2019.05.02

2019/1/22 文献紹介

2019年もEMA文献班をよろしくお願いいたします。

新春1本目にご紹介させていただくのはこちら

Akhlaghi N et al., Premedication With Midazolam or Haloperidol to Prevent Recovery Agitation in Adults Undergoing Procedural Sedation With Ketamine: A Randomized Double-Blind Clinical Trial.

Ann Emerg Med. 2019 Jan 3. PMID: 30611640

前回の文献紹介で、低用量ケタミン(0.3~0.5mg/kg)の鎮痛効果のレビューをご紹介させていただきました。

文献班メンバーの中では救急外来での創処置や整形外科的処置時にケタミンを用いるという意見がありました。

ケタミンによる鎮静から覚醒する際に、過度な興奮が問題となる場合があるようです。

文献的には発生率は11-53%と言われています(Anesth Analg 2011;1121082-5)。

文献班メンバーの経験では「そんなにあるのか?」という意見が大半でしたが読者の皆様の感覚はいかがでしょうか。

本研究はケタミン1mg/kgを投与する5分前にミダゾラム0.05mg/kgまたはハロペリドール5mgを静注することで覚醒時の過度な興奮が減らせるかどうかを調べた研究です。これまでにも類似の研究はなされていますが、興奮の程度などが客観的に示されていないものが多く、それらをクリアしたのがイランのSina Hospitalで行われたこのRCTです。

結果は、ミダゾラムもハロペリドールも対照群と比較して覚醒時の過度な興奮を減少させました。

Pittsburgh Agitation Scaleの最大値はミダゾラム・ハロペリドール共にプラセボと比較して優位に低く、ミダゾラムはプラセボとの点数差が3(95%CI 1.27-4.72)、ハロペリドールはプラセボとの点数差が3(95%CI 1.25-4.75)でした。

Richmond Agitation-Sedation Scale(RASS)はミダゾラム・ハロペリドール共にケタミン投与5分、15分、30分後のRASSスコアは低くなる傾向にありました。

その一方で、CLINICIAN SATISFACTION WITH SEDATION INSTRUMENT (CSSI)で評価された臨床医の満足度に優位差はなく。

覚醒までの時間はミダゾラムを用いたほうが17分(95%CI 9.05-24.95)、ハロペリドールを用いたほうが32分(95%CI 25.19-38.81)遅くなるという結果でした。

覚醒までの間観察するスペースや時間に余裕があればケタミンにミダゾラムやハロペリドールを併用することを考慮してもいいかもしれませんが、悩ましい結果ですね。

ちなみにプラセボとして静注されたものが蒸留水なのが若干気になっています。大丈夫なんかな…

2つ目はこちら

Bibler TM, Miller SM. "What if she was your mother?" Toward better responses.

J Crit Care. 2019 Feb;49:155-157. PMID: 30439630.

難しい意思決定をする際、患者さんのご家族から「先生の親ならどうしますか?」と質問を受けた経験や、

あるいは意思決定に際してこちらから「自分の親ならこうします」という説明をした経験は少なくないのではないでしょうか。

本文中に

response such as “I wouldn't do this to my mother” (or its opposite) is unlikely to serve the patient or address the surrogate's genuine uncertainty and moral distress.

という記載があります。「そうでもないんじゃないかなぁ」というのが率直な感想ですが、真意としては

患者さんのご家族の真の問いは「医師が自分の家族ならどう判断するか」ではなく「結局自分たちはどうすればよいか」であり、

その答えにたどり着くためにお互いが考えるべき事がある、ということでした。

代理意思決定者(患者家族)に考えてもらいたいこと(1.感情に関するもの 2.子供としての役割に関するもの 3.意思決定に関するもの)

医療者自らが考えること(1.喪失ついて 2.疾患の経験について 3.終末期に関する自分の好みや傾向について)

それぞれにつき5つ程度の具体的質問が列挙されています。

例:

代理意思決定者の感情に関する質問

  • (あなたの親の)最近の病気はあなたにどのような影響を与えたか
  • どのような支援を受けることができるか
  • 話ができる人はいるか
  • 精神的ケアの専門家と話がしたいか
  • 罪悪感、恐れ、失敗の感情に苦しんでいるか
  • 医療者自身の終末期に関する好みや傾向について考えること

    • 自分に死が近づいた時、重要なことは何か
    • 自分のケアをしてくれるのは誰か
    • 自分が亡くなったことを示す兆候は何か
    • 今の自分にとって「良い一日」とはなにか。年をとったり病気が進んだときに「良い一日」はどう見えるか。
    • その「良い一日」に戻るために自分はどのような介入を望むか
    • 宗教的/精神的信念が終末期の考え方に影響を与えているか
    • 自分の願いが自分の家族や医療チームの考えと矛盾しないか
    • 最近は倫理的要素を話し合う多職種カンファレンスなども多く開催されますね。

      抽象的な内容であるがゆえにどう考えれば良いのか迷う場面は多いと思います。

      そのような際の頭の整理にお役立ていただければ幸いです。

      先週末は京都で第19回EMA meetingが開催されました。

      今年もEM Allianceのコンテンツがますます充実するよう頑張りますのでお楽しみに!

      EMA文献班

      聖マリアンナ医科大学 救急医学

      川口剛史