2022.03.15

2022/03/15 文献紹介

みなさまこんにちは。3月前半の文献紹介は、福岡徳洲会病院の鈴木と、沖縄県立中部病院の岡です。
福岡と沖縄の南国コンビで、5つの論文を紹介します。

➀RSIではロクロニウムを1.4㎎/kg以上は使用しよう
②希死念慮にケタミン静注が有効
➂NOAC内服中でもt-PAを投与していいの?
④たとえ広範囲脳梗塞でも血管内治療は有益だった
⑤ICUで死期が迫っている患者家族は、3回の面談で心理的トラウマが減った

前半は花粉症が流行し始めた福岡より、福岡徳洲会病院の鈴木です。

①RSIのロクロニウムは多めに投与した方が良さそうだというNEARのレジストリー解析です
The association of rocuronium dosing and first-attempt intubation success in adult emergency department patients.
Nicholas M Levin, et al.
CJEM. 2021 Jul;23(4):518-527.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33837951/

RSIを行おうとして教科書通りにロクロニウムを1.0~1.2㎎/kg投与したとします。
その1分後に喉頭展開したときに筋弛緩が十分に効いていないなぁ・・・と感じたことはありませんか?

実は手術室の文献では、RSIに理想的な筋弛緩を得るためには、ロクロニウム2.0mg/kgが必要だという報告もあります。(PMID: 9257203)
またCOVID-19の挿管に際して、ロクロニウムを多めに使うのに慣れている方もいらっしゃると思います。

本文献は救急外来でRSIに最適なロクロニウムの量を調べるために、北米最大のレジストリーNEARの二次解析を行った文献です。

ロクロニウムでRSIを施行された14歳以上の患者8000人を解析しています。
<1.0mg/kg群、1.0-1.1mg/kg群、1.2-1.3mg/kg群、≧1.4mg/kg群の4群に分けました。
初回成功率はそれぞれ以下の通りでした。
<1.0mg/kg群: 88.4%
1.0-1.1mg/kg群: 88.1%
1.2-1.3mg/kg群: 89.7%
≧1.4mg/kg群: 92.2%

≧1.4mg/kg群が最も初回成功率が高いという結果でした。
なお直接喉頭鏡とビデオ喉頭鏡でサブグループ解析すると、ビデオ喉頭鏡を用いた場合はロクロニウムの量では初回成功率に有意差は出ませんでした。

本文献の結果からは、≧1.4mg/kgのうちどの量が適切かまでは分かりませんが、
「ロクロニウムは多い方が良さそうだ」という事は分かります。

アメリカでは100kgオーバーの方にロクロニウム100mg(10ml)使用して気管挿管になってしまう例が問題になる様です。
日本でも60kg程度の人に50mg(5ml)使用して挿管してしまうパターンが想定されます。それでは足りません。
ロクロニウムは多めに準備しましょう!!

②BMJより希死念慮にケタミン静注が有効だというRCTです
Ketamine for the acute treatment of severe suicidal ideation: double blind, randomised placebo controlled trial Abbar, et al.
BMJ. 2022 Feb 2;376:e067194.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35110300/

鎮痛にも鎮静にもとても便利なケタミンですが、今度は「希死念慮にも効果あり!」という文献です。
以前から、ケタミンを投与すれば72時間後まで希死念慮が減るというメタアナライシスがあった様です。(PMID: 31729893) 
僕は知りませんでした・・・・汗

しかし過去の研究には評価尺度やサンプルサイズや対象者(多くの研究が双極性障害を除外していた)に問題があったため、質の高い研究が望まれていました。

本研究は、希死念慮で入院した156人の患者をケタミン投与群とプラセボ投与群に振り分けたRCTです。
ケタミン投与群には振り分けた時点で0.5mg/kgを投与し、更に24時間後にももう1度投与しています。
5個以上の複数の尺度で希死念慮について調べました。

入院3日目の希死念慮を比較したところ・・・
希死念慮が残っていたのは、ケタミン投与群の31.6%、プラセボ投与群の63.0%でした。(オッズ比3.7)
サブグループ解析では、特に双極性障害で効果が大きい様でした。

・・・凄い効果だと思います!
BMJでフリーで読めますので、ぜひ文献をクリックしてFigureを眺めてみてください。
6週間後の長期予後では、プラセボ群の希死念慮が徐々に改善したためか有意差はでませんでしたが、たった2回の投与でケタミン群の効果は持続している様に見えます。

日本では保険適応の問題からフリーに使用することは難しいケタミンですが、希死念慮で困っている場合などの裏技として覚えておくと良いと思います。
救急外来でもこのような理由でのケタミンの出番は十分にあると思います。

③JAMAよりNOAC常用中でもt-PAは安全に投与できるというレジストリー解析です
Association of Recent Use of Non-Vitamin K Antagonist Oral Anticoagulants With Intracranial Hemorrhage Among Patients With Acute Ischemic Stroke Treated With Alteplase
Wayneho, et al.
JAMA. 2022 Feb 22;327(8):760-771.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35143601/

非ビタミンK拮抗の抗凝固薬であるNOAC(「DOAC」とも呼称)が圧倒的にシェアを拡大しています。
NOACを内服している患者さんに、 t-PAは投与して良いんでしょうか?
日本では2019年に脳卒中学会の静注血栓溶解療法適正治療指針第三版で、NOAC内服から4時間以内であればt-PA投与の適応外としています。しかし、あくまでも理論的な薬物動態と国内のアンケート結果とを勘案して作成された推奨です。
4時間という線引きに関わらず、NOACの常用はt-PAの慎重投与の項目だと捉えている臨床家もいると思います。

t-PAを投与された18万人の患者さんのレジストリー(GWTG-Stroke)から解析した研究です。
7日以内にNOACを内服していた2200人と、抗凝固薬を何も内服していなかった1万6000人を比較しています。

年齢や重症度で調整すると、t-PA投与後の出血合併症の頻度に差はありませんでした。
(調整オッズ比, 0.88 [95%CI, 0.70 to 1.10])
むしろNOAC内服中の患者の方が、自宅退院率や後遺症の残存率などは良い結果でした。

ただしNOAC内服中の方は、塞栓症が多く、アテローム血栓症が少ないと思われます。脳梗塞の病型が結果に影響を与えた可能性は否定できません。

また、同レジストリーから派生したARAMISレジストリーのデータを加えて最終内服日からの日数による分析をしています。しかしまだ症例数が足りていません。
最終内服日が近ければ脳梗塞にはなりづらく、遠ければ出血しづらくなると思われます。
この影響を排除するにはさらに多くの症例が必要です。

18万人の患者を登録したレジストリーからの研究ですので、さらに大規模なデータを集積するにはかなり時間がかかると予想されます。
現時点での結論として、救急医は本文献について熟知しておく必要があります。

後半は沖縄県立中部病院の岡です。
暑い沖縄から熱い文献をご紹介します。

④NEJMより、たとえ広範囲脳梗塞でも血管内治療は有益だった、という日本の多施設RCTです。
Shinichi Yoshimura et al. Endovascular Therapy for Acute Stroke with a Large Ischemic Region.
N Engl J Med. 2022 Feb 9. Online ahead of print.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35138767/

脳梗塞があまりに大きい場合、急性期の血管内治療は有益かどうか、よくわかっていませんでした。
今回、日本国内の多施設RCTで効果が認められました。

脳梗塞が大きいかどうかはCT or MRI画像を用いたASPECTSの点数で判断します。

今回、ASPECTS3~5点の患者が対象でした。
一般的には血管内治療は回避されます。
(値は0~10点で、値が小さいほど脳梗塞が大きいことを示します)

最終的に203人の患者が対象でした。

結果、90日後の神経学的予後は血管内治療群が良好でした。

Rankinスケールスコア0~3点の患者(介助なしで歩ける点数です)は、2.4倍でした。
血管内治療群31.0%、対照群12.7%
(相対リスク2.43、95%CI: 1.35~4.37; p=0.002)

合併症として頭蓋内出血の発症は血管内治療で多くみられました。(31.0% vs. 8.8%)
しかし、それも含めて血管内治療の方が全般的にはるかに神経学的予後が良い結果でした。

このような良い結果が、日本国内の研究で、それもNEJMに発表されたとは、…なんだか嬉しいです。

⑤LANCETより、ICUで死期が迫っている患者家族は、3回の面談で心理的トラウマが減った、という多施設RCTです。
Nancy Kentish-Barnes et al. A three-step support strategy for relatives of patients dying in the intensive care unit: a cluster randomised trial.
Lancet. 2022 Feb 12;399(10325):656-664.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35065008/

ICUで死亡した患者の家族は、その後も長期間、うつ病やPTSDなどのリスクがあります。
もし医療者とのコミュニケーションが不良ならば、これらのリスクが増悪することがわかっています。

しかし、具体的にどうすれば良いのか、よくわかっていませんでした。

今回の研究は、フランスでの多施設RCTです。

介入群では家族と3回の面談を行います。
1. 死に備える家族会議に、医師と看護師が参加する
2. 家族のいるICU病室へ、医師と看護師が別々に訪問する
3. 亡くなった後、医師と看護師が面談をする

3回の面談で注意すべき5〜7項目が挙げられています。
・家族の感情を聞く
・椅子や水などを提供する
などです。

6ヶ月後、介入群では長引く悲嘆反応者が少ない結果でした。(15% vs. 21% P=0.035)。

面談での注意すべき項目など、どれも家族の心理的ケアに大切だと納得できます。
ERでも、きっと役に立つでしょう。
費用や特別な設備は不要です。

早速、明日から取り入れてみます。