2019.04.19

2019/4/17 文献紹介

EMA文献班より健生病院の徳竹です。
新年度になり、研修医も入ってきてとても慌ただしい時期かと思いますがいかがお過ごしでしょうか。 ときに、当院のある青森県弘前市では今週末から弘前さくらまつり2019が開催されます。ついに本州最北端の地にも桜が咲く季節がやってまいりました。GWをバリバリ働くために充電に来られてはいかがでしょうか?

 今回は「心臓」をテーマに3つの文献をご紹介いたします。

①Coronary Angiography after Cardiac Arrest without ST-Segment Elevation.
N Engl J Med. 2019 Mar 18. doi: 10.1056/NEJMoa1816897. [Epub ahead of print]

院外心停止ROSC後でSTが上昇していない患者に即座に血管造影検査を行うと90日生存率を改善させることができるか?


ROSCした後の介入として、心電図検査でSTEMIを疑った場合には緊急PCIを行なうことが死亡率を低下させることは周知の事実です。 AHAガイドライン2015でもclass 1の推奨があります。 しかしながら、NSTEMIであった場合の緊急PCIについてはその有効性は不明瞭であり、議論が残るところです(class 2a)。最近では、観察研究レベルでその有効性が示唆されるデータも出始めてきています(Resuscitation. 2018 Feb;123:15-21.)。 そこで、院外心停止ROSC後かつSTが上昇していない場合の緊急冠動脈造影検査について有用性を調べた最初のRCTが登場しました!その名もCOACT!

 オランダの19の施設で2015年1月~2018年7月に実施された多施設RCT。ただし、非盲検化は困難でありされていない。必要なサンプル数を得るのに85%の検出力を設定。 Inclusion:初期波形がshockable rhythmであった院外心停止、ROSC後も意識障害があった患者 Exclusion:ERでの心電図波形がSTEMI、30分以上にわたり収縮期血圧≺90mmHg、冠動脈疾患以外の原因が明らかまたはその疑いがある、既知の腎障害(GFR<30)、妊婦、脳卒中が疑われる、DNRの事前指示があった、病前のperformance status 3-4、ROSCから4時間以上経過、難治性心室性不整脈、90日間のフォローアップ不能と考えられた患者 538人が対象となり、ランダムにimmediate群とdelayed群に1:1に割り付けられた。

     
  • Immediate群…ランダム化から2時間以内に冠動脈造影検査実施 
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  • Delayed群…神経学的回復が見られた後(通常はICU退室後)に冠動脈造影検査実施
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  • 患者特性はほぼ同等であったが、目標体温達成までの時間はimmediate群で有意に長かった(5.4hr vs 4.7hr)
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  • 両群に対して、心原性ショック/致死的不整脈/虚血徴候が出現した場合には緊急造影検査実施、冠動脈狭窄>70%やプラーク破綻の徴候がある場合には治療対象として推奨されlocal protocolやガイドラインなどを順守した形で選択された、TTM(Targeted Temperature Management)はできるだけ早い開始がされたprimary outcomeは90日生存率、64.5%(176/273) vs 67.2%(178/265); OR 0.89; 95%CI 0.62-1.72で、統計学的有意差はでなかった
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  • 死亡原因は脳神経由来が心臓由来に比較して3倍ほど多かった
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  • 冠動脈造影検査までの時間…2.3時間 vs 121.9時間
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  • PCI施行は33.0% vs 24.2%

 意外にも(?)、「初回shockable rhythmの院外心停止からのROSC後+STEMIの徴候なし+心原性ショックや致死的不整脈再発が見られない患者に対する冠動脈造影検査は即座に行っても状態が安定してから行っても90日生存率に有意差はない」という結果になりました。
しかし、結果の解釈には注意が必要そうです。

  1. 目標体温達成までの時間がimmediate群で有意に遅いこと。これは交絡因子になる可能性があります。
  2. 不安定な冠動脈病変を有していた患者がそれぞれ15%前後と少数で、PCIがされた割合はせいぜい40%程度でした。
  3. 今回のtrialで心停止を起こした患者の多くが臨床的に有意な冠動脈病変を有しておらず冠動脈造影により予後に影響をもたらされる患者がそもそも少なかったのではないかという問題があります。
  4. 上記と関連していますが、Supplementary Appendixに掲載されているsubgroup解析によれば、70歳以上や冠動脈疾患既往がある患者に限定すれば結果は異なった可能性があります。

 現在、ACCESSやDISCOといった、心停止後冠動脈造影のタイミングを検討する多施設共同研究が進行中ですのでそれらの結果を基に再度適応を考えていきたいと思います。 個人的には初回shockable rhythmであれば、心臓から原因をつぶしていきたい気持ちにはなり、すぐに心カテに飛びつきたくなります。 みなさんの施設ではROSC後の対応はどのようにされていますか?

②HEART Score Risk Stratification of Low-Risk Chest Pain Patients in the Emergency Department: A Systematic Review and Meta-Analysis.
Ann Emerg Med. 2019 Feb 1. pii: S0196-0644(18)31559-2. doi: 10.1016/j.annemergmed.2018.12.010. [Epub ahead of print]

ERを受診する胸痛患者に対してHEART scoreを使うことで、心血管イベント発生を安全に否定できるか?


 胸痛を訴える患者はER受診しない日はありませんが、いつも気になるのがACSをはじめとしたkiller chest painではないかどうかです。 その診断は時として難しいことが多く、いろいろなclinical prediction ruleが開発されてきました。有名なものとしてTIMIやGRACEなどがありますが、これらはそもそも冠動脈疾患の既往がある患者が胸痛で入院した際の短期的予後評価のために開発されたtoolでした。それを使用拡大してERでも使われるようになった経緯がありましたが、あまりエビデンスのあるものではありませんでした。 そこで、ERにおける低リスクな胸痛患者の特定を意図して開発されたのがHEART scoreです。 ACEP clinical policyによれば、STEMIでない場合にはHEART scoreをつけてリスク層別化をすることを推奨しています(Level B recommendations)。 History, ECG, Age, Risk factor, Troponinの頭文字から構成されており、それぞれの項目は0-2点まで配点され、合計0-10点で評価します。originalではいわゆる従来型の心筋troponin(cTn)が使用されており、高感度cTnではありませんでした。最近では、高感度cTnを使用したtrialも出てきています。 HEART score 0-3をlow-risk HEART scoreといい、低リスクであり安全にERから帰宅させることができる可能性があるとされています。また、HEART score≦3かつcTn陰性を低リスクと定義するmodified low-risk HEART scoreも登場しています。 ただ、low-risk HEART scoreの患者であっても6週間のうちに1.6%がMACEを経験しているというmeta-analysisの結果もでており(Eur Heart J Acute Cardiovasc Care. 2018 Mar;7(2):111-119.)、致命率を考えるとこれは見逃しの許容範囲を超えているように思います。 ※MACE…major adverse cardiac eventsのことで、心筋梗塞/PCIやバイパス手術をされた症例/全死亡を指すERで働く医師にとってガイドラインとなるような適切なHEART scoreの使用法を特定すべくHEART scoreに関する関連研究をreviewしたのが本研究になります。

 2008年~2017年3月までに行われたtrialのsystematic review & meta-analysis。 HEART scoreの短期間(6週間以内)および長期間(3か月以上)予後について検討された研究(original prospective and retrospective cohort, RCT)で、cTnについては従来型または高感度型を使用した/ modified HEART scoreを採用したtrialなどが組み込まれた。ポスター発表/case reportなど、ER以外のsetting、二次データ解析、予後についての言及がない、腎不全などがあり慢性的にcTn値が上昇している患者を含むtrialなどは除外された。 primary outcomeは短期間(30日~6週間)MACE。 25個の研究、合計25,266人が対象。 9,919人(39.3%)がlow-risk HEART scoreであり、短期間MACEは14.5%(3,473/23,870)で発生。 primary outcomeである短期間MACEはlow-risk HEART scoreでは2.1%(182/8,832)/感度0.96/特異度0.42/陽性的中率0.19/陰性的中率0.99/陽性尤度比1.66/陰性尤度比0.09

 このsystematic review & meta-analysisにおいても短期間MACEは2.1%と微妙な数字でした。 これでは安全とは言えませんし、以前の研究となんら変わらない研究結果となってしまいます。
しかし、本論文ではサブグループ分析もされており、どちらかというとこちらの方が目玉のような気がします。

 secondary outcomeとして地域間での比較、modified low-risk HEART scoreとの比較、高感度cTnとの比較、長期的予後を予測可能かをサブグループ分析した。

  • 地域間での比較…北米8個、ヨーロッパ9個、アジア6個の論文がそれぞれ採用され、各地域での短期間MACEはそれぞれ0.7%/2.5%/2.6%。
  • modified low-risk HEART score…9個の研究が該当、通常のlow-risk HEART scoreよりも短期間MACEは低率(0.8% vs 2.4%)。
  • 高感度cTn…5個の研究が該当、従来型のcTnを使用した場合よりも短期的MACEは低率(0.8% vs 1.8%)。
  • 長期的MACE…low-risk HEART scoreではnon-low-risk HEART scoreに比較して低率(1.1% vs 23.7%)。

 特筆すべきは、modified low-risk HEART scoreと高感度cTnを使用した場合の短期間MACE予測率です。 いずれも発生率は0.8%と許容可能なほどに低率でした。
ただし、Limitationがたくさんあることに注意が必要です。 特にバイアス、異質性です。出版バイアスの可能性は検定の反復やfunnel plotから低いと判断されていますが、高い異質性があり、結果を鵜呑みにすることはできません。 将来的には高感度cTnやmodified low-risk HEART score、アジア地域に焦点を当てた大規模研究が待たれます。

 完全鵜呑みにするのはまだできないようですが、迷ったときこそHEART scoreの構成要素である病歴/心電図所見/年齢/リスクファクター/トロポニンといった項目を基礎に立ち返ってたどりなおすことは有用なのではないかと思います。 そして、基本に立ち戻るという意味でAMIの身体所見についても再考してみたいと思います。

③Symptoms Predictive of Acute Myocardial Infarction in the Troponin Era: Analysis From the TRAPID-AMI Study. Crit Pathw Cardiol. 2019 Mar;18(1):10-15. doi: 10.1097/HPC.0000000000000163.

心筋梗塞のときに右肩痛ってでますか?梗塞巣の大きさと症状の関連はありますか?


 先日、胸痛の診察をクリクラの学生とともにしていて、killer chest painについて鑑別は?と聞くと心筋梗塞と答えがすぐに帰ってきました。
胸痛以外にどのような症状が出る場合があるか聞いてみると、左肩への放散痛が出うることを知っています。 両肩が痛くなったり右肩が痛くなる疾患について質問すると心筋梗塞は出てきませんでした。

 今回ご紹介する文献では、胸痛に随伴して起こる右肩への放散痛は左肩への放散痛よりも心筋梗塞を予測するという結果が出ていましたのでreviewしたいと思います。

 TRAPID-AMI(High Sensitivity Cardiac Troponin T assay for rapid Rule-out of Acute Myocardial Infarction)のsubstudy解析。 2011年~2013年、ヨーロッパ/アメリカ/オーストラリアの12施設での多施設共同研究。 急性心筋梗塞を疑う胸痛を主訴に発症から5時間以内にER受診した患者に対して、胸痛に随伴する症状を前向きに聴取して記録。 心筋梗塞の診断は循環器専門医によりrapid rule-out AMI protocol(1時間時点での高感度心筋トロポニンT(cTnT)を使用)に従って判定された。

 1282人が組み込まれ、213人が急性心筋梗塞と判断された(STEMI:21人、NSTEMI:192人)。 17の症状が聴取され多変量ロジスティック解析がされ、急性心筋梗塞診断の独立した予測因子が4つ同定された。

  • 右上腕や肩への放散痛…OR 3.0; 95%CI 1.8-5.0
  • 胸部圧迫感…OR 2.5;95%CI 1.3-4.6
  • 労作での増悪…OR 1.7; 95%CI 1.2-2.5
  • 左腕や肩への放散痛…OR 1.7;95%CI 1.1-2.4

4症状揃うと55%で急性心筋梗塞の診断となったが、4症状全て揃ったのは2.4%(31/1282)のみであった。

さらに、梗塞巣の大きさをcTnTを代用して推測すると、著明なcTnT高値と以下の症状の関連が認められた。

  • 右上腕や肩への放散痛
  • 胸部右上(Supramammillary right location)
  • 引っ張られるような痛み(Pulling chest pain)
  • 背部への放散痛

 本研究の特徴は心筋梗塞診断に高感度cTnTを採用して研究されており、これまでのCKMBなどを作用したtrialに比べてより鋭敏に心筋梗塞を同定出来た可能性があることです。題名にもあるとおり、「Troponin Era」であってもやはり右肩への放散痛がある場合には心筋梗塞の可能性が高くなるようです。 また、心筋梗塞巣の大きさと症状についての関連性を調べた、実は一番最初の研究でした。現時点ではわかりませんがもしかしたら今後、予後判定にも使えるかもしれないという結果もでるかもしれません。
右肩への放散痛があればより心筋梗塞の可能性が上がるということも重要ですが、この症状があれば心筋梗塞は除外可能であるという項目はなかったということも覚えておくべき重要事項と考えます。咳嗽により増悪する胸痛、触診で悪化する胸痛、胸膜痛、体位性変化など心筋梗塞を疑いづらい症状であっても除外はできません。心筋梗塞診断が難しい理由の一つになっていそうです。非典型が典型的です。

 冷汗、意識消失、意識障害などの項目が含まれていなかったことは最大のlimitationです。心筋梗塞のおよそ1/3は胸痛以外の症状を呈して受診します。また、inclusion criteriaの性質から非典型的な心臓由来の症状を呈して受診した場合には、それらの患者が組み込まれていなかった可能性がありバイアスがある可能性が否定できません。 Learning Pointは以下の3つになります。

  • 胸痛に随伴して右肩や右上腕への放散痛がある場合には心筋梗塞の可能性が高くなる。
  • 右上腕や肩への放散痛、胸部右上痛、ひっぱられるような痛み、背部への放散痛は梗塞巣の大きさを反映する可能性あり
  • 単独で心筋梗塞を除外できる病歴や身体所見はない

 今回の文献紹介は以上になります。
 これからもEMA文献班をよろしくお願い致します。