2019.05.02

2018/12/18 文献紹介

EMA文献班より健生病院の徳竹雅之です。

今回は3つの文献をご紹介したいと思います。

①Am J Emerg Med. 2018 Dec;36(12):2187-2191. doi: 10.1016/j.ajem.2018.03.069. Epub 2018 Mar 28.
Factors associated with absent microhematuria in symptomatic urinary stone patients.

尿管結石で顕微鏡的血尿が認められない患者はどんな特徴があるか?

みなさんの施設では背部痛を訴えて受診する患者で尿管結石を疑う場合、尿検査は実施していますか?尿検査が陰性だから尿管結石ではない!と除外診断できないことはご存知の通りだと思います。(陽性だから尿管結石だ!としてはならないことも同様です)実際、これまでの研究から尿管結石のうち9-33%で尿潜血が陰性になることが報告されています。

さて、ではどのような患者群で尿潜血が陰性になるのでしょうか。それを調べたのが今回の研究です。

2014年~2015年に韓国のERを受診した尿管結石を疑う患者を対象に行った後ろ向き研究。18歳以上で、単純CTにて尿管結石を認めた患者798人が対象。尿管結石を疑う疼痛がある患者に対して、トリアージ後に尿検査を実施、続いて単純CTを行った。尿管結石として典型的な症状を呈していない場合、60日以内の手術や泌尿器科的介入があった症例、CTで尿路閉塞所見はあるが結石自体を認めない場合、疼痛と反対側に偶発的に発見された尿管結石症例は除外。 月経前後の女性では尿道カテーテルで採取、尿潜血陽性の定義を400倍の高倍率顕微鏡での観察で≧4RBCs/HPFとした。

48人(6%)では尿潜血陰性となり、多重ロジスティック回帰解析では尿管結石の位置が低位(OR2.72[95% CI 1.37–5.36])、腎周囲の軟部陰影増強(OR1.87[95% CI 1.01–3.46])、BUN上昇(OR1.06[95% CI 1.01–1.12])の3つが関連する因子であった。一方で、年齢や性別、基礎疾患や結石の大きさなどは関連がなかった。

ただ、上記の因子は血液検査やCTを行なって初めて分かってくる項目になります。そもそも採血やCTを先に行ってしまえば、(検尿の結果に関わらず)尿管結石の有無も分かってしまう事が多いと思われます。なので、、、(紹介しておいてなんですが)臨床での応用はイマイチかもしれません。

と言う事で尿潜血陰性だった時の話のネタとしてお考えください。

ここからは2つほど小児の外傷についての文献を紹介したいと思います。

外傷と言えば、ここ青森県弘前市では外傷に季節性があることが特徴です。

春~夏にかけては「スピードスプレヤー」による農薬散布での外傷(特に、枝に頭が当たって中心性脊髄損傷…というパターンが多い)、秋~冬にかけてはりんご収穫時はしごからの転落外傷が多くなります。現在、雪はだいぶ積もっていますが、これからの季節は凍結した地面で滑って転倒したり、屋根の雪下ろしをしていて転落や雪の下敷きになる…自動車のスリップ事故も多くなります。雪道を自転車でひた走る(勇気ある?)人たちの事故もそこそこ経験します。

多くは鈍的外傷ですが、そんな鈍的外傷についてのretrospective studyを紹介します。

※スピードスプレヤー…農薬を散布する目的で使用される、屋根のない自動車のような機械。弘前では有名な乗り物。

②Am J Emerg Med. 2018 Nov 23. pii: S0735-6757(18)30943-4. doi: 10.1016/j.ajem.2018.11.031. [Epub ahead of print]

External validation of a clinical prediction rule for very low risk pediatric blunt abdominal trauma.

小児の鈍的腹部外傷で、重度の損傷を疑いCTを撮るべき患者はどんな患者か?

小児の鈍的腹部外傷に対してどのように戦略的に対応していますでしょうか。重大な見逃しを最小限にするために全例外傷CTを撮る施設もあれば、身体所見とFASTを繰り返し行うことで重大な合併症を見逃さないように努力する施設もあると思います。

小児に対してはCT撮影は被曝の問題があり、必要なシーンもありますがなるべくその使用を控えたいところです。

そこで、2013年にHolmesらにより小児鈍的腹部外傷のうち、臨床的に重大な腹腔内臓器損傷(CIIAI)の可能性が低い患者を特定するためのclinical prediction ruleが提唱されました。

以下の全てを満たす場合にはCIIAIの可能性が非常に低いと考えられ、その高い陰性的中率と感度(99.9%、97%)から小児鈍的腹部外傷に対するCT使用を控えることができると報告されました。

  • 腹壁損傷やシートベルト痕なし
  • GCS14-15
  • 腹部圧痛なし
  • 胸部外傷なし
  • 腹痛の訴えなし
  • 呼吸音の異常がない
  • 嘔吐なし
  • 今回は上記trialの妥当性を評価するためのexternal validationが発表されましたのでご紹介したいと思います。

    アメリカの小児外傷センターを受診した18歳以下の患者を対象にレジストリをretrospective review。2011年1月~2016年8月にレジストリに登録されていた腹腔内臓器損傷ありかつ緊急での介入を要した患者が対象。穿通性外傷や妊婦、神経疾患の既往がある患者は除外。

    ※緊急での介入とは死亡、開腹術や血管塞栓術、出血に対する輸血、膵損傷や腸管損傷に対する2日以上の輸液管理をさす。

    レジストリに登録されていた5743人のうち、最終的に133人が対象となった。男児が60%、平均年齢4歳、消化管/腸間膜/肝/脾損傷が多く、その原因は自動車事故が最多であった。clinical prediction ruleを適応し、CIIAIに対し感度99%(95%CI 95.9-100)であった。 なお、死亡した患者は1人であり、腹腔内臓器損傷(肝損傷、副腎損傷)のほか、外科的対応を要する大動脈損傷もあった患者であった。

    originalの報告と本研究では以下の点で異なっています。

    • 感度を高めるため、受診まで24時間以上経過した症例、受傷時間や受傷起点が不明の患者も含めた
    • CTや腹腔洗浄により腹腔内損傷が確定診断となった、関連施設からの転院搬送症例も含めた
    • Limitationとして単一施設でのtrialでありCIIAIを呈している小児患者が十分数確保できていないこと、損傷部位が特定できなかった症例はレジストリには含まれていないこと、手動でのデータ入力のためデータ入力時点でのミスの可能性などが挙げられます。多施設での前向き研究が待たれます。

      特に小児に対してはCTを撮るのも撮らないのも勇気がいる選択です。

      「高エネルギー外傷だけど、見た目は明らかに元気そう。個人的にはCT必要ないと思うけど、文献的な根拠がほしい…!」というシチュエーションで、小児を被曝させることなく安全にCIIAIを除外するのに役に立ってくれるclinical prediction ruleなのではないかと思います。

      ③West J Emerg Med. 2018 Nov;19(6):961-969. doi: 10.5811/westjem.2018.9.39429. Epub 2018 Oct 18.

      Risk Factors in Pediatric Blunt Cervical Vascular Injury and Significance of Seatbelt Sign.

      小児鈍的外傷における頸部血管損傷のリスク因子はなにか?

      個人的な経験ですが、頸部血管損傷はこれまでは幸いそこまで多く遭遇していませんし、成人例しか経験がありません。GCS≦8/頭蓋底骨折/びまん性軸索損傷/頸椎骨折(特にC1-3骨折や横突孔にかかる骨折、亜脱臼や脱臼を伴う場合)/顔面骨骨折(Lefort Ⅱ or Ⅲ)は頸部血管損傷のrisk factorとされ、Eastern Association for the Surgery of Trauma(EAST)ではこれを用いてのスクリーニングが推奨されています。

      小児において鈍的外傷後の頸部血管損傷の頻度は0.03-0.9%と非常にまれであることが報告されています。 受傷直後には神経学的異常が出現しないことがあり最大10-72時間のタイムラグがあることもあり診断が難しいとされています。 さらに被曝のリスクを考慮して診療を行わなければならないことも診断を難しくしている要素だと思います。放射線被曝線量だけで比較すると、頭部単純CTだけなら2mSv、頭頸部CTAでは16mSvほどと、約8倍ほどの違いがあり、将来的な白血病や脳腫瘍などの発症リスクを考えるとなるべくCTAは選択したくないのが本心です。

      EASTでは上述した成人と同様のrisk factorを用いてスクリーニングをすることが推奨されていますが、実はこれまで小児鈍的外傷における頸部血管損傷のrisk factorは特定されていませんでした。

      そこで、それを特定する目的でされたのが本研究になります。有名なseatbelt signについても分析されています。

      外傷レジストリのretrospective review。2002年11月~2014年12月にアメリカの外傷センターを受診、鈍的外傷に対してCTA実施された18歳未満の患者が対象。13735人がレジストリに登録されており、鈍的外傷は11446人(83.3%)、このうち対象となったのは375人(3.3%)。最終的に53人(全鈍的外傷の0.5%、CTA実施された患者の14%)に頸部血管損傷を認めた。

      単回帰分析によりGCS≦8、ISS≧16、脳出血や脳梗塞の画像所見あり、頸椎骨折、頭蓋底骨折が頸部血管損傷のリスクとされ、多重ロジスティック回帰分析により頸部血管損傷と関連のある因子は以下の通りであることが特定された。

      • ISS≧16点…OR2.35[95% CI 1.11-4.99]
      • 頭部CTで脳梗塞所見…OR3.86[95% CI 1.49–9.93]
      • hanging mechanism(縊頚)…OR8.71[95% CI 1.52–49.89]
      • 頸椎骨折…OR3.84[95% CI 1.94–7.61]
      • 頭蓋底骨折…OR2.21[95% CI 1.13–4.36]
      • これらの結果はhanging mechanism症例を除いて分析しても同様の結果であった。注目のseatbelt signについては関連する因子ではなかった。

        前述の研究と同様ですが本研究も単一機関でのretrospective reviewであることや、CTAを実施せず比較的軽微な損傷を見逃していた可能性などlimitationがあります。

        まだまだ本格的に使用するのは厳しい研究成果でありますが、こちらも今後の研究が期待されます。少なくとも、外傷として重症度が高い場合、頭頚部の骨折所見がある場合、縊頚の受傷起点の場合には積極的に頸部血管評価を行う必要性があることは覚えておきたい事項だと思います。

        今回の文献紹介は以上になります。 早めのクリスマスプレゼントになりましたでしょうか。 今後とも文献班をよろしくお願い致します。

        -- 健生病院 救急集中治療部 ER
        徳竹 雅之(とくたけ まさゆき)