2022.08.16

2022/08/16 文献紹介

今月前半の文献紹介は、
京都府立医科大学附属病院 救急医療科/ 西伊豆健育会病院 整形外科 中村侑暉と聖路加国際病院 救急部・救命救急センターの宮本颯真がお送りします!

世間は夏休みに突入し、救急外来には旅行者もちらほらと訪れるようになりました。
今年の夏も非常に暑く、どこにいてもうだるような日々が続きますが、ちょっと涼しいところで外来診療に役に立つ以下の文献を眺めてみてはいかがでしょう!?

① FoCUSを使ってフロセミドの投与はお早めに
② Wake-Up Strokeに対するt-PAと血栓除去術の有効性と安全性は?
③ 肩や胸部の外傷の鎮痛にキネシオテーピングは有効
④ その感染性結膜炎、細菌性?ウイルス性?

第25回 EMA meeting ER×TIME 時間軸で考えるER診療(https://www.emalliance.org/event/meeting/1 )の開催が9月23日に迫っていますが、聖路加 宮本からは時間軸を意識した2文献を紹介します。

① 「FoCUSを使ってフロセミドの投与はお早めに」 Association between focused cardiac ultrasound and time to furosemide administration in acute heart failure. Yun Ang Choi , et al. Am J Emerg Med. 2022 Sep;59:156-161. doi: 10.1016/j.ajem.2022.07.020. Epub 2022 Jul 16. PMID: 35870373.
ttps://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35870373/

フロセミドは強力なナトリウム利尿を引き起こすことにより前負荷を軽減する作用と、プラスタグランジンを介した静脈系の血管拡張を生じる作用を有し、言わずと知れた第一選択の利尿薬です。
病院到着から初回フロセミド投与までの時間(door-to-furosemide time)の短縮(<60min)が鬱血時間を短縮させ、院内死亡率を減少させたとの報告もあります(PMID: 28641794)。

皆様は、体液貯留を伴うと考えられる急性心不全に対してどのようなタイミングでフロセミドの投与を行っているでしょうか?

現病歴とエコーで疑わしいと判断した時、ご時世も考慮してCOVID19肺炎をはじめとした感染性肺炎の評価をしてから、循環器内科にコンサルトしてから、など施設により慣習は様々かと思われます。

そこで今回、急性心不全が疑わしい患者に対して心臓超音波(FoCUS)を併用していた症例は、そうでない症例と比較して静注薬を用いた治療介入がどれほど早くなっていたのかを検討した論文を紹介します。

対象は、急性心不全の病名で入院が必要となった患者のうち心不全に対して静脈薬投与を受けた787名です。

そのうち116名が、トリアージ後2時間以内にFoCUSでIVC径の拡大や胸水貯留、心収縮の低下を評価され、薬剤の投与を受けました。

トリアージからフロセミド投与までの時間をprimary outcomeと、その他薬剤(ニトログリセリンや強心薬)の投与までの時間をsecondary outcomeとしています。

結果、FoCUS(-) vs FoCUS(+)では
・フロセミド:
131.0min(71.0 – 229.0min) vs 112.0min(65.0 – 163.0min) (p-value:0.021)
・ニトログリセリン:
144.0min(59.0 - 257.0min) vs 104.5min(56.5 – 187.5min) (p-value:0.066)
・強心薬:
302.0min(159.8 – 390.0 min) vs 150.0min(81.0 – 282.0min) (p-value:0.075)
・静注薬のいずれか:
119.0min(58.0 – 210.0min) vs 93.0min(51.5 - 154.5min) (p-value:0.01)
・disposition決定まで:
158.0 min(121.0 - 215.0min) vs 132.5min(102.0 – 168.0min) (p-value<0.001)

とFoCUSによりフロセミド静注までの時間が有意に短くなり、その他薬剤投与までの時間も有意に短い、もしくは短くなる傾向を認めました。

2時間以内にフロセミドを投与できた症例はFoCUS(+)群でOR:1.63(95%CI:1.04-2.25)と有意に増加しており、ED滞在時間も短くなりました。

病院到着後1時間未満のフロセミドの投与が必要と言われる中で、投与までの時間が長いようにも感じますが、今回の論文ではトリアージからフロセミド投与までの時間を検討しており、日本での感覚とはやや異なるのかもしれません。

いずれにしろ、エコーを正しく使って的確に心不全・呼吸不全の原因を見抜き、必要であれば早期にフロセミドを使いたいものです!

② 「Wake-Up Strokeに対するt-PAと血栓除去術の有効性と安全性は?」
What is the Efficacy and Safety of Intravenous Thrombolysis and Thrombectomy Among Patients With a Wake-Up Stroke? Michael Gottlieb , et al. Ann Emerg Med. 2022 Aug;80(2):165-167. doi: 10.1016/j.annemergmed.2022.02.013. Epub 2022 Apr 21. PMID: 35461722.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35461722/

「目が覚めたら片側の四肢が動かなくなっていた」
「おはよう、が言いたいのに舌が回っていない気がする」

現病歴を聴取した際に、wake up strokeが疑われるヒヤリとするワードです。ただ、脳梗塞の5人に1人はwake up strokeと報告されており、脳梗塞の多くの割合を占めます。

発症時刻不明の脳梗塞に対するrt-PAや機械的再灌流(Mechanical Thrombectomy:MT)に関する有効性は、その普及や著しい技術の進歩により数多く報告されています。

脳卒中ガイドライン2021では、
「rt-PA : MRIでDWI/FLAIR mismatchがあれば考慮(推奨度C エビデンスレベル中)」 となっており、
MTの適応に関しては、wake up strokeに関しては触れておらず、
「主幹部であれば最終健常確認後16時間以内の場合、推奨度A エビデンスレベル中、24時間以内の場合、推奨度B エビデンスレベル中。前方循環系の主幹部では発症6時間以内であればNIHSSやASPECTS、発症前mRSを考慮して施行(推奨度C エビデンスレベル低)、脳底動脈では症例ごとに慎重に適応を相談(推奨度C エビデンスレベル低)」
となっています。

2021年にCochranでwake up strokeに対するrt-PA/MTのレビューが出ていましたがみなさま確認されたでしょうか。(https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD010995.pub3/full

今回そのレビューに関してすっきり読みやすくまとまった論文がAnnals of Emergency Medicineに載っていたので紹介します。

rt-PAの治療介入群ではMRI:DWI/FLAIR mismatchや、DWI/PWI不一致などが介入適応として用いられ、MTの治療介入群は内頸動脈または中大脳動脈近位部閉塞が適応として用いられています。

それぞれの各項目におけるRRは、
・rt-PA:
 mRS0-2: 1.13(1.01-1.26) 症候性頭蓋内出血:3.47(0.98-12.26) 死亡:0.68(0.43-1.07)
・MT:
 mRS0-2:5.12(2.57-10.17) 死亡:0.68(0.47-1.07)

でした。
rt-PAに関しては、出血のリスクが多いものの死亡率を低下させる可能性があります。ただし、研究により介入適応が異なっており、途中で研究が中止となっているものがあるため解釈は難しそうです。
MTに関しては、内頸動脈と中大脳動脈に限ってはいますが、mRSを改善させ、死亡率も低下させる結果となりました。

rt-PAに関しては現状ガイドラインに従う方が吉でしょうか。

MTに関しては余程のlong sleeperでなければ転帰を好転させてくれそうです!

中村からは救急外来診療での処置や処方を変えるかもしれない興味深い2文献を紹介します!
③「肩や胸部の外傷の鎮痛にキネシオテーピングは有効」
Kinesiotaping for Acute Pain Due to Uncomplicated Traumatic Injury of the Shoulder or Chest Wall. Bakker ME, et al. Am J Emerg Med. 2022 Aug;58:197-202. doi: 10.1016/j.ajem.2022.05.057. Epub 2022 Jun 3.
PMID: 35700617.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35700617/

体幹部の外傷による疼痛コントロールに難渋した経験はありませんか?

四肢の骨折などの外傷であれば、シーネやギプスによる固定で疼痛をコントロールできる場合が多いですが、肩や胸部は固定が難しいです。

こうした肩や胸部の外傷に伴う疼痛が原因で若年者が合併症を起こすことは稀ですが、高齢者では可動性減少に伴うADL低下や拘縮、呼吸抑制に伴う無気肺や低酸素血症などの合併症を生じることもあります。

これまでスポーツ医学などでキネシオテーピングの鎮痛効果については一定の評価がありましたが、救急外来での評価はされたことがありませんでした。キネシオテーピングとは、いわゆる、「テーピング」などとも称される、伸縮性のある綿やアクリルのテープです。

今回の文献は、肩や胸部の外傷に対して、救急外来で鎮痛薬に加えてキネシオテーピングの除痛効果を調べた、オランダでのRCTになります。

対象者は肋骨骨折、肋骨挫傷、肩鎖関節の損傷、鎖骨骨折、上腕骨近位部骨折などで救急外来を受診した18歳以上の外傷患者57名で、3本以上の肋骨骨折や上位肋骨骨折、入院の必要な患者などは除外されました。

対照群にはアセトアミノフェン1000mg+ナプロキセン500mgによる経口鎮痛薬が投与(+肩の外傷にはスリング装着も追加)され、介入群ではさらにキネシオテーピングが追加されました。

痛みの程度としてNumeric rating score(NRS) を治療前→治療15分後→4日目で評価しています。
対照群:5.4→5→4.74
介入群:5.16→4.47→2.86でした。
治療前、治療15分後ではNRSに有意差はありませんでしたが、4日目で介入群での疼痛コントロールが良好であり有意差が出る結果となりました。

患者数が少ないこと、治療によるプラセボ効果としてのバイアスが生じている可能性は否定できないことなどLimitationはあるものの、一定の効果が示されるものとなりました。

テーピング法についてYouTubeでの動画が添付されていましたので、ご参照ください。
肋骨骨折、肋骨挫傷:https://youtu.be/7cLAzg1s_Ww

肩鎖関節損傷:https://youtu.be/gtC1GSc8lzE

鎖骨骨折:https://youtu.be/zjyPaYfwq1M

上腕骨近位部骨折:https://youtu.be/3HyyeP6WF0Q

テーピング実施は数分で完了する手技で、(私自身は経験したことのない手技です…)動画で見ると思ったより簡単でした。忙しいERで実際に行うかは悩ましいところですが…。現時点では日本でのテーピングの保険適応はありませんが、除痛効果に期待して実施することも検討してみてはいかがでしょうか。

④「その感染性結膜炎、細菌性?ウイルス性?」
Does This Patient With Acute Infectious Conjunctivitis Have a Bacterial Infection?: The Rational Clinical Examination Systematic Review. Johnson D, et al. JAMA. 2022 Jun 14;327(22):2231-2237. doi: 10.1001/jama.2022.7687.
PMID: 35699701.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35699701/

日常診療で結膜炎を診察する機会はあるでしょうか。感染性結膜炎と診断した場合、抗菌薬投与はどうしていますか?

結膜充血に伴って眼脂を認めれば、臨床的に感染性結膜炎と診断できますが、細菌性なのか、ウイルス性なのかによって抗菌薬投与の必要性が異なります。しかし、その判別は難しく、過去に行われた研究では、臨床的に細菌性結膜炎が疑われた157例中で、実際に培養検査で細菌が検出されたのは57例(32%)のみという結果があります。

ウイルス性結膜炎では抗菌薬投与が不要であるにも関わらず、過剰投与されることによって、耐性菌発生、アレルギー反応、費用の増加など悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。

今回の文献は、1946年〜2022年に出版された文献をもとに、ウイルス性結膜炎、細菌性結膜炎を同定し、それぞれの頻度や症状をまとめたシステマティックレビューとなります。ジェネラリストが、いかに診断に近付けるかを目指したものです。

診断は、ウイルス性結膜炎についてはPCR検査を、細菌性結膜炎については細菌培養検査を用いて行われました。結果は以下の通りでした。

小児:細菌性結膜炎71%、ウイルス性結膜炎16%
成人:ウイルス性結膜炎78%、細菌性結膜炎16%
小児では細菌性が多く、対照的に成人ではウイルス性が多いようです。

最終的にウイルス性結膜炎と診断された中で、頻度が高い臨床所見として、結膜濾胞(77%)、水っぽい眼脂(77%)、眼瞼腫脹(59%)、両側性(44%)、咽頭炎(43%)、結膜充血(35%)がありました。また、ウイルス性結膜炎の診断における陽性尤度比(95%信頼区間)が高い所見として、咽頭炎(5.4-9.9)、耳介前リンパ節腫脹(2.5-5)、red eyeの患者との接触歴(1.6-3.7)がありました。

一方で、細菌性結膜炎で頻度が高い臨床所見として、起床時の眼瞼の張り付き(86%)、膿性眼脂(67%)、両側性(59%)がありました。また、細菌性結膜炎の診断における陽性尤度比(95%信頼区間)が高い所見として、膿性眼脂(1.7-2.6)、中耳炎(1.5-4.4)がありました。

ウイルス性、細菌性いずれかを確実に診断する臨床所見はなかったものの、どちららしいかを判断する指標は複数存在し、これらを参考に判断することが可能と思われます。ウイルス性結膜炎に対して抗菌薬投与は避けるべきですが、細菌性結膜炎が疑わしい場合には治療期間の短縮、他者への感染予防のために抗菌薬投与が望ましいとされます。

眼科医への紹介が望ましい状態として、新生児の結膜炎、重い症状、視力低下、治療抵抗性、診断の不確実性などがありますが、ウイルス性結膜炎が疑わしい場合も、ヘルペス関連の結膜炎や角膜浸潤などの晩期合併症の評価のために紹介が望ましいです。わからないから抗菌薬投与、ではなく、眼科医への紹介という選択も推奨されていました。

ウイルス感染症に対する抗菌薬全身投与の再考が叫ばれて久しいですが、眼内への投与についても同様の考えが浸透してきているようですね。眼科診療における抗菌薬投与について、一考してみるきっかけとしていかがでしょうか。

これからもEM Allianceをお願いします!

宮本 颯真