2022.06.15

2022/06/15 文献紹介

6月前半の文献紹介は、沖縄県立中部病院の岡と、福岡徳洲会病院の鈴木です。
沖縄と福岡の南国コンビで、4つの論文を紹介します。

前半は沖縄県立中部病院の岡です。
暑い沖縄から熱い文献をご紹介します。

① Alberto Papiら. Albuterol-Budesonide Fixed-Dose Combination Rescue Inhaler for Asthma
N Engl J Med. 2022 Jun 2;386(22):2071-2083. doi: 10.1056/NEJMoa2203163. Epub 2022 May 15.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35569035/

喘息発作のとき、サルタノール®︎(短時間作用型β2刺激薬SABA)を処方しますか?

SABAは便利ですが、使いすぎると危険な薬です。
過度にSABAに頼ってしまうと喘息発作と死亡リスクが悪化します。
(DOI:10.1183/13993003.00542-2020)
しかし、患者は増悪の予兆があってもSABAだけに頼ってしまいがちです。
(DOI: 10.1186/1471-2466-6-13)

ぎょえ。

過去の研究で、発作時レスキュー治療として
吸入ステロイドICS/長時間作用型β2刺激薬(LABA)合剤は、
SABAと比ベ、
喘息増悪リスクを低減するということがわかっています。

国際ガイドラインでは、発作時のレスキュー薬処方として、ICS/LABA(ホルモテロール)を第一に推奨しています。
(DOI: 10.1183/13993003.02730-2021)

ICS/LABA(ホルモテロール)の日本の商品名は
・シムビコート®︎
です。

「あれ、ICS/SABAの合剤は??」
…実は、これまで製品が存在しませんでした。

今回の論文は、NEJMから。
ICS/SABAの合剤を開発した製薬会社がスポンサーとなって行われた多施設RCTです。
過去1年間に重症喘息増悪を経験した4歳以上の3132人が対象でした。

・ICS高用量/SABA合剤
・ICS低用量/SABA合剤
・SABA単剤
の3群で比較されました。

結果、
ICS高用量/SABA合剤は、SABA単剤群より重度の発作が26%減少しました(HR 0.74; 0.62-0.89)。
一方、
ICS低用量/SABA合剤は、有意差はありませんでした(HR 0.84; 0.71-1.00)。

今後、きっと
ICS/SABA合剤 vs. ICS/LABA合剤
の比較スタディがされるんでしょうね〜。
楽しみです。

岡正二郎

後半は福岡徳洲会病院の鈴木です。
福岡も梅雨入りして、おとなしく部屋で論文を読む時期になりました。
皆さんの地域では梅雨の時期に外傷は増えますか?
今回は外傷関連の3文献をお届けします。

② Juan F Figueroaら
The 35-mm rule to guide pneumothorax management: Increases appropriate observation and decreases unnecessary chest tubes
J Trauma Acute Care Surg. 2022 Jun 1;92(6):951-957. DOI: 10.1097/TA.0000000000003573
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35125448/

皆さんの施設では外傷性気胸に対して、どの様な基準でChest tubeを入れていますか?
本文献の著者らの施設(ウィスコンシン州のレベル1外傷センター)では、CTのAxialで肺の虚脱を計測して35mm未満であればChest tubeを入れずに経過をみる ”35-mm rule” を以前から提唱しています。(PMID: 30629009 )
このガイドラインを作成する前(99人)と後(167人)の経過を比較しました。

陽圧換気を行った患者や、血胸を合併している場合などは除外されています。
また4~6時間後にレントゲンをフォローして、必要があると判断した場合にChest tubeを挿入しています。
ガイドライン作成前は外傷性気胸の28.3%にChest tubeを入れていましたが、ガイドライン作成後は18%に減りました。一方で在院日数や合併症の頻度、死亡率などには差がありませんでした。
外傷性気胸のCTで肺の虚脱が35mm未満なら最初にChest tubeを入れなくても安全に経過をみれるのかもしれません。
ただし、米国人と日本人の体格の違いには留意して評価しましょう。

③ Arrien Bloklandら
Results of Reduction of Dislocated Prosthetic Hips in the Emergency Department

J Emerg Med. 2022 Apr;62(4):462-467. DOI: 10.1016/j.jemermed.2021.10.029
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35063315/

人工股関節置換術後に脱臼して救急搬送される患者さんを診たことがありますか?
実は術後1~10%の割合で脱臼を起こすのだそうです。
筆者らのオランダの病院では、救急医が救急外来で鎮静し、救急医が整復を行いました。
結果として230名(92%)の整復に成功しました。
96.8%はプロポフォールで鎮静し、85.5%はフェンタニルで鎮痛されていました。
整復に伴う合併症は3例(1.2%)と少ない結果でした。
人工股関節置換術後の脱臼は、救急医が鎮静して整復しても良いのかもしれません。
ただし処置時の鎮静を行う際は、全身管理を行う救急医と、手技を行う救急医が別々に必要になるのは忘れてはいけないポイントだと思います。
日本で救急外来で整復する場合は、救急医が鎮静を行って整形外科医に整復してもらうというケースもあると思います。

とは言え、自分で整復もしてみたいという救急医も多いでしょう。
そもそも股関節脱臼の整復をしたことがない…
そんなあなたに、お勧めの文献が④です。

④ Michael Gottlieb. Managing Posterior Hip Dislocations
Ann Emerg Med. 2022 Jun;79(6):554-559. DOI: 10.1016/j.annemergmed.2022.01.027
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35277295/

股関節脱臼の90%以上は後方脱臼です。股関節は肩関節などの他の関節よりも筋肉量が多く、整復は決して簡単ではないと思います。事前に十分勉強して、整復に臨みたいものですよね。
本文献は股関節の後方脱臼のマネージメントに関するレビューです。

まず股関節後方脱臼を見つけたら、早めに整復することが求められます。6時間以内に整復した群と、6時間以降に整復した群では虚血性壊死の頻度が5%から53%に増加するのだそうです。
股関節後方脱臼の20%に坐骨神経損傷が合併するという報告もありますので、整復前後での詳細な神経診察が求められます。
また交通事故を中心とした過去のデータではありますが、71%に関連する外傷が合併したという報告もあります。特に外傷のエネルギーが大きい時には、他に外傷を見逃していないかにも注意して診療しなければなりません。
処置時の鎮静についてはやはりプロポフォールによる鎮静が勧められている他、大腿神経ブロックなどの局所麻酔も成功率を上げる報告がある様です。

また本文献では写真付きで7つの整復方法を紹介しています。
いずれの方法においても、急に引っ張って筋肉の緊張を発生させない事が重要です。ゆっくりと丁寧に引っ張る必要があります。またどの方法も、膝を屈曲したまま股関節を大腿骨の軸方向に牽引する形になります。
2人で整復する方法、バックボードを使用する方法、術者に怪我の少ない方法、神経ブロック後の整復に相性の良い方法などが、弱点と共に記載されており一読に値すると思います。

鈴木裕之