PCCを使うことは推奨されず、当面は従来の治療戦略で戦うことになりそうです。
②Di Nicolò P, et al. Inferior Vena Cava Ultrasonography for Volume Status Evaluation: An Intriguing Promise Never Fulfilled. J Clin Med. 2023 Mar 13;12(6):2217. PMID: 36983218
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36983218/
ボリュームステータス評価におけるIVCのエコー所見に関するレビュー
循環や輸液の管理を行う上でボリュームステータスの評価はとても重要ですが、様々な要素をもとに総合的な判断が求められるため難しいと感じる方も多いと思います。
エコーを用いたIVCの径と呼吸性変動の観察は初学者にも比較的容易に実施できるため根強い人気のある(?)所見ですが、解釈には注意が必要です。
IVCの所見には循環血液量以外に、右心機能、胸腔内圧と腹腔内圧のバランス、静脈壁のコンプライアンスが関係します。また、先天的な解剖学的異常も0.3〜10.14%(バリエーションは14種類!!)で報告されています。その他にも、基礎疾患や陽圧換気(人工呼吸器)の有無、アスリート、小児、妊婦など、様々な条件によってIVCのエコー所見の信頼性は大きく変化します。
エコーでボリュームステータスを評価するには、たとえ時間がかかったとしてもIVCだけではなく心臓・肺・門脈・脾静脈・腎静脈の所見を組み合わせて判断することを意識していきましょう。
③Lee DS et al.Trial of an Intervention to Improve Acute Heart Failure Outcomes. N Engl J Med. 2023 Jan 5;388(1):22-32.
COACH trial
PMID: 36342109
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36342109/
救急外来で心不全患者のDisposition判断はリスク層別化ツールを用いると良い
心不全パンデミックと言われる現代では救急外来で心不全患者を診療する機会も多いかと思います。
その際Dispositionは皆様どのように判断されていますか?
循環器内科医次第?酸素吸っていなければ帰宅でOK?BNPが高いから入院?それとも全例入院?
心不全患者は増悪を繰り返すごとに階段状に予後が悪化していくと言われているため増悪時は適切な対処をしたいですね。
今回紹介する論文はカナダのオンタリオ州で行われた多施設横断的Stepped Wedge クラスターRCTです。
Stepped WedgeクラスターRCTというのは、クラスターレベルで介入時期をランダム化して順番に観察期から介入期に移行(介入の導入時期をずらして順次適用)する研究デザインです。下記サイトが参考になりますのでお時間ある方はご覧ください。
https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2020/PA03361_06
リスク層別化ツールはEmergency Heart Failure Mortality Risk Grade(EHMRG30-ST)という評価指標を用いています。
項目としては年齢、救急搬送の有無、収縮期血圧、心拍数、SpO2、血清クレアチニン値、血清カリウム値、トロポニン上昇、活動性の癌、自宅でメトラゾン(チアジド系利尿薬)の使用、12誘導でST低下があり、計算式が複雑でありそれぞれをソフトに入力すると自動算出されるようです。
対象は18歳以上で急性心不全で救急外来を受診した患者を対象にしています。
除外項目はFramingham基準で診断を受けていない、BNP<100pg/mlもしくはNT-proBNP<300pg/ml、末期疾患または緩和ケアを受けている、保険証がない・無効、データベースにリンクできない、外来診療ができない(認知症、施設入所中、ADLが悪いなど)、などでした。
対象期間は臨床医の判断で心不全患者のDispositionを決定しています。
介入期間に移行すると臨床医はEHMRG30-STを用いて、患者が7日以内または30日以内に死亡するリスクが低、中、高の3つに分類しそれに応じてDispositionを決定しました。
高リスク患者には入院が推奨され、低リスク患者は早期退院の方針で救急外来からそのまま帰宅か、3日以内の入院経過観察となっています。中リスク患者は臨床医の判断で決定されていました。
早期退院した患者にはRAPID-HF(Rapid Ambulatory Program for Investigation and Diagnosis of Heart Failure)クリニックという看護師が常駐し、循環器専門医が監督するクリニックで退院30日間まで外来診療を受けています。
第一のprimary outcomeは30日までの全死亡もしくは心血管イベントによる入院、第二のprimary outcomeは延長アウトカムで受診後20ヶ月以内としています。
対照期間2972人、介入期間2480人の合計5452人が登録されました。
30日以内のPrimary outcomeは介入期間で301人(12.1%)、対照期間で430人(14.5%)でした(adjusted HR, 0.88; 95% CI, 0.78 to 0.99; p=0.04)。
心疾患・心不全による入院のリスクはどちらも介入期間の方が低くなりました。
20ヶ月以内に延長したprimary outcomeは介入期間で54.4%(95%CI, 48.6-59.9)、対照期間で56.2%(95%CI, 54.2-58.1)でした(adjusted HR, 0.95; 95%CI, 0.92 to 0.99)。
Secondary outcomeの心疾患での入院、心不全での入院、死亡なども総じて介入期間の方が低い結果でした。
今回の結果は、リスク層別化ツールを用いてDispositionを決めることで心不全患者の予後が改善するというものでした。
適切なDispositionが選択できれば予後が改善するのも納得ですね。
低リスク群で無駄な(長期)入院を避けられれば医療経済的にも有用であると思われます。
日本ではRAPID-HFクリニックに当たるような施設がないため、すぐにこのアルゴリズムを実際に行うことは難しいかもしれません。
ERでの適切なdisposition決定にこういったツールを用いることも、今後普及してくるかもしれませんね。
以上です。
日々の診療の参考になれば幸いです。
井桁龍平