2019.04.26

2019/2/22 文献紹介

EMAのみなさま

こんにちは、沖縄県立中部病院の山本一太です。2月の文献紹介をお届けします。

今回は以下の4本立てです。

1. 使える!?使えない!?オタワCOPDリスクスケールを用いたCOPD増悪のdisposition決定

2. この蜂窩織炎、経口抗菌薬で帰宅できる!?蜂窩織炎に対する経口抗菌薬の治療失敗因子

3. カナダ失神リスクスコアで低リスクの失神患者ではハートモニター2時間!!

4. ブラジリアン柔術を用いた四肢動脈圧迫方法

1. Clinical validation of a risk scale for serious outcomes among patients with chronic obstructive pulmonary disease managed in the emergency department

CMAJ. 2018 Dec 3;190(48):E1406-E1413.

さっそく1つ目の文献紹介です。

みなさんはERでCOPD増悪をよく診察されますか??そのような時に入退院の判断はどのようにしているでしょうか??


今回はカナダのオタワ大学から、COPD増悪のdisposition決定の助けとなるオタワCOPDリスクスケールのvalidation studyをご紹介致します。

その前にオタワCOPDリスクスケールとは2014年にDr. Ian Stiellが発表したもので(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24549125)

1. Initial assessment

CABGの既往歴 1点

末梢動脈疾患の既往歴 1点

呼吸不全での挿管歴 2点

救急来院時のHR>110 2点


2. Investigations

心電図で急性虚血性の変化 2点

レントゲンで肺うっ血像 1点

ヘモグロビン<10g/dL 3点

BUN≧12 mmol/L 1点

血清CO2≧35 mmol/L 1点


3. Re-Assessment

室内気または普段の酸素濃度でSaO2<90 、もしくはHR>120 2点

の合計10項目、16点満点で14日以内に起こりうる有害事象の可能性を

0点:Low

1,2点:Medium

3,4点:High

5点以上:Very High

に分類するリスクスケールです。

2014年のオタワ大学のホームページに著者のDr. Ian Stiellのインタビューが載っているのですが、それによるとカナダでは救急外来を受診したCOPD患者の62%が帰宅になっているのに対し、米国では20%のみのようです。この原因はベッド数が不足しているためかもしれないとのことです。

ちなみにこのDr. Ian Stiellは、かの有名なオタワ膝ルール、オタワ足首ルール、カナディアンC-spineルールなどの開発者です!!すごい!!

今回はこのリスクスケールを用いた前向きのvalidation studyです。2011年5月から2013年12月の間にカナダの6つの三次救急病院をCOPD増悪(息切れ、喀痰増加、喀痰膿性化の3つのうち2つ以上で定義)で受診した50歳以上の成人患者を対象として行われました。救急受診後2-12時間たっても極端に重症である場合(例:SpO2<85%, HR>130, 収縮期血圧<85mmHg, 心電図でST-T変化の出現などその他多数の項目)は除外されています。

プライマリーアウトカムは重大な短期アウトカムで、30日以内に救急外来を受診して死亡もしくは14日以内に以下に記載した内容が起こった場合です。

モニターを必要とする病棟への入院(ICUやCCU, stepdown unitなど)

挿管もしくは入院または在宅でのNPPV装着

心筋梗塞の診断

CABGやPCI、その他心臓手術や新規透析

その他14日以内に救急外来を再診し入院

再増悪したが入院とならなかったケースは重大な短期アウトカムには含まれていません。

結果として5449人のうち2730人が除外され、さらに拒否(119人)やミッシングデータ(1185人)が除外され、1415人が組み込まれました。そのうち重大な短期アウトカムを来したのは135人でした。

今回のデータにオタワCOPDリスクスケールを当てはめてみると、重大な短期アウトカムはスコアが0点の場合は4.6%に、スコアが10点の場合は100%に見られました。実際の診療では重大な短期アウトカムをきたした135人のうち70人(51.9%)のみ初回受診時に入院しており、スケールを使用し1点もしくは2点を入院の閾値と設定すると、重大な短期アウトカムに対する感度はそれぞれ79.3%、71.9%となりました。この閾値を使用することで使用しない場合と比較し、入院率が45.0%からそれぞれ56.6%、47.9%に上昇します。

Limitationとして、多くの患者が時間外に受診したため除外されたこと、対象となった6病院以外に再診している可能性があることなどが挙げられます。

いかがでしょうか??

オタワ足首ルールなどと比較すると、ものすごく使える感じではないかもしれませんが、今までCOPD増悪患者を対象にdisposition決定のため使用する有用な指標はなかったことから、診療の際のヒントにはなるかもしれません。特にスケールにCABGや末梢動脈疾患の既往、心電図変化、ヘモグロビン値など、多数の項目が含まれており、これらが予後に影響を与えるということを頭に刻んでおくことは大切だと思います。

2. Predictors of Oral Antibiotic Treatment Failure for Nonpurulent Skin and Soft Tissue Infections in the Emergency Department

Acad Emerg Med. 2019 Jan;26(1):51-59.

続いては蜂窩織炎の内服治療失敗因子に関する研究です。偶然ですが、これもオタワ大学からの報告となります。

2016年11月に蜂窩織炎の30%程度は救急医の診断が間違っているかもしれない、という文献を紹介いたしましたが(http://www.emalliance.org/education/recommend/dissertation/20161121-journal)、蜂窩織炎は簡単なようで難しい側面がある疾患ですね!!

蜂窩織炎を治療する際、経口抗菌薬で治療するべきか、それとも静注抗菌薬で治療するべきかは、質の高いエビデンスがなくエキスパートオピニオンに頼らざるを得ません。経口抗菌薬での治療に失敗した場合、発熱や頻脈などの全身症状がある場合、診察した医者の印象で重症と判断された場合などは、一般的に静注抗菌薬で治療されると思います。

一方、これまで経口抗菌薬の治療失敗因子の解明を目的とした研究は行われてきませんでした。そこで著者らはカルテレビューを元に、経口抗菌薬の治療失敗因子を解明する目的で研究を行いました。

対象となったのは2016年1月1日から7月31日までの7ヶ月間にオタワ病院の救急外来を受診した18歳以上の成人で、膿瘍を伴わない皮膚軟部組織感染症と診断され、抗菌薬治療をされた患者を対象としています。

救急外来にフォローで来院した場合や18歳未満、膿瘍形成があり切開·排膿がされた場合、蜂窩織炎や丹毒を伴わない感染性の潰瘍がある場合、そして壊死性筋膜炎は除外されました。

プライマリーアウトカムは経口抗菌薬の治療失敗とされましたが、その定義は経口抗菌薬開始から48時間~14日の間で起こった以下とされています。

皮膚軟部組織感染症が原因で入院

感染の拡大のため抗菌薬の種類を変更

感染の拡大のため抗菌薬を経口から静注に変更

セカンダリーアウトカムは静注抗菌薬の治療失敗で、同様に48時間~14日の間に起こった以下です。

皮膚軟部組織感染症が原因で入院

感染の拡大のため抗菌薬の種類を変更

結果です。7ヶ月の間に666人がスクリーニングされ、166人が除外され500人が組み入れられています。平均年齢は64歳、男性は55.8%でした。最終的に帰宅したのは352人(70.4%)、入院したのは148人(29.6%)でした。ちなみに帰宅した患者のうち61.4%が経口抗菌薬のみで帰宅、19.9%が救急で静注抗菌薬を投与後、経口抗菌薬で帰宅しています。

感染部位は足が最も多く54.2%でした。感染の大きさは体表面積の5%未満の患者が最も多く80.2%でした。

来院後最低48時間を経口抗菌薬で治療された患者は288人おり、85人(29.5%)が治療失敗とされました。そのうち68人は最初の救急受診時にすでに48時間以上経口抗菌薬を内服しており、その時点で治療失敗と判断されました。また静注抗菌薬で治療された212人のうち12人(5.7%)が治療失敗と判断されました。

経口抗菌薬で治療失敗と判断された患者のうち51人は外来で静注抗菌薬治療を、30人が入院し静注抗菌薬治療を、4人が別の経口抗菌薬に変更されました。

得られたデータを元に多変量ロジスティック解析を行い、経口抗菌薬の治療失敗因子を探ったところ、

· トリアージの際の頻呼吸 (呼吸数>20) OR 6.31 95% CI = 1.80–22.08 p=0.004

· 慢性潰瘍 OR 4.90 95% CI = 1.68–14.27 p=0.004

· MRSA感染もしくはコロナイゼーションの既往歴 OR 4.83 95% CI = 1.51 to 15.44 p=0.008

· 過去12ヶ月に蜂窩織炎の既往歴 OR 2.23 95% CI = 1.01–4.96 p=0.05

が、経口抗菌薬治療失敗に関連する独立した因子でした。糖尿病や慢性腎臓病の有無は有意差を認めませんでした。

この研究のリミテーションは、後ろ向き研究ゆえ重要な変動値の情報が欠けていることがあること(例えば、感染の大きさや肥満の有無)、データの抽出を盲検化して行なっていないこと、そして過去にvalidationされている経口抗菌薬の治療失敗の定義が存在しないため、著者らが独自に作った定義を用いていることなどが挙げられます。また文献班内の議論ではロジスティック解析を行っている項目以外に感染失敗の予測因子となりうる項目があるのでは、という指摘もありました。

蛇足ですが、この研究内で救急受診後に外来で静注抗菌薬を継続するためクリニックを再診した85人の患者の診断の正確性は96.5%(82人)だったようです。3人は感染症内科医により別の診断がつけられました。

いかがでしょうか??

バイタルサインで頻呼吸は大切だと口うるさく言われているかもしれませんが、まさしくその通りの結果かもしれませんね。臨床では1つの項目のみで判断することはないと思いますが、個人的には頻呼吸がなくても安心できないが、頻呼吸がある場合は注意しようと思います。

3. Duration of Electrocardiographic Monitoring of Emergency Department Patients with Syncope .

Circulation. 2019;0(0).

続いて失神患者でCanadian Syncope Risk Score (CSRS)と2時間の心電図モニターを組み合わせると、重大な不整脈の見逃しがほとんどなかった、という研究です。

皆様はCSRSを覚えていらっしゃるでしょうか??2016年の8月に文献班の宮本先生が紹介しているので(http://www.emalliance.org/education/recommend/dissertation/2016816-journal)、おさらいしましょう!!

CSRSは以下の9つから構成されている失神リスクスコアです。

・vasovagal syncopeを疑わせる病歴 -1点 (暑く混雑した場所、長時間の立位、恐怖や強い感情、痛み)

・心疾患の既往 1点

・収縮期血圧90mmHg以下もしくは180mmHg以上 2点

・トロポニン上昇 2点

・QRS軸が-30度以下もしくは100度以上 1点

・QRS幅が130msec以上 1点

・QTcが480msec以上 2点

・ERでの診断がvasovagal syncopeである -2点

・ERでの診断が心原性失神である 2点

さて失神診療の問題点の一つに、救急外来で経過観察をするべき時間が不明である点が挙げられます。今回著者らは、この問題に取り組んでおります。ところで、この研究もオタワ大学からです。

この研究はRiSEDS study(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24629180?dopt=AbstractPlus)のprespecified secondary analysisです。

著者らはカナダの6つの大学病院の救急部で、失神を呈したのち24時間以内に救急部を受診した、16歳以上の成人を対象に前向きコホート研究を行いました。

除外基準は5分を超える意識消失、意識変容、明らかに目撃のある痙攣、意識消失による頭部外傷あり、です。また入院を必要とする外傷患者や言語の壁、お酒·ドラッグにより正確な病歴聴取困難の場合も除外されています。

元のstudy(RiSEDS study)の一次目的は救急を受診する失神のリスクを予測するツールを作成することでしたが、二次目的の1つは不整脈を検知するために必要な心電図モニターの時間と、それを行う適切な場所を明らかにすることでした。

このstudyではプライマリーアウトカムを救急受診後30日以内の重大な不整脈によるアウトカム(死亡、重大な不整脈、不整脈に対するペースメーカー留置やICD留置などのインターベンション)と設定しています。不整脈以外による重大なアウトカムは除外されています(心筋梗塞、大動脈解離、肺塞栓、くも膜下出血、その他重大な出血など)。またCSRSで0点以下をlow-risk、1-3点をmedium-risk、4点以上をhigh-riskに分類しています。30日内のアウトカムは受診状況や電話でのフォロー、州の死亡統計などを参照しています。


結果です。2010年9月から2015年3月の間に15946人がスクリーニングされ、7674人が組み入れ基準に合致し、最終的に5581人(78.9%)の患者が組み入れられました。重大なアウトカム(不整脈以外を含める)を呈したのは417人(7.5%)おり、40人が死亡しました。重大な不整脈によるアウトカムは207人(3.7%)に起こりました。

30日間フォローアップできた5235人のうち47人(0.9%)が帰宅後に重大な不整脈によるアウトカムを呈しました。

CSRSでリスクを層別化したところ、4123人(74%)がlow-risk、1062人(19.0%)がmedium-risk、396人(7.1%)がhigh-riskに分類されました。

Low-riskを呈した患者の受診後30日以内の不整脈によるアウトカムの発生率は0.4%でした。


著者らは心電図モニターによる最適な経過観察時間をlow-riskの患者群では2時間と決定しました。Low-riskに分類された患者のうち、15人(0.4%)が不整脈によるアウトカムを呈し、そのうち6人は来院後2時間以内に呈しました。2時間の経過観察以降、low-risk患者では30日以内の重大な不整脈によるアウトカムは0.2%でした。

一方でmediumもしくはhigh-riskに層別化された患者群では、6時間のモニターが最適と決定しました。medium-riskの患者群のうち、不整脈によるアウトカムを呈したのは92人(8.7%)で、そのうち45人が6時間以内に呈しました。またhigh-risk群では100人(25.3%)が呈し、47人が6時間以内でした。6時間の経過観察以降、30日以内の不整脈によるアウトカムの発生率はmedium-risk群で5.0%、high-risk群で18.1%でした。

この研究のリミテーションは組み入れ基準に適合する約1/5の患者が除外されていること、不整脈によるアウトカムを対象にしており、その他のアウトカムは対象にしていないこと、そしてCSRSの項目自体に診療した医師の主観が含まれていることなどが挙げられます。

この結果を受け、著者らはCSRSでhigh-riskに分類される患者では短期間の入院を、medium-riskの患者群では外来での不整脈モニターを勧めています。

CSRSは前回文献班で紹介するにあたっても、主観的要素が項目に含まれていることが使用しづらいという意見がありました。とはいえCSRSでlow-riskに分類される患者では心電図モニターと組み合わせることで、2時間の経過観察で帰宅できるかもしれません。私としては、CSRSを完全に信頼してはいませんが、low-riskに分類される患者で確約の一つとして使用していこうかと考えております。

4. Martial arts technique for control of severe external bleeding.

Emerg Med J. 2019 Jan 5.

最後に少し趣の異なる文献をご紹介いたします。

皆様の中にブラジリアン柔術をたしなんでいらっしゃる方はおりますでしょうか??

そのような先生には是非試して頂きたい四肢の血管の圧迫方法をご紹介いたします。

ブラジリアン柔術の技の一つにKnee mount positionがあります。元々は日本の柔術の浮固(うきがため)から由来したもののようです。これは膝を曲げ相手の腹部に体重を乗せて相手を制する方法です。これを四肢の圧迫に応用することで、迅速に血管を圧迫できるのでは??というのが本研究の主旨となります。

Knee mount positionはこの文献の著者の一人であるEric Da Silva教授により直接指導されています。Eric Da Silva教授は20年以上のブラジリアン柔術の経験があり、黒帯のようです。

研究は11人のボランティアを対象に行われました。肩、鼠蹊部、腹部をKnee mount positionで圧迫し、ドップラーエコーで上腕動脈、大腿動脈、大動脈の流速を測定しています。

結果です。

肩の圧迫による上腕動脈の血流はベースラインからから97.5%減少、鼠蹊部の圧迫による大腿動脈の血流はベースラインから78%減少しました。腹部の圧迫による腹部大動脈の血流の減少は35%で、統計学的有意差を認めませんでした。

完全に血流を遮断できたのは、上腕動脈で73%、大腿動脈で55%でした。

少数のボランティアを対象にした結果であり、術者がエコーのドップラー画面を見ることにより膝のポジションを変えてしまう可能性などlimitationが多い研究です。

残念ながらこの研究結果は、私を明日からブラジリアン柔術に取り組ませるほどの説得力はありませんでした。しかし面白い文献と思い紹介させて頂きました。ブラジリアン柔術をたしなんでおられる救急医の先生は是非現場で応用してみてください!!

2月前半の文献紹介は以上となります。

これからも文献班をよろしくお願いいたします。

山本 一太

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沖縄県立中部病院救急科

山本一太

Mail: t00780iy@hotmail.co.jp

住所: 沖縄県うるま市字宮里281

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