2022.05.18

2022/05/17 文献紹介

3年ぶりとなる規制のない(ゆるい?)GWでしたが、皆様はどのようにすごされましたか?
5月前半の文献紹介は、湘南鎌倉総合病院の田口と中東遠総合医療センターの大林から2本お届けします。
1つはCPAのROSC後に使用する昇圧剤について、もう1つは最近承認された新薬についてです。
それではどうぞ!!

①院外CPA ROSC後の昇圧剤はノルアドレナリンがいいかも!
Bougouin W, et al. Epinephrine versus norepinephrine in cardiac arrest patients with post-resuscitation shock. Intensive Care Med. 2022 Mar;48(3):300–10.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35129643/

CPA ROSC後のショックの患者に対して、みなさんはどの昇圧剤を使用していますか?

 

CPA ROSC後の患者において適切な循環動態を保つことの重要性は各国のガイドラインにも記載されています。しかしどの昇圧剤を使用するべきか?という問いに答える確かなエビデンスはありませんでした。

今回の研究は、ROSC後のショックに対してノルアドレナリンもしくはアドレナリンを持続投与した患者群のそれぞれの死亡率を比較した観察研究です。

2011-2018年の8年間、パリの5つの大規模病院に搬送された院外CPA患者のうち
内因性疾患を原因とした成人で、十分な輸液を行なっても6時間以上のノルアドレナリンもしくはアドレナリンの持続投与が必要な症例がincludeされています。両方を投与した症例は除外されています。

766人が該当し、285人(37%)がアドレナリン、481人(63%)がノルアドレナリンを持続投与されていました。
Primary Outcomeである入院中の全死亡率は、ノルアドレナリンと比較し、アドレナリン投与患者群で高いとされました。(83%対61%、P<0.001)
また心血管関連の死亡率も同様にアドレナリン投与患者群で高いとされました。

アドレナリン投与患者群ではROSCまでの時間が長い、そもそものpHが低いなどの予後不良因子を複数認めました。そのためpropensity score matchingなどで補正をしましたが、それでも同様の傾向が示されました。 (aOR 2.1; 95%CI 1.1–4.0; P = 0.02).

先行研究でもアドレナリンは不整脈および心停止の再発リスクなどが指摘されていました。そのため今回の研究でも全死亡率だけでなく心血管関連の死亡率も指標として扱っており、やはりそのリスクが高いことを示す結果でした。

観察研究であり因果関係については断定できませんが、現時点ではCPA ROSC後の昇圧剤を選ぶ際の良い道標となると考えられます。

今後の判断材料の一つとしていかがでしょうか。

②Pham H, et al. Andexanet alfa versus four-factor prothrombin complex concentrate forthe reversal of apixaban- or rivaroxaban-associated intracranialhemorrhages. Am J Emerg Med.2022;55:38-44
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35272069/

2022年3月28日にアンデキサネットアルファ(以下、AA)という薬剤が日本で承認されたのを知っていますか?

AAはアピキサバン、リバーロキサバン、エドキサバンといった経口第Xa因子阻害薬(以下、Xa阻害薬)の拮抗薬です。
これまで抗凝固薬の拮抗薬というと、ワルファリンに対するビタミンKやプロトロンビン複合体濃縮製剤(以下、4F-PCC)、ダビガトラン(トロンビン阻害薬)に対するイダルシズマブだけでした。
そのためXa阻害薬内服中の重篤な出血に対しては、新鮮凍結血漿の投与や4F-PCCの適応外使用で対応するしかありませんでした。
AAは遺伝子組み換え第Xa因子で、第Xa因子としての生理活性はないものの、Xa阻害薬との親和性が第Xa因子よりも高いため、Xa阻害薬と結合して抗凝固作用を中和することができます。
今回このAAに関する研究を紹介します。

アメリカではXa阻害薬内服中の重篤な出血の拮抗薬としてAAもしくは4F-PCCを推奨していますが、この2剤を直接比較した研究データがなく、著者らはフロリダ州の複数の医療機関で、アピキサバンもしくはリバーロキサバンを内服中に頭蓋内出血で入院となった18歳上の患者でAAもしくは4F-PCCを投与された症例をレトロスペクティブにレビューしました。
主要アウトカムは薬剤投与後の国際血栓止血学会の定義に基づく止血効果で、副次的評価項目として、CTにおける12〜24時間の出血量の変化、血栓塞栓症の発生率、入院死亡率、総治療費などを比較しました。

研究にはAA群47名、4F-PCC群62名が組み入れられ、フォローアップCTを撮影したAA群38名と4F-PCC群58名での比較ではともに約8割の患者で止血効果が得られ、これは各薬剤の先行研究の結果と一致していました。
副次的評価項目では薬剤投与までの時間と総治療費以外に統計学的有意差はないという結果でした。
薬剤投与までの時間については、AAの調剤に時間がかかることがその一因のようです。
日本での薬価は5月15日時点で公表されていませんが、総治療費はAAと4F-PCCでそれぞれ23,602ドルと6,692ドルでした。
AAと4F-PCCを比較したこれまでの研究ではAAの方が血栓塞栓症の事象が多いことが報告されていましたが、今回は有意差はないものの少し少ないという結果でした。
入院2日後から血栓塞栓症予防のための抗凝固療法が再開されていたことが関係あるのかもしれません。

これから使用が広がっていくであろうAA、現在進行中の頭蓋内出血に対するRCT(NCT03661528)を含め今後も研究から目が離せません。

AAについてもっと知りたい人は、こちらの論文もどうぞ。
ANNEXA-4 study: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30730782/