2022.11.16

2022/11/16 文献紹介

EMA文献班 聖路加国際病院の宮本です。

全国旅行支援や円安の影響で日本人・外国人問わず各地の観光客も増え始め、救急外来も忙しくなってきたのではないでしょうか?

今回も救急外来診療に役に立ちそうな論文をピックアップしました!

ラインナップはこちら。
①抗血栓療法の有無は頭部打撲後の遅発性頭蓋内出血の発症率に影響なし?
②各ストマの合併症知っていますか?
③失神の臨床予測スコアの精度やいかに?やはり失神は一筋縄では行かなそう!
④指輪の外し方、マスターしましょう!

まずは聖路加国際病院 救急部 宮本颯真から二つ紹介します。

①Flaherty S, Biswas S, et al. Delayed TBI Hemorrhage Research Group. Findings on Repeat Posttraumatic Brain Computed Tomography Scans in Older Patients With Minimal Head Trauma and the Impact of Existing Antithrombotic Use. Ann Emerg Med. 2022 Oct 31:S0196-0644(22)00580-7.
doi: 10.1016/j.annemergmed.2022.08.006. PMID: 36328853.

皆様は、頭部CT検査を行い、有意な所見がなかった頭部外傷患者に遅発性頭蓋内出血(dICH)の発生頻度を聞かれた時や頭部CTフォローの必要性を聞かれた時、どのように答えていますか?

特に本邦では抗血栓療法を受けている高齢者の割合も増えてきており、dICHの心配をする患者や患者家族も多いのではないでしょうか?

今回紹介する論文では抗血栓療法の有無がdICHの発症頻度に差をもたらすのかを検討しています。

軽度の頭部外傷(鈍的外傷, 初回のGCSが14 or 15, 初回CT検査で陰性, AIS>2の他の外傷を伴わない)で医療機関を受診した55歳以上の患者で、2017年から2019年に24の外傷センターを受診した計2950名が解析対象となりました。

そのうち949名(32.3%)が受傷前に抗血栓療法を受けており、受けていない患者群と比較すると高齢者が多く含まれていました。

2950名のうち280名(9.5%)の患者が頭部CTの再撮像による評価を受け、そのうち21人(7.5%)がdICHを認めていました。
抗血栓療法を受けていた154名中6人(3.9%)で、抗血栓療法を受けていなかった126名中15名(11.9%)でdICHを認められ、その割合は抗血栓療法を受けている患者の方がむしろ低い結果でした。
なお、その発症率は抗血栓薬の種類によりませんでした。

頭部CTを再撮像しなかった患者に臨床的に重大な頭蓋内血腫が生じなかったとすると、
dICHの発症率は抗血栓療法を受けていない患者では0.7%(15/2001)、抗血栓療法を受けている患者では0.6%(6/949)と推測され、いずれも1%未満であり2群間で有意な差はありませんでした。

ただ、現時点ではコストや患者の手間を考えると、抗血栓療法の有無に関わらず軽傷頭部外傷患者の頭部CTフォローの必要性は低そうであり、再診基準をきちんとお伝えすることでより適切な患者に絞って頭部CTフォローの撮像を行うことができそうです!

②Babakhanlou R, et al. L Stoma-related complications and emergencies. Int J Emerg Med. 2022 May 9;15(1):17.
doi: 10.1186/s12245-022-00421-9. PMID: 35534817; PMCID: PMC9082897.
ストマの構造やその合併症に自信がなかったり、
ストマ関連合併症を疑う患者の診察に苦手意識があったりしませんか?

もっと自信をつけたい、というあなたにぴったりの論文を紹介します!

この論文では、
・Loop ileostomy
・Hartmann’ s pouch
・3種の尿路ストーマ(失禁型2種(尿管皮膚瘻, 回腸/結腸導管), 非失禁型1種(新膀胱造設後))
に関して、
独特なタッチの図解とともに
その構造や合併症に関して説明してくれています。

一度見たら忘れにくい図解と一緒にストマに関する知識を整理してはいかがでしょうか?

次は京都府立医大の中村侑暉から下記の2文献です。

③Voigt RD, Alsayed M, et al. Prognostic accuracy of syncope clinical prediction rules in older adults in the emergency department. J Am Coll Emerg Physicians Open. 2022 Oct 25;3(5):e12820.
doi: 10.1002/emp2.12820. PMID: 36311342; PMCID: PMC9597095.

失神の診療をどのようにされていますか?
来院時には症状が収まっていることがほとんどで、病歴聴取が主体になるものの、その病歴がはっきりしないことも多々あり、オーバートリアージせざるを得ないこともあるかと思います。

今回の文献は、メイヨークリニック(8万件/年の救急受診者数)で行われた単一施設での研究です。
失神の臨床予測ルールを用いて、重篤な転帰をいかに回避できるか、ということを調べた後ろ向きコホート研究になります。

今回比較された臨床予測ルールはSFSR (San Francisco Syncope Rule)、CSRS (Canadian Syncope Risk Score)、FAINT scoreの3種類です。

2019年1月1日から2020年1月1日までに失神やそれに近い主訴で救急外来を受診した60歳以上が対象となりました。アルコール中毒、薬物中毒、てんかん発作、脳卒中、一過性脳虚血発作、失神前の頭部外傷、低血糖、来院時にすでに急変していた、急性心筋梗塞などの重篤な診断がすぐについた場合は除外され、404人が解析対象となりました。 主要評価項目は、救急外来受診から30日以内の、死亡、重篤な心疾患、大動脈解離、重大な出血、蘇生行為を必要とする、といった重篤な転帰の有無でした。最終的に、解析対象となった404人のうち、380人が30日間のフォローアップを終え、実に44人が重篤な転帰を示しました。

臨床予測ルールは、以下の基準で陽性となり、重篤な転帰との関連を調べました。 ・SFSRでは、来院時呼吸苦、来院時収縮期血圧<90mmHg、Ht<30%、心不全の既往、心電図異常のいずれかが該当
・CSRSでは、血管迷走神経反射の素因(-1点)、心臓病の既往(+1点)、来院時収縮期血圧<90mmHgまたは>180mmHg(+2点)、トロポニン上昇(+2点)、軸異常(+1点)、QRS延長(+1)、QTc延長(+2点)、救急医が血管迷走神経反射らしさを感じた(-2点)、救急医が心臓病らしさを感じた(+2点)で1点以上
・FAINT scoreでは、心不全の既往、不整脈の既往、心電図異常、NT-pro BNP高値、高感度トロポニン上昇のいずれかが該当(但し、ほとんどでNT-pro BNPが測定できていなかったため、同項目を抜いた修正FAINT scoreで評価)

結果は以下の通りです。
・San Francisco Syncope Rule
380人のうち288人(75.8%)が陽性であった。
重篤な転帰を示した44人のうち、6人は陰性であった。
→感度86.4%、特異度25.6%、陰性尤度比0.53

・Canadian Syncope Risk Score
380人のうち299人(78.7%)が陽性であった。
重篤な転帰を示した44人のうち、5人は陰性であった。
→感度88.6%、特異度22.6%、陰性尤度比0.50

・修正FAINT score
380人のうち318人(83.7%)が陽性であった。
重篤な転帰を示した44人のうち、4人は陰性であった。
→感度90.9%、特異度17.3%、陰性尤度比0.53

これらの中では、FAINT scoreがもっとも高い感度を示しましたがなんと、いずれの臨床予測ルールも陰性尤度比≧0.5と、酷い結果でした。
さらに、陰性と判断し除外しても、10人に1人は30日以内に重篤な転帰を辿ることが示されました。
欧米の失神に関するガイドラインでは、いずれの臨床予測ルールも、リスク層別化には使用すべきではないとされていますが、その声明を裏付ける結果となりました。予測ルールを参考にすることはできても、臨床医の判断に取って代わることはできないと結論付けられています。

Limitationとしては以下が挙げられます。
・後ろ向き研究であるため、情報が不足していることがある。
・患者の転帰や研究目的が盲検化されていない。
・単一施設での研究であり、母集団の偏りがある。(96%が白人)
・重篤な転帰を示したのが44人と比較的少なかったため、予測ルールの精度の評価が不十分な可能性がある。
・NT-pro BNPを使用できず、純粋なFAINT socreを用いていない。

やはり、病歴聴取を主体とした診療スタイルに各種指標を参考に判断を下す流れは王道、ということで再認識しました。
これらの他にも多くの予測ルールが登場しており、診療の難しさを物語っているように感じます。今後、新たなる予測ルールが登場するのか、はたまた…。
オーバートリアージ気味に経過観察入院を勧めるのは妥当と言えそうで、仮に帰宅させるとしても、十分にリスクを説明するべきなのでしょう。

④Gottlieb M, Casteel C, Ramsay N. Ring Removal: A Comprehensive Review of Techniques. J Emerg Med. 2022 Aug;63(2):272-282.
doi: 10.1016/j.jemermed.2022.04.013. Epub 2022 Aug 28. PMID: 36045023.

指輪が外れなくなった時に、泣く泣くリングカッターを使用した経験は、ありますか?
本文献ではリングカッターに至る前の段階で試みるべき指輪除去の方法が記載されています。簡単にまとめていますが、写真も掲載されており、わかりやすいので、一度文献も覗いてみてください。

全体的に試みる流れとしては、以下の通りです。
①潤滑剤を指と指輪に塗布する。
②浮腫が強い場合は「圧迫法」で浮腫の除去を試みる。
③牽引法、回転法を試みる。
④リングカッターを使用する。

・潤滑剤の使用
潤滑剤の例として、ワセリン、石鹸、外科用潤滑剤、ガラスクリーナー(Windex®︎)が挙げられています。
特にガラスクリーナーは指輪の表面、皮膚の表面に付着した汚れを除去し、摩擦低減効果が高いようです。日本製でいうと、スクラビングバブル®︎などでしょうか。資材課や施設課などに問い合わせれば、持っているかも…?
潤滑剤で指輪のグリップ力が低下するため、ガーゼや滑りにくい手袋の装着が推奨されます。

・圧迫法
ゴム製の止血帯、ペンローズドレーン、弾性包帯、自己接着性包帯を使用します。
患指全体を帯で巻いた後に上肢を挙上、患部を氷で冷却し、10-15分後に帯を外して、指輪を外します。
専用の器具を用いた圧迫法の一例です。
 

・牽引法1(キャタピラー法)
指輪を掌側から押し上げて、背側を進め、背側から押し下げて、掌側を進めることを交互に行います。

・牽引法2(糸引き法)
2-0か3-0以上の太さの糸(輪ゴムでも代用可)を用いて、2〜8ヶ所を指輪にくくりつけます。糸を2〜4kgの力で助手が牽引し、術者は母指と示指で指輪を挟んで、ゆっくりと指から引き抜いていきます。その際に指輪を進行方向前後に動かすと抜けやすくなります。

・牽引法3(サージカルグローブ法)
サージカルグローブの指部分を切って患指にはめて、指輪の下を通します。(鉗子など使用するとやりやすい)グローブの近位側の端を掴んで、遠位側に牽引して指輪ごと引き抜きます。
軟部組織損傷を合併している際に使用しやすいです。

・回転法
麻ひも、外科用縫合糸、テープ、止血帯、ガーゼ、酸素マスクストラップ、などを使用します。(日本ではたこ糸がよく用いられているでしょうか…)
ひもを指輪の下に通し、指の近位側→遠位側(浮腫の位置によっては遠位側→近位側)に向けて強く巻き付けていきます。ひもの近位端を指の先端に向かってほどき進め、指輪を押し出していきます。
圧迫法と回転法を同時に実践している簡潔なYouTube shortの動画になります。
https://www.youtube.com/shorts/KNXnox_ODoc

・リングカッター
骨折や開放創、関節炎、神経障害、血管障害を伴う場合に、迅速に指輪の除去が必要な場合は、リングカッターの使用が望ましいです。
電動で切断する場合は熱傷を生じる可能性があり、水をかけるなどして注意が必要です。

・タングステン製の指輪
硬い素材の指輪はリングカッターでは切断できません。ロッキングプライヤーという工具を用いて破壊することで外せます。
https://www.youtube.com/watch?v=poM423pewRE

・歯科用ドリル
同じく、硬い素材では歯科用ドリルが切断に効果的であるようです。
https://www.youtube.com/watch?v=80CHzh2_lmE

今回の文献紹介は以上になります。

今後ともEMAをよろしくお願いします。