2021.12.03

2021/12/03 文献紹介

救急医学会に参加された皆様おつかれさまでした!

EMA文献班より、聖マリアンナ医大の川口と国際医療福祉大学の井桁が今回も様々な論文を紹介いたします。
①脳震盪とスクリーンタイム
②けいれん(急性症候性発作と非誘発性発作)の区別
③中心静脈カテーテル合併症のケースシリーズ
④心筋梗塞後の心原性ショックレビュー
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①Macnow T et al. Effect of Screen Time on Recovery From Concussion: A Randomized Clinical Trial. JAMA Pediatr. 2021 Nov 1;175(11):1124-1131.PMID: 34491285
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34491285/

今の時代スマホを持っていない若者はほとんどいないですよね。昨今は“スマホ依存症”とまで表現される状態の人も増えているようです。
そんなスマホ中毒の若者に向けて、面白い論文があったので紹介します。

脳震盪後はテレビ・スマホは控えるべし

脳震盪後の若者に対してテレビ・スマホ(スクリーンタイム)などを制限した群と、特に制限せずに過ごしてもらった群で症状の経過を比較したRCTになります。

P:脳震盪を起こしてから24時間以内に救急部に来院し、帰宅した12~25歳の患者
I:受傷後48時間、スクリーンタイムを制限された群(制限群)
C:受傷後48時間、スクリーンタイムを許可された群(許可群)
O:症状消失までの日数(※症状消失はPost-Concussive Symptom Scale:PCSSの合計スコアが3点以下と定義)

2018年6月から2020年2月にかけて三次医療機関の救急部門を受診した患者が登録されました。
PCSSは頭痛や嘔気など22の症状に対してその程度をなし(0点)から重い(6点)の間で評価するスケールで、登録患者は10日間毎日記入してもらい症状の経過を追っています。

125人の患者が登録され、平均年齢は17歳、51.2%が男性でした。
66人が許可群に、59人が制限群に登録されました。
酩酊患者や意識がGCS<15、精神疾患・神経疾患の既往などある患者は除外されています。
登録時のPCSSは制限群で24.5点(IQR 11.0-38.0)、許可群で21.0点(IQR 8.0-39.0)でした。

グループ間の比較では男性より女性が(HR 0.34; 95%CI, 0.19-0.60)、制限群より許可群が(HR 0.51; 95%CI 0.29-0.90)それぞれ期間内に回復する可能性が低くなりました。
許可群は制限群に比べて回復までの期間の中央値は有意に長い結果となりました(8.0日[IQR 3.0-10.0] vs 3.5日[2.0-10.0],p=0.03)。 スクリーンタイムを制限するだけで、症状改善の期間は半分近く短縮するということです。

主な研究のLimitationは以下の通りです。
・単施設での研究である
・コロナの影響で予定していた人数より縮小せざるをなかった
・スクリーンタイムの時間が自己申告であった
・脱落が多い(主要アウトカムの解析で許可群で16人、制限群で14人が除外)

48時間のスマホ制限は現代の若者にはそれはそれで辛いところですが、脳震盪後は制限しておいた方が良さそうな結果でした。
今後帰宅指示の際には一言伝えてみてはいかがでしょうか。

②Reinecke LCS et al. Acute symptomatic seizures in the emergency room: predictors and characteristics. J Neurol. 2021 Nov 2. Epub ahead of print. PMID: 34727204.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34727204/

けいれん患者は性別、てんかんの既往、様式に着目

ERでけいれんの診療経験がある方は少なくないと思います。

てんかん診療ガイドラインによると、けいれんは
・急性症候性発作acute symptomatic seizures(ASS):代謝性、中毒性、器質性、感染性、炎症性などの急性中枢神経系障害と時間的に密接に関連して起こる発作
・非誘発性発作unprovoked seizure(US):明らかな誘引がない慢性疾患としての自発発作
の2つに大別されます。

急性症候性発作(ASS)は明確な原因と関連すること、急性疾患があるため死亡率が高いこと、抗てんかん薬投与期間が短いことから、非誘発性発作(US)との区別は非常に重要です。
本研究ではERで急性症候性発作と非誘発性発作を区別する予測因子や特徴を調べています。

対象:ベルリンの2施設のERに搬送されたけいれん患者695名
※てんかん重積は除外
期間:2014年1月1日から2014年12月31日

急性症候性発作170人の原因はアルコール離脱性が最多の74%、脳出血11%、脳梗塞4%、薬剤3%
非誘発性発作525人の原因は既知のてんかんが最多の71.8%、初発てんかん(その後の入院で診断)17.9%、初発てんかん(精査中)7.8%

急性症候性発作(ASS)の特徴としては
・男性である(1点)
・発作の様式が全般性/両側性の強直間代性けいれん(1点)
・てんかんの既往がない(3点)
の3要素が独立して関連していました。

各要素の合計点数と急性症候性発作の陽性的中率(95% CI)は以下の通りです。
0点 0.0% (0–10.4)
1点 2.6% (0.1–6.3)
2点 13.3% (9.0–19.0)
3点 33.3% (15.5–56.9)
4点 47.3% (36.8–57.9)
5点 57.1% (48.9–64.9)

本研究では急性症候性発作の原因はアルコール離脱が圧倒的多数でしたが、アメリカやアジアの研究ではアルコール離脱の割合が3.8-14%という報告もあるため、ドイツは突出してアルコール消費量が多いのかもしれません。

③Akkuzu E et al. A Case Series of Life-Threatening Complications of Central Venous Catheter Insertion. Pediatr Emerg Care. 2021 Nov 1;37(11):e775-e778. PMID: 34731879.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34731879/

中心静脈カテーテル挿入に伴う機械的合併症の発生率は統計的には1%程度と言われているようですが、誰もが一度は経験する(?)CVC挿入合併症のケースシリーズです。
自分の手技でなくても、どこか他のところで行われた手技の合併症を救急外来で診ることもあるかもしれません。

致死的合併症を生じた小児の4症例が掲載されており、それぞれ内膜下へのカテーテルの逸脱、カテーテルの屈曲(キンク)、ガイドワイヤーに結び目ができて抜去困難になる、ガイドワイヤーの迷入が原因となっています。どの症例もFigureが衝撃的です。

合併症発生のリスク因子は 高いor低いBMI、過去のカテーテル挿入、手術歴、放射線治療歴、穿刺回数、年齢が高いこと、カテーテル留置に要した時間 が挙がります。
エコーの使用は穿刺回数は減少させるものの、機械的合併症を直接減らすものではありませんでした。意外!

合併症を減らすためには、手順の標準化、チェックリストの活用、ガイドワイヤーの挿入長を15-20cmにする(成人)、ガイドワイヤーに過剰な力をかけない といった方法が推奨されています。

比較的身近なCVC挿入の手技ですが、この機会に改めてじっくり振り返ってみてはいかがでしょうか。

④Samsky MD, et al. Cardiogenic Shock After Acute Myocardial Infarction: A Review. JAMA. 2021 Nov 9;326(18):1840-1850. PMID: 34751704.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34751704/

JAMAに掲載された心筋梗塞後の心原性ショックのレビューです。
心原性ショックは心筋梗塞後の5-10%に発生し、30日間の死亡率は40%、1年で約50%と言われています。本レビューには疫学や生理学が簡潔にまとめられており、病状説明などに役立ちそうです。

ER診療に重要な記載として「血圧が保たれた心原性ショック」が書かれています。
SHOCKレジストリに登録された1068例のうち49例(4.6%)は血圧90mmHg以上を維持できているにもかかわらず全身低灌流症状がみられたようです。
低灌流の代表的な症状には、意識レベルの低下や変化、末梢冷感と遠位脈拍の減少、または乏尿(尿量30mL/h未満)などが挙がります。

知識のアップデートにぜひご一読ください。