2023.01.08

2023/01/08 文献紹介

あけましておめでとうございます!!
遅くなりましたが(2022年の)12月後半の文献紹介をお送りいたします。

 

今回の担当は練馬光が丘病院 総合救急診療科(救急部門)の竪と東京ベイ浦安・市川医療センターの山本です。

 

今回ご紹介する文献は以下の3つです。

 

① 救急外来の低血糖患者には意外と副腎不全が多いかも
② 餅の合併症
③ 大動脈遮断 REBOA vs 開胸 !!

 

練馬光が丘病院 総合救急診療科(救急部門)の竪です。私からは2つの文献を紹介します。

 

① Tetsuya Kawahara, et al.
Frequency of Adrenal Insufficiency in Patients With Hypoglycemia in an Emergency Department: A Cross-sectional Study
Journal of the Endocrine Society. 2022; 6: 1-7

 

低血糖の原因が副腎不全であった経験がある先生はどれくらいいますでしょうか?敗血症などと比べて少ないのではないしょうか。1つ目で紹介するのは救急外来の低血糖の患者で、原因が副腎不全である割合が意外に多いかもしれないという文献です。

 

日本の北九州の病院で行われた単施設研究で、2016年から2021年までの5年間に同病院の救急外来を受診した低血糖患者528人の低血糖の原因について調べています。原因が糖尿病薬であった患者以外で、迅速ACTH負荷試験を拒否した患者などを除外した139人に迅速ACTH負荷試験を施行しました。結果は32人でピークのコルチゾール値<18μg/dlとなり、副腎不全と診断されました。低血糖患者の6.1%を占めており、糖尿病薬389人(73.7%)、アルコール33人(6.3%)に次いで3位でした。重症な感染症は11人(2.3%)でした。低血糖の中で副腎不全の占める割合の一般論に関しては調べきれなかったのですが、この数字は確かに多いですよね。

 

また副腎不全と診断した患者では、そうでない患者と比較して、血圧と血清Na濃度が有意に低く、好酸球数が有意に多いという結果も今回出ていました。そのため筆者達は、原因不明の低血糖で、低ナトリウム血症や低血圧、好酸球増多などがあれば迅速ACTH負荷試験を行う事を推奨すると結論付けています。しかし血圧の有意な低下と言っても収縮期血圧で8mmHg、血清Na濃度の有意な低下と言っても7mEq/Lと軽度である事から副腎不全を見逃すリスクを考慮すると原因不明の低血糖では、低ナトリウム血症などがなくてもランダムコルチゾールはチェックしておいて、結果次第で迅速ACTH負荷試験を施行するというのも考慮されるかもしれません。

 

救命センターなどでは敗血症の頻度がもう少し多いのかなと思いました。ただ原因不明の中に実は副腎不全が紛れているかもしれないという考えは常に持っておいた方が良いですね。皆さんの施設では低血糖の患者に対するコルチゾールのチェックはどうしていますか?

 

② Koki Kawanishi, et al.
New Year’s silent killer in Japan: Undigested mochi
Clin Case Rep. 2022; 10: e06682

 

2つ目は、年末年始に特有で、これから増えてくる事が予想される餅関連の症例報告です。こちらも日本からの報告です。

 

餅による気道閉塞は有名ですが、餅の胃腸での停滞に関しては稀であり、それほど認識されていません。餅による食餌性イレウスは自分も経験がありますが、今回の症例報告は65歳の女性で、3cm程度の大きさの餅を数個ほとんど噛まずに食べ、胃内で5日間餅が停滞し、それによって腹痛を来していました。停滞した餅は重篤な胃潰瘍を引き起こし、胃穿孔に至る事もあるようです。この患者では、内視鏡的に餅を1cm未満まで小さくし、エクセラーゼ(健胃消化剤)を投与して2日後には胃内から餅が消えていました。1cm未満まで小さくなれば噴門部を超える事ができるようです。

 

消化器専門医だけでなく、プライマリケア医と救急医もこの治療法について知っておくべきである筆者達は述べています。心窩部痛の患者にアニサキスを考慮してサバやサーモンの食歴は問診すると思いますが、年末年始には餅の食歴も付け加えた方が良いですね。

 

東京ベイ浦安・市川医療センターの山本です。
私からはREBOAについての文献を1つ紹介します。

 

③ Cralley AL, Vigneshwar N, et al.
Zone 1 Endovascular Balloon Occlusion of the Aorta vs Resuscitative Thoracotomy for Patient Resuscitation After Severe Hemorrhagic Shock
JAMA Surg. 2022 Dec 21.

 

“REBOAは蘇生的開胸術に勝るのか⁉︎”

 

蘇生的開胸術(RT)やREBOAは出血性ショックに対する大動脈遮断目的で行う手技です。

 

近年REBOAのRTに対する優位性が報告されています。

 

- CPRを受けていない患者ではRTよりも生存率が良い(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29421694/
- 外傷性脳損傷(TBI)を合併している症例では、RTよりも生存率が良い(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35372698/
- 外傷性心停止ではRTよりも胸骨圧迫の中断時間が短い(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29685373/

しかしながら、RTとREBOA、どちらが優れた方法なのか質の高いエビデンスを元にした結論は出ていません。
RCTを行うのが困難、外傷の大規模レジストリではRTとREBOAを比較するのに必要十分な情報を得られないという背景があります。

Aortic Occlusion for Resuscitation in Trauma and Acute Care Surgery (AORTA) registryは米国28施設の前向きレジストリで、大動脈遮断を行った患者のデータを登録しています。

これまでの研究と異なる点は、このレジストリが大動脈遮断に特化しており、詳細な生理学的なデータや、REBOAの留置位置(zone)まで記録されていることです。

本日紹介する研究は、AORTA registryで年間10件以上REBOA及びRTの経験数のある施設が対象です。
これら施設から登録された症例で、RTとREBOAを比較しています。
Primary outcomeは入院死亡率です。
施設、年齢、性別、ISS、損傷部位やバイタルサイン(病院前、到着時)、CPR率、貧血・凝固能・BE、大動脈遮断中のCPR率などでpropensity score matchingを行いました。
また交絡因子調整し多変量解析も行なっています。

AORTA registryに登録された991人のうち、REBOAがzone 1に留置されたのが306人、RTが行われたのが685人でした。

鈍的なメカニズムはREBOA zone 1 21.1% vs RT 73.1%とRTに多いです(P<0.001)。ISSの平均は29(18-50)でした。
全体としてRTの患者の方が、より重症で、生理学的異常があり、予後が悪い結果でした。

112人(56ペア)が propensity score matchingに選ばれました。
選択・非選択症例の患者背景の違いは、選択症例にhigh-volume centerで治療を受けている数が多い、鈍的外傷が多い、生理学的な異常が少ない、CPRを要した頻度が少ない、搬送時間が長時間でした。

Primary outcomeです。
REBOA zone 1とRTの死亡率は78.6% vs 92.9%(log-rank P=0.02, Wilcoxon P=0.01)で、REBOA zone 1が有意に低い結果でした。

交絡因子(TBI、重症胸部外傷、重症骨盤外傷、来院時GCS、到着時CPR率、大動脈遮断開始時のGCS)調整後の多変量解析でも、RTはREBOA zone 1よりも死亡率が高かったです(aRR 1.25; 95%CI 1.15-1.36)。

propensity score matchingでは大多数の患者が除外されていることに注意が必要です。
またRTもREBOAも症例数が多い施設で行われていることも一般化できるとは言い難いです。

とはいえまたREBOAがRTに対する優位性を示しました。
大動脈遮断に特化した前向きレジストリを用いた研究であり、RCTが難しいことを考えると、説得力のある結果です。

外傷性心停止症例で急いで開胸しにいくよりも、急いでREBOAを挿入する、そうするべきかもしれません。

以上文献班より2022年の12月後半の文献紹介でした。
これでやっと2023年を迎えられる...
みなさま今年も文献班をよろしくお願いいたします!!

東京ベイ浦安・市川医療センター
山本 一太