2022.12.15

2022/12/15

12月前半の文献紹介は、沖縄県立中部病院の岡と福岡徳洲会病院の鈴木です。

前半は沖縄県立中部病院の岡です。
暑い沖縄から熱い文献をご紹介します。

①Clinical Policy: Critical Issues in the Evaluation and Management of Adult Patients Presenting to the Emergency Department With Acute Heart Failure Syndromes.
Ann Emerg Med. 2022 Oct;80(4):e31-e59.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36153055/ (無料で読めます)

米国救急医学会ACEP急性心不全クリニカル・ポリシーが発表されました。 2007年以来、15年ぶりです。

重要ポイントは以下の4つです。

↓ 1. 肺エコー は、病歴・身体検査と合わせて急性心不全を診断するのに有用。 (推奨レベル B 、クラス II 研究1つ、クラスIII研究8つ)

 肺エコーを使うと、診断精度が高まり、診断・治療までの時間が短くなる。

 

肺エコーは胸部単純X線やBNPよりも急性心不全の診断に正確。
 Bラインを探そう。

2. 利尿薬が必要そうならば、早期投与を検討してもよい。
 早期投与は、入院期間と院内死亡率の減少につながる可能性がある。
(ただし、クラス III 研究1つだけしかなく、容量負荷がなかった場合に有害になる危険性があるので、早期に投与すべきとまでは言えない。)
 (推奨レベル C、クラス III 研究1つ)

 利尿薬投与が遅れると、入院中の死亡率 (OR 1.01) と入院期間 (1.4 時間) がごくわずかに悪化する可能性がある。

3. 血圧が上昇している急性心不全に、高用量ニトログリセリンは安全かつ有効な治療法として考慮する。 (レベル C、クラス III 研究1つ)

 気管挿管・BPAPが必要になる割合が減り、ICU入室も減らせる。

4. 急性心不全で受診した患者を、安全に帰宅させられるかどうか、リスク層別化ツールだけに依存してはならない。
 帰宅させると危険な患者を拾い上げるには、オタワ心不全リスクスコアが役立つ。
 (推奨レベル B、クラスII研究1つ、クラス III 研究1つ)

 オタワ心不全リスクスコアは、30 日間の死亡率、 14 日間の重大な有害事象と臨床的判断の感度を高める (95.8% 対 70%)。
 (オタワ心不全リスクスコアは、2017年に発表された比較的新しいスコアです。)
……。
やべー。少しずつ知識がズレていました。
修正します。
やはりACEPは救急の学会だけあって、すぐに救急診療に役立ちます。

②Vinay Raoら.
Rethinking the Need for Nail Plate Removal: A Comparison of the Risks Between Standard Nail Bed Repair and Nonoperative Management
Ann Plast Surg. 2022 May 1;88(3 Suppl 3):S209-S213.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35513322/

爪を剥がすべきか?

症例A)
 ドアに指を挟んで受傷した。
 爪は剥がれておらず損傷はない。
 爪下血腫が爪全体の1/2以上ある。
 単純X線で末節骨骨折がある。

問題)
 将来の永久的な爪の変形を防ぐため、爪を剥がして爪床の裂創を縫合すべきか?

……
これまで、もし爪床の裂創がありそうならば、爪を剥がして爪床を縫合するよう言われていました。

具体的には、以下の場合、爪床の裂創がありそうだとわかっています。
・爪下血腫が爪の1/2以上
・爪下血腫を伴う末節骨骨折

今回の研究は、
米国レベル1外傷センターの単施設
上記のような爪床裂創が疑われる78人
後ろ向きコホート研究です。

結果です。
保存的治療38人は、爪を剥がして爪床を縫合した40人と比べて、
爪が変形してしまう割合は変わりませんでした。
(13% vs 23%, RR = 0.58, P= 0.40, 95% CI = 0.42 – 1.25)

……
今回の症例Aでは、爪を剥がさず保存的治療でよさそうです。

注意点として、すでに爪が剥がれている爪床の裂創は縫合すべきです。

後半は福岡徳洲会病院の鈴木です。

③Junichi Izawa, et al.
Outcomes associated with intra-arrest hyperoxaemia in out-of-hospital cardiac arrest: A registry-based cohort study.
Resuscitation. 2022 Nov 18;181:173-181.

心拍再開後のSpO2を高くしすぎない様にコントロールするのは今や常識だと思います。
では心肺蘇生中のPaO2はどの程度にするのが適切なのでしょうか?
この問題については十分なEvidenceが無かったのですが、日本のレジストリー解析から良い文献が発表されました。
JAAM-OHCAレジストリーに登録された18歳以上の内因性の来院時心肺停止症例で、心肺蘇生中にABGを採取した約16000例を対象に解析が行われました。

PaO2>300の高酸素血症群、PaO2が60~300のnormoxaemia群(以下normo群)、PaO2<60の低酸素血症群の3つに分けています。
機能予後良好(CPC1-2)となった割合は、低酸素血症群で0.5%、normo群で1.1%、高酸素血症群で5.2%でした。
低酸素血症群をベースにオッズ比を計算すると、normo群で2.09、高酸素血症群で5.04という結果でした。
これはROSCや1ヶ月生存率(または生存退院率)においても同様で、低酸素群よりもnormo群、normo群よりも高酸素血症群の方が良い結果となりました。
救急隊による気管挿管の比率は、低酸素血症群で9.8%、normo群で13.0%、高酸素血症群で19.2%でした。

レジストリー解析を解釈する場合、原因なのか結果なのかが混乱してしまう時があります。
今回、CPR中の「高酸素血症」→「予後良好」が結果として示されました。
少なくともPaO2が高い場合、「蘇生確率が高いかもしれない!」と考える材料としても良いのだと思います。逆にPaO2が低ければ、諦める材料の一つと考えて良いのではないでしょうか。

ただし「予後良好」の原因が「高酸素血症」と捉えて良いのか、注意が必要です。
例えば、現場で救急隊に気管挿管を行ってもらった方が良い様な気がします。しかし蘇生確率が高そうな患者を選んで挿管されていたために挿管患者の予後が良好であった可能性は残ると思われます。

ただ少なくともPaO2が高くなるような条件が望ましいと考えて、蘇生のシステムを構築していく方向性は間違っていない様に思いました。
また今回のレジストリーが日本発という点は重視すべきポイントだと思います。
救急隊が現場で死亡確認して搬送しない国も多く、日本で診療する際に他国のデータを当てはめて良いか、いつも迷います。今回は日本発のレジストリー解析ですから、日常診療の参考にしやすいのではないかと思います。
今後も日本発の研究がたくさん出てくることに期待したいですし、臨床研究を重ねることは我々の責務の1つなのでしょう。
(さぼらず研究も頑張りましょう・・・)

鈴木