2019.05.10

2018/9/15 文献紹介

文献班より沖縄県立中部病院ERの岡正二郎です。
暑い沖縄から、熱い文献をご紹介します。

今回ご紹介する2文献は、病院前挿管についてのRCTです。
どちらも『挿管は声門上デバイスよりも良いというわけではなかった』という結論です。

病院前CPA患者に挿管したら予後悪化するかもって、たしか前に聞いたことあるような…??
と思ったら、5月に自分が紹介してました(^_^;)
http://www.emalliance.org/education/recommend/dissertation/20180515-journal

5月は病院前CPA患者に挿管 vs. BVMを比較したRCTでした。
今回は、病院前CPA患者に挿管 vs.声門上デバイスを比較したRCTです。なるほど。

これまで、病院前CPA患者に対する挿管について、多くの観察研究がありましたが、観察研究だけでは制限が多いのでRCTが望まれていました。
というのも、単純にRCTでないと多くの交絡因子を排除できないということもありますが、それに加えて挿管された患者というのは実は蘇生を長くされたから挿管されたのでは?という疑問が残るということです。例えば、もし蘇生開始後すぐに自己心拍再開したかなり予後の良さそうな症例は、挿管されない例が多くなると思われるからです。(挿管したから予後悪いのではなく、挿管不要なくらい予後良い患者が紛れていたのでは??ということです)

まず、JAMAから

Effect of a Strategy of Initial Laryngeal Tube Insertion vs Endotracheal Intubation on 72-Hour Survival in Adults With Out-of-Hospital Cardiac Arrest
A Randomized Clinical Trial

米国の病院前CPA患者に対して、挿管 vs.ラリンゲルチューブ(LT)をRCTで比較検討されました。対象患者3004人でした。

プライマリ・アウトカムは72時間生存率で、セカンダリ・アウトカムは自己心拍再開、生存退院率、退院時の神経学的予後良好か(Modified Rankin Scale≦3)、重大な有害事象です。

72時間生存率は挿管群15.4%、LT群18.3%(absolute difference, 2.9% [95% CI, 0.2%-5.6%]と、LT群が有意に良い結果でした。また、セカンダリ・アウトカムの自己心拍再開率(24.3%対27.9%)、生存退院率(8.1%対10.8%)、退院時の神経学的予後すべて有意にLT群が良いという結果でした。重大な有害事象である上気道損傷、気道腫脹、肺炎の発症率に有意差はありませんでした。

次に、同じくJAMAから

Effect of a Strategy of a Supraglottic Airway Device vs Tracheal Intubation During Out-of-Hospital Cardiac Arrest on Functional Outcome
The AIRWAYS-2 Randomized Clinical Trial

英国の病院前CPA患者に対して、挿管 vs.igel(イギリス救急隊は声門上デバイスでigel使うのね!!)をRCTで比較検討されました。対象患者9296人でした。

プライマリ・アウトカムは退院時と30日語どちらかの神経学的予後良好か(Modified Rankin Scale≦3)
セカンダリ・アウトカムは換気成功、重大な有害事象です。

神経学的予後良好だったのは挿管群6.8%、LT群6.4%(adjusted risk difference [RD], -0.6% [95% CI, -1.6% to 0.4%])と有意差のない結果でした。また、セカンダリ・アウトカムの換気成功(79.0%対87.4%)重大な有害事象である逆流、誤嚥に有意差はありませんでした。

どちらのスタディも。挿管の方が声門上デバイスと比べて良いというわけではないという結論でした。

やっぱ病院前CPA患者に挿管は考えもんやな…。日本でもLTがええんちゃう…。
…ってほんまかいな??

挿管、バッグバルブマスク、声門上デバイス(LTなど)どれが良いかというのは、当たり前ですが症例によるところは大きいと思います。

患者そのものもかなりいろいろな疾患や背景がありますし、また誰が病院前蘇生を行うかという影響も大きいです。
今回の文献で予後について、思っていたほど大きな差ではありませんでしたし。

そもそも、各地域の挿管成功率によって、患者の予後は左右されます。
当然のことながら、挿管成功率が低い地域では挿管された患者の予後は悪くなります。
今回のスタディは米国と英国で行われたものです。
日本の、しかもそれぞれの地域で挿管成功率は異なるでしょう。

しかしそもそも、今回の文献からもわかる通り病院前CPA患者に対して、普段からあまり挿管はされていないということが読み取れます。実臨床の場でもはや挿管は選ばれていないということなのでしょう。
当たり前ですが、今回の文献の結果を踏まえて今後ますます挿管が減ると思われます。

では、今後どうやって救急隊の挿管技術を保てばよいのか…。心配になりました。

以上です。

岡正二郎拝