2022.08.02

2022/08/01 文献紹介

 

EMA文献班の山田浩平です。8月に入ってしまい、申し訳ありません。
暑さとコロナで辟易としている方も多いかと思いますが…気分転換にホットな文献に触れてみてはいかがでしょうか?

今回は健生病院(聖隷浜松病院)の徳竹雅之先生と、防衛医大/自衛隊の山田浩平がお送りします!
紹介する文献は以下の4つです。

①タゾピペバンコは真の腎障害の原因にはならない⁉
②HFrEFにジルチアゼム使わないでね!
③PERCの「4週間以内の外傷や手術歴」は肺塞栓除外に満足な材料なのか!?
④小児の橈骨遠位torus骨折、包帯固定でイケるかも!?

①タゾピペバンコは真の腎障害の原因にはならない⁉

Miano TA, Hennessy S, et al. Association of vancomycin plus piperacillin-tazobactam with early changes in creatinine versus cystatin C in critically ill adults: a prospective cohort study.
Intensive Care Med. 2022 Jul 14. Epub ahead of print.
PMID: 35833959. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35833959/

みなさんは敗血症に対してVCM+PIPC/TAZを使いたくなるシーンはありますか?

歴史的にはこれらの抗菌薬を併用することで、Cre上昇で定義されるAKIの発生率が増加するとされています。
よって、一般的には推奨されていないものと思われますが、これってほんとなんでしょうか?

Creではなく、より腎機能を正確に反映するとされるシスタチンC (Cys-C)を用いて検証した初めての研究を紹介します。

VCM+CFPMまたはVCM+PIPC/TAZで48時間以上治療された敗血症患者を対象とした前向き研究です。
CFPMは経験的抗菌薬としてよく使われるそうです。VCMとの併用でPIPC/TAZよりもAKI発生リスクが低いとされているためにCFPMを使用した群が組み込まれました。

腎機能を評価するバイオマーカーとしてCre, Cys-C, BUNを抗菌薬投与前と投与2日後に測定しています。
これらの結果がprimary outcomeとして設定されました。

739人の患者が対象となり、そのうち192人にはCys-Cが測定されていました。
VCM+PIPC/TAZで治療された群ではCreが有意に上昇し、Creにより定義されたAKIの発生率は増加しました。
ここまではこれまでの研究結果と同様です。

Cys-Cはどうでしょうか?

Cys-CやBUNには有意な変化はなく、患者中心のアウトカムである透析導入率や死亡率に関しても有意差はありませんでした。

これまでの固定観念を覆す結果となりました。
アレルギーなどでどうしてもPIPC/TAZを使用したいシーンもあるので、これは初期診療においてだいぶストレスフリーな結果です。
PIPC/TAZが投与されている入院患者にVCMを使ってMRSAカバーをしたいときにも背中を押してもらえるかもしれません。

そもそもVCMには腎毒性があることは事実としてわかっているので、
PIPC/TAZを変更するというよりはVCMを他の抗MRSA薬に変更できるかを検討するほうがいいのかもしれませんね。

「VCM+PIPC/TAZのCre上昇はST合剤みたいに偽性高値だからね~」なんていう日がくるんでしょうか。

研究の蓄積を心待ちにしたいと思います。

②HFrEFにジルチアゼム使わないでね!

Hasbrouck M, Nguyen TT. Acute management of atrial fibrillation in congestive heart failure with reduced ejection fraction in the emergency department.
Am J Emerg Med. 2022 Aug;58:39-42.
PMID: 35623182. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35623182/

先日、こんな報告を耳にしました。
「入院している患者さんの頻脈性心房細動には、ジルチアゼムを静注してrate controlをすることが多いです」

このアクションに警鐘を鳴らす研究を今回紹介します。

非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬であるジルチアゼムやベラパミルには陰性変力作用があります。
そのため、HFrEFを合併している患者への使用は避けるべきであるとAHAから提言されています。

…知ってましたか?
入院中の患者さんではHFrEFを伴うことは日常茶飯事なので、知っておかなければなりません。

ただし、上記推奨を導くエビデンスはあまり存在していないのが現状です。

本研究は、HFrEFを有する患者を対象に、頻脈性心房細動(AF with rapid ventricular response)のERにおけるrate control薬剤としてジルチアゼムまたはメトプロロールを静注して、有害事象の発生率を比較する目的で行われた単施設後ろ向き研究です。

125人が組み入れ基準を満たし、およそ半数ずつ検討されました。

4時間以内に酸素需要または48時間以内に強心薬投与を要する状態と定義される心不全症状の増悪は、ジルチアゼム群で有意に多く発生しました(33% vs 15%, P=0.019)

怖い結果ですね。結構簡単に(何も考えずに)Ca拮抗薬を使ってしまっていませんか?
非専門医だとHFrEFの診断も難しいことがあるので、特に高齢者や心疾患の既往がある患者には避けておいたほうが無難だと思います。

単施設後ろ向きの小規模な研究でしたが、普段の診療を見直すきっかけになるかと思い紹介しました。

Do no harmが原則なので、「頻脈性心房細動にとりあえずCa拮抗薬」のアクションはNGと心得ておきましょう。

③PERCの「4週間以内の外傷や手術歴」は肺塞栓除外に満足な材料なのか!?

Jordan Bruno X, Koh I, et al. Venous thrombosis risk during and after medical and surgical hospitalizations: The medical inpatient thrombosis and hemostasis (MITH) study.
J Thromb Haemost. 2022 Jul;20(7):1645-1652.
PMID: 35426248.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35426248/

肺塞栓の最新のレビューがNEJMから出ていました(PMID: 35793208.)。
EMAのメーリスでも西伊豆健育会病院の仲田先生より解説が出ています。必読です!

さて、ここで取り上げられていたPERC(Pulmonary Embolism Rule-out Criteria)は、
血液検査なしに造影CTを撮る必要がない患者をふるい落とせる優秀なclinical prediction ruleです。

そのうちの1項目として、「4週間以内の外傷や手術歴がないこと」が挙げられています。

ここに関するツッコミ論文が本研究になります。

バーモント大学医療システムのプライマリケア患者を対象とした後ろ向き試験です。

82375人の患者が観察対象となり、4.3年間追跡されました。
55220例の入院と713例のVTEが発生したことが確認されました。

なお、この地域にはこの病院しかないため、地域住民の大きな医学的イベントが研究中に抜けてしまう可能性が低いと判断されています。

最近の入院歴がない人のVTE発生率は1.4人/1000人年でしたが、
入院中:71.8人/1000人年(調整後のHR 38.0, 95% CI 28.0-51.5)
退院から1ヶ月後:35.1人/1000人年(aHR 18.4, 95% CI 15.0-22.6)
退院から2ヶ月後:11.3人/1000人年(aHR 6.3, 95% CI 4.3-9.0)
退院から3ヶ月後:5.2人/1000人年(aHR 3.0, 95% CI 1.7-5.4)
という結果になりました。

リスクは内科的治療や外科的治療に関わらずほぼ同等だったそうです。

PERCでは、4週間以内の外傷や手術歴は重要視されています。
本研究によれば、VTE発生リスクは入院中が最も高く、少なくとも退院3か月後まではリスクが上昇していることがわかりました。

機械作業的に4週間を画一的なcutoffにせず、少なくとも3か月程度まではリスクがあるかもと思って診療し、
その他のリスクやバイタルサインなどにも応じて臨機応変に考える必要がありそうです。

④小児の橈骨遠位torus骨折、包帯固定でイケるかも!?

Perry DC, Achten J, Knight R, et al.; Immobilisation of torus fractures of the wrist in children (FORCE): a randomised controlled equivalence trial in the UK. Lancet. 2022 Jul 2;400(10345):39-47. PMID: 35780790.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35780790/

小児の骨折では、骨皮質の破綻がない「torus骨折(膨隆骨折)」があります。何かしらの固定をすることが多いですが、固定方法やフォロー期間などは決まったものはありません。ギプス固定、シーネ固定、包帯固定などで治療効果を比較した(どの固定でも同等という結論)Cochrane review(PMID:30566764)がありますが、エビデンスの質は「低い」か「非常に低い」でした。

そこで今回、イギリスの大小様々な病院でRCTが行われました。
デザインの概要は、

P: 4〜15歳、レントゲンで橈骨遠位のtorus骨折があった患児(尺骨骨折の有無は問わない。骨皮質の破綻あるものは除外)
I:包帯固定(包帯巻くだけ)、固定の解除は家庭の判断。決まったフォローアップなし。
C:ギプス固定、シーネ固定など「しっかりした固定」。フォローなどは従来の施設基準で。
O:受傷3日目の疼痛(Wang-Baker scale、0-10で評価)、その他7日後の疼痛、QOL、親の満足度など

です。

489人が包帯固定群、476人が硬い固定群でした。
プライマリーアウトカムである受傷後3日目の疼痛は、包帯群で3.21点(SD 2.08)、ギプス・シーネ固定群で3.14点(SD 2.11)と同等でした。
その他の結果は、親の満足度が受傷1日目で包帯群で高かった他は、2群間で差はありませんでした。

私もtorus骨折にはシーネ巻いちゃうことが多いですが、必要ないのかも知れませんね!
骨折と分かっているのに通常の包帯を巻くだけなんて(しかも救急外来で巻かなくてもOK!?)…と驚いてしまいました。

本研究は、包帯群→硬い固定群のクロスオーバー率が高めであること、医療者も親も「しっかり固定の方が安心」という想いが背景にあるかも知れないこと、などの問題がありますが、面白いRCTではないでしょうか!?
興味がある方は是非本文をご覧ください。