2023.03.16

2023/03/16 文献紹介

今回から文献班に加入しました、福岡徳洲会病院救急科の大方です。
どうぞよろしくお願いします。

3月前半の文献紹介は、福岡徳洲会病院の大方と沖縄県立中部病院の岡です。
福岡と沖縄の南国コンビで、3つの論文を紹介します。

前半は福岡徳洲会病院の大方です。

①Kallirroi Laiya Carayannopoulos et al.
Mean Arterial Pressure Targets and Patient-Important Outcomes in Critically Ill Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Trials.
Critical Care Medicine. 2023 Feb 1;51(2):241-253.
PMID: 36661452 DOI: 10.1097/CCM.0000000000005726
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36661452/

成人のショック症例における、目標平均血圧についてのsystematic review、meta-analysisです。
結果は「高い目標平均血圧(75-85mmHg)は従来通りの目標平均血圧(65mmHg)と比べ、成人のショック患者の死亡率に有意差を認めなかった」です。

成人のショック症例、特に敗血症性ショックにおいて、平均血圧を65mmHg以上にするため、輸液や昇圧剤を使用していると思われます。
その際に目標平均血圧を高くした方がより良いかと思われた方もいるかもしれません。
そこで今回は、成人のショック症例で目標平均血圧を高く(75-85mmHg)設定した場合と、目標平均血圧を従来通りに(65mmHg)設定した場合において死亡率を比較検討したsystematic review、meta-analysisを紹介します。

18歳以上で昇圧剤を要したショックと診断された成人を対象としました。
MEDLINE、EMBASE、Cochrane libraryに掲載されていたRCTの論文を集積し、6つの論文がreviewされました。
うち3つが血液分布異常性ショック、2つが心原性ショック、1つが出血性ショックについてでした。

主要なアウトカムは30~180日での死亡率、副次的なアウトカムは昇圧剤の投与期間、輸液投与量、腎代替療法(RRT)実施、ICU在室日数、入院期間、有害事象です。

結果として、高い目標平均血圧と従来通りの目標平均血圧とで30~180日での死亡率に有意差は認めませんでした。(RR, 1.06; 95% CI, 0.98–1.15)

また、副次的なアウトカムにも有意差は認められませんでした。
しかしRRT実施に関するサブグループ解析において、既往に高血圧症がある患者では高い目標平均血圧のほうがRRT実施のリスクを低減させるという結果となりました。(RR, 0.83; 95% CI, 0.71–0.98)
ただし、既往に高血圧症がない群ではサブグループ解析ができなかったため、RRT実施に関する、さらなる研究が必要と著者は述べています。

臨床において、MAP高く設定したいような場合があるかもしれませんが、あえて高いMAPを目標とする意義は基本的にはあまりなさそうです。

②Yuki Kotani et al.
An updated “norepinephrine equivalent” score in intensive care as a marker of shock severity.
Crit Care. 2023 Jan 20;27(1):29.
PMID: 36670410 PMCID: PMC9854213 DOI: 10.1186/s13054-023-04322-y
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36670410/

「norepinephrine equivalent(以下NEE)の更新、臨床研究と実践における有用性」

みなさまNEEをご存知でしょうか?

NEEは投与されている昇圧剤の総量を定量化するためのスケールです。
目標平均血圧を達成するために必要な昇圧剤の投与量をノルアドレナリン投与時と比較するか、ノルアドレナリンと併用した場合にノルアドレナリン投与の減量を見積もることで、NEEは決定されます。

昨今では、一時的でしたが、ノルアドレナリンやバソプレシンの供給不足が公表され、臨床現場をざわつかせていましたね。
そこで他の薬剤に変更する際や、昇圧剤が複数使用されている場合の総量を確認する際に利用できそうなNEEについての文献を紹介します

それぞれの薬剤に対して、複数のランダム化比較試験および非ランダム化比較試験を参考に以下のNEEスコアが作成されました。
いずれもノルアドレナリンの昇圧効力を1としています。
アドレナリン(μg/kg/min):1
ドパミン(μg/kg/min):0.01
フェニレフリン(μg/kg/min):0.06
バソプレシン(U/min):2.5
アンジオテンシンⅡ(ng/kg/min):0.0025

ただし、ECMOなどのサポートデバイスや強心薬が併用されている場合はNEEが低くなってしまうため、注意してNEEを使用・解釈する必要があります。
上記を除けば、ノルアドレナリン以外の代替薬剤を使う時や昇圧剤の総量の確認、NEEを用いた臨床研究が可能になるのではないかと考えます。

大方雄司

後半は沖縄県立中部病院の岡です。
暑い沖縄から熱い論文をご紹介します。

③Christian Hassager et al.
Duration of Device-Based Fever Prevention after Cardiac Arrest.
N Engl J Med. 2023 Mar 9;388(10):888-897.
PMID: 36342119 DOI: 10.1056/NEJMoa2212528
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36342119/

ROSC後の体温管理時間を、36時間と72時間で比較しても生命/神経予後に差が見られなかった、というRCTです。

現在のガイドラインでは、ROSC後昏睡患者に 72 時間の発熱予防(<37.8℃)が推奨されています。
しかし、どれくらいの時間行えば本当に良いのかについてはわかっていませんでした。

本研究はデンマークの2施設で行われました。
院外心停止でROSC後の昏睡患者789人を、36℃で24時間管理した後、37℃を目標に合計36時間管理群(393人)と72時間管理群(396人)に分けました。

プライマリアウトカムは、90日以内の死亡、もしくは高度脳障害/昏睡での退院でした。
36時間群と72時間群では差が見られませんでした。
(33.6% vs.32.3%, HR0.99; 95%CI, 0.77-1.26; P=0.70)

以下、考察です。
今回の対象患者の約7割がCPC1 or 2の予後良好な患者です。
48hrの時点で 患者の半数近くがawakeです。
こんなに予後が良かったので36hrと72hrの差は出にくかったのかもしれません。

この論文が発表されたことで、今後のガイドラインの修正が予想されます。
しかし、予後が良くない患者でも36hrで良いかどうか…。不安が残ります。

ROSC後の体温管理について、これからも研究は続くでしょう。
・より具体的な目標体温は?
・患者背景によって変えなくて良いのか?
などです。

この領域は推奨がどんどん変わっていく領域です。
最新の知見にキャッチアップしないと、ですね。

岡正二郎