2019.05.10

2018/9/6 文献紹介

EMA文献班より健生病院の徳竹です。
遅くなってしまいましたが、8月後半の文献紹介をお届けします。

①Intramuscular Midazolam, Olanzapine, Ziprasidone, or Haloperidol for Treating Acute Agitation in the Emergency Department.
Ann Emerg Med. 2018 Jun 6. (Epub ahead of print)

興奮して暴れている患者の鎮静、なにを使う?

救急外来には暴れている人、興奮している人…たくさん来ますよね。
こういう患者さんに限って実は重症疾患を抱えていたりするので適切に評価しておきたい、しかしあまり近づくと手や足がでてきて自分やスタッフを危険にさらしてしまうリスクがあり、立ち往生してしまうこともしばしば。
言葉による抑制が不可能で、かつ数人がかりでも身体抑制が不可能である場合にはやむなく薬剤による抑制を考慮することもあります。
皆様はこのような場合、どの鎮静薬を使用しますか?

アメリカの単一施設のERで行われたコホート研究。興奮状態の患者に対してそれぞれの薬剤を筋注して反応性を評価。評価された薬剤はhaloperidol 5mg, ziprasidone 20mg, olamzapine 10mg, midazolam 5mg, haloperidol 10mgの5種類。primary outcomeは15分後のAlterd Mental Status Score ≺ 1(AMSS:-4(鎮静状態)~4(興奮状態)まで1刻みでスコアリングされており、score 1は大声を出さず落ち着いている状態)。

737人が対象となり、そのうちアルコール中毒が88%と大多数を占めていました。
midazolam 5mg筋注が最も有効であり、15分後のAMSS < 1達成率は71%でした。よく使われているであろうhaloperidolは投与量を10mgにしても40%前後の達成率でありいまいちでした。
副作用については各薬剤間で有意差を認めませんでした。

アルコール中毒患者が大多数を占めており、患者の偏りがあることは問題点ですが、ERで興奮する患者鎮静の第一選択薬としてはmidazolam筋注がよさそうです。
言葉や人数をかけての身体抑制がfirstではありますが、効果がない場合にはmidazolam筋注をしてみても良いかもしれません。特にアルコール中毒には効果が高いことが示唆されますが、過鎮静になる恐れもあるため、(薬剤投与の有無にかかわらずですが)モニタリングはしっかり行いましょう。

②LOw dose MAGnesium sulfate versus HIgh dose in the early management of rapid atrial fibrillation: randomised controlled double blind study.
Acad Emerg Med. 2018 Jul 19.(Epub ahead of print)

頻脈性心房細動にマグネシウムって使える?

頻脈性心房細動(AF)のrate control、以下のような場合どうしますか?
『65歳男性、動悸感を主訴に受診。HR180bpm、140/90mmHg、呼吸24回/分、SpO2 96%。発作性心房細動に対して抗凝固薬が処方されているが飲んだり飲まなかったり。心不全を疑う所見はない。』

心房細動は加齢とともに有病率が増加し、80歳以上になると約10%に認められます。なかなか患者数は多いという実感を持たれていると思います。その急性期対応は血行動態により大別され、不安定であればcardioversion、安定している場合にはrate control または rhythm controlを行うことになります。
どちらの方法を選択しても長期的予後には影響がないとされていますが、rate controlの方が入院率が低くすみ、rhythm controlを行うと合併症が増えるとの報告があり、どちらかというとrate controlの方が選択しやすいと思います(N Engl J Med. 2002 Dec 5;347(23):1825-33.)。

心不全がない場合の頻脈性AFに対するrate controlの薬剤として、日本ではverapamilが第一選択薬として使用されることが多いかと思います。実際、日本循環器学会の心房細動治療(薬物)ガイドライン2013では、心不全がない場合の頻脈性AFのrate controlにはβ遮断薬や非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬(verapamil, diltiazem)が推奨されています(Class Ⅰ, Level B)。
海外ではmetprololやdiltiazemなどが頻用され、それらに関するtrialは数多く存在しています。禁忌がなければどちらを使用してもよいと思いますが、diltiazemを使用したほうがrate control達成までの時間も成功率も高いと報告があります(J Emerg Med. 2015 Aug;49(2):175-82.)。

これらの薬剤に加え、さらにrate controlを効果的に行うためにマグネシウムが注目されています。
不整脈が出ている患者の多くは細胞内マグネシウムが低下していると指摘されており、投与することで房室結節伝導速度を低下させる効果があるとされています(Pacing Clin Electrophysiol. 2013 Oct;36(10):1308-18.)。

そこで、ERにおける頻脈性AFに対するrate control目的でマグネシウムを補助的に使用した場合の効果を評価したものがこのtrialになります。

2009年~2014年にチュニジアの3つの大学病院ERで行われたRCT。18歳以上かつ頻脈性AF(>120bpm)が対象で、AMIや心不全、低血圧、腎機能障害を呈している場合などは除外(心不全がない場合の頻脈性AFに限定)。
最終的に450人が対象になり、高用量硫酸マグネシウム(MgS)投与群、低用量MgS投与群、Placebo群にランダムに割り付けられた。高用量・低用量MgS群はそれぞれMgS 9g/4.5g+生理食塩水100ml、placebo群は生理食塩水100mlを30分かけて投与された。また、それぞれの薬剤と同時に房室結節伝導を抑制する薬剤(digoxin, diltiazem, β-blocker)が医師の裁量で投与された。投与された薬剤はdigoxinが最多であった。

primary outcomeは4時間後/24時間後の心拍数 < 90bpmまたは20%以上の低下とされ、低用量MgS群でより良好な結果が得られた。Placebo群と比較して4時間後の治療効果の差(absolute difference)はそれぞれ20.5%、15.8%、24時間後ではそれぞれ14.1%、10.3%であったが、低用量群と高用量群とでは効果に有意差はなかった。ただし、副作用(顔面紅潮、低血圧、徐脈など)は高用量MgS群で有意に多かった。内訳をみるとPlacebo群/低用量MgS群と比較して高用量MgS群で有意に多かったのは顔面紅潮だけで(Placebo群1%、低用量MgS群6%、高用量MgS群18%)、最も気を使わなければならないであろう低血圧や徐脈に関しては全群で1-2%程度であり有意差を認めなかった。

どうやら頻脈性AFに対するrate controlの補助薬剤としてMgSは有効みたいです。今回の研究結果で24時間以内でのrate control達成率はPlacebo群でも83%となかなかですが、低用量MgS群でも98%と驚きの結果が出ています。
これまでの先行研究で、ERにおいて通常ケア(このトライアルでも最も使用された薬剤はdigoxinだった)に加えて、MgS 4~6g追加投与することでrate control可能と報告されたRCTがありました(Ann Emerg Med. 2005 Apr;45(4):347-53.)。今回のtrialの目新しいポイントは、MgS投与は低用量で十分、高用量は不要(むしろ副作用増加)という点です。また、MgSだけだとどうなの?という疑問もわいてきますが、単剤では効果がないようです(Acad Emerg Med. 2009 Apr;16(4):295-300.)。

今後、頻脈性AFの患者が受診した時のrate controlにはMgSを追加してみてはいかがでしょうか。低用量で十分で、単剤では効果がないことに御注意ください。

③Combined vitamin C, hydrocortisone, and thiamine therapy for patients with severe pneumonia who were admitted to the intensive care unit: Propensity score-based analysis of a before-after cohort study.
J Crit Care. 2018 Jul 5;47:211-218.

重症肺炎にビタミンCって効くの?

2017年にMaricらにより敗血症に対するmetabolic resuscitationの概念が発表され、大きな話題となりました(Chest. 2017 Jun;151(6):1229-1238.)。敗血症性ショックに対してビタミンC+B1+hydrocortisoneを投与することで死亡率低下が認められたことが報告されました。しかも、そのNNTは3とびっくりするような数字です。

さて、そもそもビタミンCにはどのような働きがあって、敗血症治療に使用されるに至ったのでしょうか。
ビタミンCには抗酸化作用、glycocalyxの保持、T細胞機能活性化などの作用があります。また、体内カテコラミン合成の際に重要な働きをしています(チロシンがノルアドレナリンに合成されるまでの経路に必要)。久しぶりに生化学の教科書を見ないとダメそうですね。

これに、エネルギー代謝に関与するビタミンB1、SSCG 2016でLevel 2Cの推奨があるステロイドが加わることでmetabolic resuscitaionが構成されています。ちなみに、ビタミンCの1日投与量はレモン300個分です、すごい量です。

さて、お隣韓国から重症肺炎にmetabolic resuscitaionを使って治療した報告がありましたので紹介したいと思います。

韓国の大学病院ICUでのsingle-center before-after trial(2016年~2017年、2017年~2018年の一定期間をそれぞれビタミンCを使用しない治療を行ったcontrol群とmetabolic resuscitation治療群とに分配した)。重症肺炎としてICU入室となった患者が対象、通常の酸素治療のみで対応できるような軽症肺炎や入院から48時間以上経過してからICU入室した症例やmetabolic resuscitationが始まった症例は除外。primary outcomeは院内死亡率。

最終的に対象はcontrol群とmetabolic resuscitation群とでそれぞれ53名、56名であった。
割り当てられた患者のbaselineは、metabolic resuscitation群ではcontrol群に比較してRRTや昇圧薬使用の割合が高く、重症度が高かった。

propensity score-matched(患者のbaselineを両群で同等にする統計処置)を行うと、primary outcomeである院内死亡率は39% vs 17%(p=0.04)であり、metabolic resuscitation群で有意に死亡率が低下した。

研究規模は小さく単一施設でのtrialであること、ランダム化や盲検化されていない、患者群のbaselineの差異、control群の65%にステロイドが使用されておりステロイドそのものによる効果がでていないということも否定できないというlimitationはありますが、重症市中肺炎に対する治療選択肢の一つになると考えられます。

現在、敗血症性ショックに対するmetabolic resuscitationのmulti-center RCTが進行中です。結論はまだ出ていない分野ではありますが、重症度の高い感染症に対しては次の一手としてmetabolic resuscitationは主流になってくるかもしれません。続報が楽しみですね。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。
今後ともEMA文献班をよろしくお願い致します。

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健生病院 救急集中治療部 ER
徳竹 雅之(とくたけ まさゆき)