2022.03.31

2022/03/31 文献紹介

今年度もついに最終日ですね。
この時期は異動でバタバタしてしまいがちですが、息抜きがてら文献紹介はいかがでしょうか。

今回は国際医療福祉成田の井桁と、聖マリアンナの川口で3つの論文をお届けいたします。
前半は井桁よりNIPPVトピックス、後半は川口より喘息患者と挿管チューブ径についてです。

①ヘルメットタイプのNIPPVは従来のマスク型に比べて悪くない
Adi O et al. Randomized clinical trial comparing helmet continuous positive airway pressure (hCPAP) to facemask continuous positive airway pressure (fCPAP) for the treatment of acute respiratory failure in the emergency department.
Am J Emerg Med. 2021 Nov;49:385-392. PMID: 34271286.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34271286/

皆さんはヘルメットタイプのNIPPVを使用したことはありますか?
私自身は実際に見たことも、使用したこともありません。
一度画像検索をお勧めしますが、まるで宇宙服や潜水服、もしくはバズ・ライトイヤーのような見た目です。

NIPPVはマスクフィットが治療成功のカギと言っても過言ではありません。
装着時のサイジングや、リーク、不快感・圧迫感や長期使用に伴う褥瘡などNIPPVのトラブルは様々経験されていると思います。
このヘルメットタイプのNIPPVのメリットは、顔面の形に左右されない、会話もしやすい、視界が良好で閉塞感が少ない、などあるようです。
一方デメリットはディスポで高額、騒音がすごい、装着が2人がかりで大変、CO2が再呼吸で溜まることがある、トリガー不良で非同調が起こることがある、などが挙げられます。

今回紹介する論文はそのヘルメットタイプのCPAP(hCPAP)と、従来のフェイスマスクタイプのCPAP(fCPAP)の呼吸不全に対しての効果を比較したRCTです。

P:ERを呼吸不全で来院した急性心不全もしくはCOPD急性増悪の患者
I:hCPAP
C:fCPAP
O:Primary outcomeは介入1時間後の呼吸数、Secondary outcomeは心拍数、呼吸苦スケール、PaO2、P/F、PaCO2、不快感、口腔粘膜の乾燥、挿管率

1085人が組み込まれ、除外された後にhCPAP 118人、fCPAP131人が無作為化されました。
ほとんどの患者が急性心不全(86.2%)でした。

結果は以下の通りです。 hCPAPはfCPAPに対して呼吸数、心拍数、PaO2、P/F、呼吸苦スケールで非劣性でした。
さらにhCPAPは呼吸苦スケール、不快感、口腔粘膜乾燥に関してfCPAPと比べて同様に非劣性であり、有意に改善しうる結果でした。
挿管率はhCPAPが(4.4%)、fCPAP(18%)と有意に低い結果となりました。

“有意に改善”と言っても呼吸数は-1.59bpm、心拍数は-4.78bpmであり臨床的に意義があるかは微妙なところです。
また介入後1時間での評価であり中長期的にどのような差が出るかは検討されていません。
マレーシアの単施設研究で、筆者らの施設ではhCPAPを10年程度使用しており経験豊富であると推測されるため、外的妥当性にも疑問が残ります。
さらにデバイスの比較という性質上、盲検化ができないのも大きなlimitationの一つです。

筆者らの結論としては“hCPAPはfCPAPと比べても悪くなさそう、むしろ挿管率が下がるかも”ということでした。
上記のようにLimitationは多い研究なので、今後多施設研究での検討が期待されますね。
患者の状態に応じて適切なインターフェイスを選択することがNIPPVのキモですので、ヘルメットタイプも使ってみたいと思わせる結果でした。

②プレホスピタルでNIPPVを使用すると良い
Meng M et al. Prehospital noninvasive positive pressure ventilation for severe respiratory distress in adult patients: An updated meta-analysis.
J Clin Nurs. 2022 Feb 24. PMID: 35212078.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35212078/

急性心不全やCOPD急性増悪に対してNIPPVは一般的に使用されていますし、より早い介入が重要であることはよく知られていることかと思います。
今回紹介する論文は“より早く”というコンセプトのもと、プレホスピタルでNIPPVを導入した研究を集めたメタ解析です。

P:プレホスピタルでの呼吸不全患者
I:CPAP/BiPAPでの治療+標準治療
C:標準治療(利尿薬、ニトログリセリン、モルヒネ、気管支拡張薬、酸素など)
O:院内死亡、挿管率など

上記条件で10個のRCTが解析されました。
Primary outcomeの結果は以下の通りです
・院内死亡率は良い傾向だが有意差なし(RR = 0.83,95% CI: 0.64–1.07,p = .142, I2 = 28.0%)
・挿管率は低下(RR = 0.43, 95% CI: 0.27–0.67,p < .001, I2 = 0.0%)
Secondary outcomeは
・ICU入室率との関連はなし(RR = 0.93, 95% CI:0.73–1.19,p = .559, I2 = 0.0%)
・入院期間は短縮(WMD = −4.19, 95% CI:−5.62, −2.77, p < .001, I2 = 0.0%)
・ICU滞在期間は短縮(WMD = −0.65, 95% CI: −1.09, −0.20, p = .004,I2 = 39.1%)

患者群は概ね心不全やCOPD急性増悪が多かったようですが、一部の研究では呼吸不全と曖昧な表現であったり、肺炎が含まれていたりと疾患群にはばらつきがありました。
ただプレホスピタルだと考えると正確な診断は難しく、ある程度のばらつきは仕方がないかもしれません。
また陽圧換気をする際に気胸の除外をどうすべきか、というのも重要な課題です。

日本では救急隊がNIPPVを導入することはないですが、より早くNIPPVを導入することでアウトカムを改善する可能性があることは覚えておいた方が良いかと思います。

③喘息患者と挿管チューブ径の関係 Kashiouris MG et al. Endotracheal Tube Size Is Associated With Mortality in Patients With Status Asthmaticus.
Respir Care. 2022 Mar;67(3):283-290.PMID: 35190478.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35190478/

ICUに入室した喘息患者のうち60%に気管挿管が必要になり、そのうち10%が死亡すると言われています。
気管挿管を行う際のチューブのサイズ選択について確たるエビデンスはなく、UpToDateには『チューブ内径は女性7.0-7.5mm(ICUに長く入る症例は7.5-8.0)、男性7.5-8.0(ICUは8.0-8.5)。ただし緊急時は酸素供給が優先されるためチューブ径を考えるのは二の次。』と記載されています。

本研究は重症喘息患者の院内死亡率と気管チューブ径との関連を調べたもので、2014-2021年にバージニア州リッチモンドの三次施設で行われた後ろ向きコホート研究です。18歳以上の患者964例が対象となりました。
そのうち挿管されたのは274例(28.4%)で、平均の死亡率は7.3%、挿管例では17.9%、非挿管例では2.5%でした。

院内死亡率
気管チューブ径7.0mm以下で26.7%(95%CI 13.2‒40.2)
7.5mmで14.3% (95%CI 6.9‒21.7%)
8.0mm以上で11.0%(95%CI 4.4‒17.5)
単施設の研究かつ人種が偏っている(黒人が8割程度)というlimitationはありますが、チューブ径が小さいほど死亡率が高くなる傾向があり、7mm以下と7.5mm以上とでは倍以上違い、挿管チューブ径が1mm大きくなるごとに死亡率が0.23倍になるという衝撃的な結果でした。

細いチューブで死亡率が高い理由としては、粘液栓による内径狭窄や気道抵抗の増悪や時定数(肺気量の63%を膨張または収縮させるのに必要な時間)が高いことが挙げられています。

一方で、太いチューブを使用することによる挿管の初回成功率や喉頭・声帯の損傷への懸念は評価されておらず、今後の研究が待たれます。

個人的には、7.5mm以下の気管チューブは太い気管支鏡が入りづらく十分な吸引が出来ないことをしばしば経験するので、極端に小さな体格の方以外は性別問わず8.0mmを第一選択にしてもいいのかもしれないと思いました。

以上です。
皆様の日々の診療のプラスになれば幸いです。