2019.05.02

2019/1/31 文献紹介

文献班より福岡徳洲会病院の鈴木です。

インフルエンザが流行して、みなさん大忙しだと思います。

こんな時は人が集まる場所には行かず、自宅でゆっくりと文献を読むのが正しい(?)休日の過ごし方です。

もしくは外来から逃避して医局でゆっくりと文献を眺めてみるのも一興かもしれません。

今回はテーマがバラバラな4つの文献をご紹介します。

①J Emerg Med. 2018 Oct 31. pii: S0736-4679(18)30953-3.

Transoral Point-of-Care Ultrasound in the Diagnosis of Parapharyngeal Space Abscess.

皆さんの施設の中に救急医が扁桃周囲膿瘍の穿刺をしている所はありますか?

その際は経口エコーを使って穿刺部位の確認はしていますか?

単純な扁桃周囲膿瘍と深頸部膿瘍を自信をもって鑑別できますか?

おそらく日本ではかなり稀なセッティングだと思いますが、トロントから面白い症例報告です。

近医から扁桃周囲膿瘍疑いの穿刺ドレナージ目的で救急部に紹介された44歳女性です。

救急のレジデントが経口エコーで位置を確認したものの、扁桃は正常でした。そこで周囲をエコーで観察すると、より外側の副咽頭間隙にhypoechoic areaが・・・

深頸部膿瘍(副咽頭間隙膿瘍)の診断になりました。

扁桃周囲膿瘍は外来でも排膿できますが、深頸部膿瘍の排膿は普通は手術室で行うことになります。

呼吸状態が悪化するリスクや治療方法が違うため、初期の鑑別は重要です。

この鑑別のために造影CTを行うのが通常だと思いますが、もしもエコーという手段があれば鑑別の一助になるかもしれません。

救急外来ではあらゆる領域でpoint-of-care超音波(POCUS)の有用性が叫ばれていますが、緊急度・重症度の判断のために経口エコーもマスターしておけば治療戦略の新しい選択肢になるかもしれないと思いご紹介させて頂きました。

②JAMA. 2018 Dec 4;320(21):2211-2220.

Effect of Early Sustained Prophylactic Hypothermia on Neurologic Outcomes Among PatientsWith Severe Traumatic Brain Injury: The POLAR Randomized Clinical Trial.

重症頭部外傷に対する低体温療法のRCTです。

もう低体温療法なんてやってないよ、せいぜいnormothermiaの体温調節療法までだよ、という方も多いと思います。しかしこの話題、じつはまだ決着がついていない分野でもあったんです。

2015年に発表されたEurotherm3235 trialは、標準治療をしても脳圧があがった患者に低体温療法を追加したところ神経予後がむしろ悪化したという結果でした。

しかし最初から低体温を開始する、いわゆる“予防的な低体温療法”の是非が否定されたわけではありません。

またこれまでに予防的低体温療法を否定してきた論文は、体温調節の開始が遅かったり、低体温の時間が短かったり、ICPに関わらず復温したり、といったLimitationが多くありました。また予定した患者数の半数に満たずに打ち切られ、低体温に効果なしという結論となってたRCTも2つありました。

このような文献的背景をもとに、重症頭部外傷の最も積極的な治療として、頭蓋内圧に関わらず予防的に低体温療法を開始するという方法を選択肢として残している施設も多くあったのです。

これらのLimitationを突破すべく、6つの国で500人以上の患者が集められました。18歳~60歳のGCS8点以下の頭部外傷を対象に、33-35℃を目標に少なくとも72時間は維持し、ICPを見ながら0.25℃/hr未満でゆっくり復温するというStudy designでnormothermiaとhypothermiaを比較しました。

”まじめに”予防的な低体温療法をしたら効果があるのか、という議論に終止符を打つべく組まれたRCTとも言えると思います。

結果ですが、まったく低体温療法による効果は見られませんでした。神経予後良好な群の割合は差がなく(48.8% vs 49.1%; relative risk with hypthermia, 0.99[95%CI, 0.82-1.19] )、肺炎の割合は低体温療法群に増える傾向にありそうでした(55.0% vs 51.3%)。

この議論には終止符が打たれたと読みましたが、EM AllianceのMLメンバーの中にはこの話題に詳しい方もいらっしゃると思います。ご意見を頂けると幸いです。

③J Trauma Acute Care Surg. 2019 Jan;86(1):20-27.

Tranexamic acid administration is associated with an increased risk of posttraumatic venousthromboembolism.

2010年のCRASH-2 trial以降、外傷にトラネキサム酸を入れるのは当たり前の治療になりました。

一方で静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症や肺塞栓)も重症外傷患者では頻繁にみられる合併症ですよね。

トラネキサム酸が静脈血栓塞栓症を増やしているんじゃないかと疑ったことはないですか?

実は最近アメリカ軍隊の治療を行う病院から、トラネキサム酸は静脈血栓塞栓症を増やす独立した危険因子であるとも報告されていました。

(JAMA Surg. 2018 Feb 1;153(2):169-175. Evaluation of Military Use of Tranexamic Acid and Associated Thromboembolic Events.)

今回は2012年~2016年の5年間でピッツバーグ大学病院を受診した22000名ほどの外傷患者を対象に、トラネキサム酸を投与された群と投与されなかった群をプロペンシティスコアでマッチングさせて比較しています。マッチング項目は年齢・性別、来院時のヘモグロビン・乳酸値・INR・収縮期血圧を含みます。

結果としてトラネキサム酸投与群には静脈血栓塞栓症が3倍も多いという結果になりました。死亡率を加味しても2.4倍も多いという結果でした。

注意しなくてはいけないポイントとしては、この施設ではトラネキサム酸投与の基準が決まっていないため、医師の裁量でトラネキサム酸を投与しています。マッチング項目には医師が投与するか否かを考えた理由が全て含まれているわけではありませんので、本当に充分にマッチングできているかは分かりません。現にトラネキサム酸群の方が輸血量が多くなっており、これが静脈血栓症に影響している可能性もあります。

かなりLimitationも多い文献ですので、この文献を読んだから重症外傷にトラネキサム酸を入れるのをやめるという人はあまり居ないと思います。ただし不必要な投与を辞めるという根拠の1つにはなり得るかもしれませんね。

④BMJ. 2018 Dec 18;363:k5343.

Parachute use to prevent death and major trauma when jumping from aircraft: randomized controlled trial.

皆さん、昨年のBMJクリスマス特集も楽しみましたか?

少し前の話題になってしまいましたが、気になる文献だったのでご紹介します。

筆者らは航空機から墜ちる際のパラシュートの有用性を調べるために92名の参加者をスクリーニングしました。

そのうち23名の参加者をパラシュートを使う群とパラシュートを使わずにジャンプする群に割り付け。

なんと、結果はパラシュートによる死亡や外傷の予防効果はまったく見出せませんでした。(0% for parachute vs 0% for control;P>0.9)

皆さんも航空機から墜ちる際にはパラシュートを使うのが当たり前だと考えていたと思いますが、初めてのRCTでパラシュートによる安全効果にはEvidenceがないのだという結論が得られました。

Limitationとしてはパラシュートを使った群は中央値で9146mの高さからジャンプしたのに対し、パラシュートを使わない群は中央値で60cmの高さからのジャンプであったことが挙げられました。

・・・このように、短い文章にまとめられた文献紹介を真に受けると大きな間違いを犯してしまうことがあります。文献の本文の写真をみれば思わず笑ってしまうと思いますが、短い紹介文や論文の表だけを見ていたら、現実的な問題を見過ごしてしまうかもしれません。

情報化社会でどうやって情報を得るか、、、痛烈な皮肉が込められたジョークだと感じるのは私だけでしょうか?

鈴木