2019.05.10

2018/10/16 文献紹介

文献班より福岡徳洲会病院の鈴木です。

9月9日(救急の日)と11月9日(119番の日)の合間のこの季節、各地で救急関連のイベントも行われていることと思います。

今回はResuscitationから、救急の醍醐味である「蘇生」に関する良質な3文献をご紹介します。

①Resuscitation. 2018 Oct;131:108-113.
Quantitative assessment of pupillary light reflex for early prediction of outcomes after out-of-hospital cardiac arrest: A multicentre prospective observational study.

蘇生後の神経予後予測に、対光反射の縮瞳率は有用か?

従来の対光反射の評価は、「迅速」「消失」「鈍い」など、主観的に判断せざるを得ない場面も多くありました。一方で、最近では瞳孔径を正確に測定できるハンディータイプのpupilometerが市販されています。pupilometerを用いれば、対光反射でどの程度縮瞳するかを、量的に記録することがすることが可能です。

この文献は蘇生後の患者に対して蘇生0時間後から6時間後、12時間後・・・72時間後までの対光反射時の縮瞳率を測定し、神経予後との関連を調べています。

日本(!)の関東の4病院に運ばれた18歳以上の院外心停止患者50名がIncludeされています。このデータを慶応大学の田村先生らがまとめてくださいました。

結果は72時間以内のどの時点であっても、神経予後の良い患者のほうが対光反射で強く縮瞳していました。これは予想通りの結果だと思います。

では72時間以内のどの時点が、もっとも予後を予測するのによい時点だったと思いますか?
なんと蘇生0時間後の縮瞳率が最もよく予後を予測するという結果になったのです。
3か月後の生存に関しては、縮瞳率3%をcutoffとするとAUROC0.82で陰性的中率100%でした。
3か月後の神経予後良好に関しては、縮瞳率6%をcutoffとするとAUROC0.84で、やはり陰性的中率100%でした。

この驚くべき結果を受けて、我々はどのように日常診療を行えばよいのでしょうか?

1.蘇生直後にペンライトを当ててみた。見た目に縮瞳していなさそうなので積極治療はやめよう。
⇒明らかに論文の結果を読み間違えたアプローチです。Discussionには0.3mm未満の変化(瞳孔3.0mmなら10%の縮瞳率)は肉眼には指摘できないと記載されています。
また3か月後に生存していたのは23人、神経予後良好だったのは13人という比較的小規模の研究です。大規模な追試を行った場合にも陰性的中率が非常に高いことは予想されますが、今後も100%になると考えるのは早尚と思われます。
やはり現状では複数の因子を踏まえて神経予後を推察するしかないと思われます。

2.とりあえずpupilometerを購入してみよう。なんなら追試もしてみよう。
⇒せっかくの日本初のstudyですし、観察研究で可能なテーマです。ぜひご検討ください。
(なおEM Alliance文献班は、Pupilometerの会社とのC.O.Iはありません。)

そうは言ってもCPAって高齢者が多いし、神経予後が悪いことが多いんですよね。救急医としてはつらい気持ちが拭えない時も多いと思います。
でも高齢者のCPA患者も、昔よりは神経予後が良くなっているようですよ!?

②Resuscitation. 2018 Oct;131:83-90.
Assessment of the 11-year nationwide trend of out-of-hospital cardiac arrest cases among elderly patients in Japan (2005-2015).

我々が日常的に記載している院外心停止患者のウツタイン形式の調査票。

ここから京都府立医大の松山先生らがまとめてくださいました。

2005年から2015年までの15年間。65歳以上の心停止患者が87万人以上Includeされています。

65歳から74歳までをyoung-old群、75歳から84歳までをold-old群、85歳以上をoldest-old群と分類しています。

3か月後の神経予後良好に関して、young-old群で1.2%から2.8%に、old-old群では0.6%から1.1%に、oldest-old群では0.2%から0.5%に増加していました。

増えたといっても微増だな・・・というご意見もあると思います。

しかし初期波形がVF/Pulseless VTのShockable rhythmにおいては、young-old群で7.8%から19.2%に、oldest-old群でも1.5%から4.1%に増えています。

この10年の間には電気ショック最大3連発の時代から絶え間ない胸骨圧迫に治療が進歩したのも影響しているのでしょうか。また難治性VFにはアミオダロンも選択されることが増えましたね。蘇生後のケアも大きく発展していると思います。

Prehospital ROSCがかなり増えているのも嬉しい情報ですね。一般市民や救急隊員を教育し続けていくことの重要性を感じます。

一方で、初期波形Asystoleの群の神経予後は、依然として非常に低いままです。3か月後の神経予後が良好だったのはわずか0.1~0.3%でした。

高齢者で初期波形Asystoleという情報は、残念ですがほぼ寿命を迎えていると捉えざるを得ないのかもしれません。

蘇生について教育することの重要性はわかります。しかしACLSやILCSを教えている人なら誰もが、「今日覚えたことをいつまで覚えていてくれるのだろうか。この教育は本当に患者の予後に影響しているんだろうか・・・」と不安に感じたことがあると思います。

3つ目は、そのような皆さんに朗報のStudyです。

③Resuscitation. 2018 Aug;129:48-54.
Impact of adult advanced cardiac life support course participation on patient outcomes-A systematic review and meta-analysis.

「ACLS(ALS)を受けた人が1人でも蘇生メンバーにいた場合、患者の予後は改善するか?」

について調べたmeta-analysisです。

検索でヒットした922の文献のうち、8つの観察研究についてレヴューしています。
結果は、ROSCに関してはオッズ比1.64(95%CI 1.12-2.41)で増えていました。生存退院に関してはリスク差が0.10(95%CI 0.01-0.18)と有意に増えていました。

チームメンバー全員がACLSを受けたわけではなくても、ACLSをうけた人が一人いるだけでも患者の予後に良い影響を及ぼし得るという結果です。
教育中に受講生のモチベーションをアップさせるためにも使えるデータではないでしょうか?

近年の蘇生ガイドラインでは、チーム医療の重要性が強調されるようになりました(チームダイナミクス)。
メンバー1人1人の存在の重要性は、以前よりもさらに増してきているかもしれませんね。

鈴木