2018/12/31 文献紹介
暑い沖縄から、熱い文献をご紹介します。
①N Engl J Med. 2018 Nov 22;379(21):2002-2014. doi: 10.1056/NEJMoa1802598.
Lactobacillus rhamnosus GG versus Placebo for Acute Gastroenteritis in Children.
Schnadower D et al.
②N Engl J Med. 2018 Nov 22;379(21):2015-2026. doi: 10.1056/NEJMoa1802597.
Multicenter Trial of a Combination Probiotic for Children with Gastroenteritis.
Freedman SB et al.
1つ目は、NEJMから。胃腸炎の小児に対してプロバイオティクス(乳酸菌製剤)を処方しても効果が認められなかったというスタディです。
多施設RCTが…しかも2つのスタディで。
生後3ヶ月〜4歳の小児の急性胃腸炎に対して、調べられました。 ひとつのスタディでは、米国10施設の小児救急で、971人に対して、Lactobacillus rhamnosus GGもしくはプラセボ薬を5日間投与を行いました。 もう一方のスタディは、カナダの6施設の小児救急で、886人に対して、Lactobacillus rhamnosus R0011とL.helveticus R0052もしくはプラセボ薬を5日間投与を行いました。 結果、どちらのスタディでもプライマリ・アウトカムの14日以内の中等度・重度の胃腸炎(修正Vesikariスケールが9点以上)の発症率と、セカンダリ・アウトカムの嘔吐下痢の期間などについて、どれもプロバイオティクスの効果は認められませんでした。
マジかよ…!!
これまで、プロバイオティクスは小児胃腸炎に一定の効果があるとされていたので、処方していました。 しかし、嘔吐してる子供に薬飲ませるのはかなり苦労しますし、子供も可哀想。もう今後は処方しないでしょう。 そして、りんごジュースを勧めるのは忘れずに。http://www.emalliance.org/education/recommend/dissertation/2016531-%E6%96%87%E7%8C%AE%E7%B4%B9%E4%BB%8B
③Acad Emerg Med. 2018 Oct;25(10):1086-1097. doi: 10.1111/acem.13502. Epub 2018 Jul 17.
A Systematic Review and Meta-analysis of Ketamine as an Alternative to Opioids for Acute Pain in the Emergency Department.
Karlow N et al.
2つ目は、低用量ケタミンの鎮痛効果についてのレビューです。 ケタミンは、救急外来で頻回に用いる薬剤で、いざというとき頼りになるヤツですよね。
他の鎮静薬と比べて、血圧が下がりにくく、呼吸抑制も起こりにくい安全性があります。 ですので、ショック患者や自発呼吸を残したい緊急挿管の鎮静薬として用います。 また、鎮痛効果もあるので、高齢者の骨折整復や、小児の創傷処置にも用います。
通常の鎮静目的では1.0mg/kg以上を用いますが、今回、鎮痛目的に低用量として0.5mg/kg以下で用いたものについて調べられました。
結果、3つのスタディが該当し検討されたところ、ケタミン0.3〜0.5mg/kg静注はモルヒネ0.1mg/kg静注と同等の効果が認められたとのことでした。
低用量ケタミンが注目されだしたのは2014年頃からです。 注目される背景として、アメリカではオピオイド中毒の患者が多いので、オピオイドの代替薬を期待されています。 日本ではオイピオイド中毒はアメリカほど問題になっていませんので、この背景は関係ないです。 しかし、それを抜きにしてもこの低用量ケタミンのスタディ結果は有用でしょう。 鎮静目的の1.0mg/kg静注の使用でも、モルヒネ0.1mg/kg静注と同等の鎮痛効果があると捉えて良さそうです。
③Ann Emerg Med. 2018 Dec 7. pii: S0196-0644(18)31420-3. doi: 10.1016/j.annemergmed.2018.10.032. [Epub ahead of print]
Comparison of 30-Day Serious Adverse Clinical Events for Elderly Patients Presenting to the Emergency Department With Near-Syncope Versus Syncope.
Bastani A et al.
3つ目は、高齢者の『意識を失いかけた』が失神と同じくらい危険というスタディです。
本文では完全には意識を失っていないが、意識を失いそうになったもののことを『near-syncopy』と表記されています。
多施設前向き観察研究です。米国11施設の救急外来で60歳以上の3581人について、受診後30日以内の重篤イベントがあったかどうかについて調べられました。結果、前失神と失神では、重篤イベントの発症率が変わりませんでした (18.7% と18.2%)。多かった重篤イベントは、上室性を含む不整脈、冠動脈治療、消化管出血でした。
確かにこれまで、『near-syncopyと失神で考えるべき鑑別疾患は同じ』ということは理解しており、診察では同じ問診・身体所見・検査をしていました。 しかし診察後、原因不明のまま帰宅させるかどうかの判断の際に、失神しかけたというのは失神と比べて”なんとなく”軽症なイメージを持っていました。 これはどうやら間違ったイメージだったということです。以後、改めます。
完全に意識消失したかどうか、ではなく、年齢・呼吸苦の有無・心電図異常・心不全既往の方がずっと重要なようです。
以上です。
来年もどうぞEMA文献班をよろしくお願いいたします。
沖縄県立中部病院 救急科 岡正二郎拝