2018/12/4 文献紹介
EMA文献班より京都府立医科大学の宮本です。
今回も「明日から使える!」をテーマに3つの厳選文献をご紹介したいと思います。
①Pediatrics. 2018 Nov;142(5). doi: 10.1542/peds.2018-1009. [Epub ahead of print]
Acetaminophen and Febrile Seizure Recurrences During the Same Fever Episode.
熱性けいれんに解熱薬を使っていいかどうかに関しては常に議論の分かれるところだと思います。今回はその議論に終止符を打つべく発表された大阪の枚方("まいかた"ではありませんよ!)発の文献です。
単施設open-labelでの前向きランダム化比較試験です。2015-2017年までに枚方市民病院に38℃以上の発熱を伴ったけいれん発作で来院した6ヶ月~5歳未満の児を対象にしました。中枢神経感染症の患児、今回の発熱のエピソードで2回以上のけいれん発作、15分以上の痙攣の持続していた患児(=てんかん重積を疑う症例)、基礎疾患(てんかん・染色体異常・先天性代謝異常・脳腫瘍・頭蓋内出血・水頭症・頭蓋内手術の既往)のある患児は除外されました。また、痙攣の閾値を変化させるような薬剤としてジアゼパムや抗ヒスタミン薬を投与されていた患児や座薬がうまく挿入できなかったり胃腸炎関連痙攣の可能性もあるため下痢を伴う痙攣患児も除外されました。
これらの患児を2群に分け、一方ではアセトアミノフェン10mg/kgを6時間おきに24時間投与し、もう一方ではコントロール群として解熱薬を投与しないように指導しました。なお、コントロール群はプラセボを使用していません。
438人の患児が対象になり、229人が解熱薬の座薬を使用され、209人が解熱薬を使用しない群に割り付けられました。患児の年齢を考慮せずに両群を比較すると、解熱薬使用群は9.1%、解熱薬使用しない群は23.5%と解熱薬使用群の方が有意にけいれん発作の再燃を防ぐことが出来ました。また6−21ヶ月の患児と22-60ヶ月の患児に分けても、解熱薬使用群の方が有意にけいれん発作の再燃を防ぐことが出来ました。(6−21ヶ月児:13.2% vs 24.3%・22−60ヶ月児:4.1% vs 22.6%) 2変量解析ではアセトアミノフェン座薬の使用以外に、年齢(低いほうが再発しやすい)・けいれんの持続時間(短いほうが再発しやすい)の2点が有意にけいれん発作再燃のリスク因子でした。
こうやって見ると、アセトアミノフェンの投与は熱性けいれんの予防として有効であると結論付けることができそうです。 しかし、過去のRCTやmeta-analysis(Eur J Pediatr. 1993;152(9):747–749・J Pediatr. 1995;126(6):991–995・Arch Pediatr Adolesc Med. 2009;163(9):799–804・Cochrane Database Syst Rev. 2002;(2):CD003676など)ではいずれもアセトアミノフェンを含めた解熱薬の有効性は示されていません。筆者は特に1993年のRCT(Eur J Pediatr. 1993;152(9):747–749)と比較し、今回有効であると差が出た原因の1つに、今回のRCTではコントロール群では一切解熱薬を使用しないように指示したのに対し、前述のRCTは、コントロール群で頓用でのアセトアミノフェンの使用を許可していたためアセトアミノフェンの有効性が過小評価されていたのではないかと述べています。 また、今回の研究は「同じ発熱エピソードにおける熱性けいれんの再発予防の有効性」を支持した文献であり、アセトアミノフェンが「1回の発熱エピソードでの初回の熱性けいれん発生を予防するかどうか」は結論付けることが出来ないと筆者は述べており、その点に解釈・臨床上の利用に注意が必要です。
②Acad Emerg Med. 2018 Aug 9. doi: 10.1111/acem.13547. [Epub ahead of print]
Discriminatory Value of the Ascending Aorta Diameter in Suspected Acute Type A Aortic Dissection.
大動脈解離を疑っているが、腎機能が悪かったり、造影剤アレルギーの既往があったりしたことはありませんか? もちろんMRIも有用とは言われていますが、単純CTで大動脈解離が除外できればうれしいですよね? 今回はそんなStanford A型の大動脈解離を単純CTで除外できないか試みた研究です。
カイザーパーマネンテ社の統合ヘルスケア提供システム(KPNC)を用いて、2007年から2015年にそのグループ内の病院を受診した患者を対象にカルテレビューを行った後向き研究です。230人のStanford A型大動脈解離患者と325人のコントロール群の患者が対象として、右中肺動脈レベルのスライスでの大動脈径(外側壁~外側壁まで)を測定し、大動脈解離が除外できる閾値を検討しました。
上記の測定方法でカットオフを34mmとした場合、感度100%・特異度34.8%でした。なお、42mmをカットオフとした場合は感度93.5%・特異度89.2%でした。
また、大動脈径を年齢・性別・体表面積で標準化したZ-score(https://www.marfan.org/dx/zscore)を用いるとZ-scoreのカットオフ値1.84で感度100%・特異度66.8%でした。
大動脈解離に「絶対」という言葉はないと個人的には思っていますが、それでもこの文献を最後の一押しに使えるのではないでしょうか?明日からお試しあれ!
③Acad Emerg Med. 2018 Jul 25. doi: 10.1111/acem.13523. [Epub ahead of print]
A Case-Control Study of Sonographic Maximum Ovarian Diameter as a Predictor of Ovarian Torsion in Emergency Department Females With Pelvic Pain.
卵巣捻転(Ovarian tumor)はもちろんERで見逃したくない疾患の1つですよね。そして造影CTで評価することも可能でしょうが、エコーで評価できればなおいいですよね。 しかし、ドップラーエコーで卵巣の血流を見るという方法では卵巣捻転の半分程度しか検出できません。
そこで「卵巣の大きさが5cmを超えていなければ捻転することはない」といったpearlを聞いたことはありますでしょうか?今回はそれを支持するような文献をご紹介します。
アメリカの3次病院で2000年から2014年にかけてのカルテ記録を参照した単施設後ろ向き研究です。 下腹部痛や骨盤痛を訴えて来院し、卵巣捻転の除外目的に超音波検査(経腹エコーもしくは経膣エコー)を施行された患者を対象として卵巣捻転の診断がついた92例と年齢調整されたコントロール群として別の92例を検討しました。超音波検査は放射線科医によって施行されドップラーでの評価も行われました。卵巣は最大径で評価され、2群間でカットオフ値をそれぞれ3cm・5cmとした場合の感度・特異度を評価しました。
結果として、3cmをカットオフとした場合、感度100%(95%CI:96.1%-100%)・特異度35%(95%CI:25.1%-45.4%)、5cmをカットオフとした場合、感度91%(95%CI:83%-96.5%)・特異度92%(95%CI:83.9%-96.7%)でした。 感度100%というのは非常に魅力的ですが、コントロール群でも約60%の患者が3-5cmの卵巣径でした。
卵巣捻転の有病率は0.007%と非常に低いですので、現実的には5cmをカットオフとして利用するのが良いのではないかと筆者は提起しています。なお、ドップラーでの血流低下に関しては感度61%(95%CI:49.2-72%)・特異度98%(95%CI:92.1-99.7%)とスクリーニングにはあまり向いていませんでした。
いかがでしょうか?
3cm以下の卵巣が描出できれば卵巣捻転は否定的である可能性が極めて高いと言えます。5cm以下でも卵巣捻転の可能性はぐっと下がるので、意識しながらエコーを施行してみてはどうでしょうか?
なお最後に、本文のdiscussionにも書かれていますが、初潮前の女児は卵巣径が正常でも可動性の問題で捻転を生じることもあり注意が必要です。この文献でも対象は全年齢の患者ですが、初潮前の女児のn数は20と少なく、3cmをカットオフにした際に感度100%ではありますが、95%信頼区間が71.5-100%と幅広く、さらなる症例集積が必要であると述べられています。
ということでひとまずは初潮後の患者を対象にこの文献を適応すると良いと思われます。
今回の文献紹介はここまでです。皆さま、お腹いっぱいになりましたか?
いつも最後までお付き合いいただき誠にありがとうございます。 今後とも文献班をよろしくお願い申し上げます。
宮本 雄気
京都府立医科大学 救急医療学教室