2019.05.10

2018/8/23 文献紹介

EMA文献班より京都府立医科大学の宮本です。 少し遅くなりましたが8月前半の文献紹介をさせていただきます。
今回は「画像」をテーマにいくつかの文献を取り上げました。ぜひ最後までご覧ください。

①Prevalence and outcomes of incidental imaging findings: umbrella review.
BMJ. 2018; 361: k2387.

今、巷で話題の偶発腫瘍(検査目的とは別に偶然、画像で発見された腫瘍)についての研究。
システマティックレビュー20をさらに系統的に解析したアンブレラレビューという研究手法です。オリジナルの文献はなんと240本と膨大な数!

incidentaloma(患者の症状と関係のない偶発的に発見された所見)についてのメタ解析やシステマティックレビューについて解析。上記の通り、20本のレビュー(オリジナルの文献は240本)が対象。 incidentalomaが多かった検査は心臓MRI/CTや胸部CT・大腸3D-CTであった。脊椎・頭部MRIがそれに続き、最も少ないのはPET/PET-CTであった。胸部CTで偶発的に肺塞栓が指摘される率も同様に低かった。 incidentalomaの中で悪性腫瘍であった(incidental carcinoma)率が最も高かったのは乳腺(42%)、続いて甲状腺及び卵巣(ともに28%)、腎臓(25%)であった。

このようなデータを元にすれば私達もERで見逃しやすいincidental carcinomaも意識できるのではないでしょうか?

私事で恐縮ですが以前、大動脈解離の除外でCTを撮像しているとき、ふらっと現れた放射線科専門医の先生がチラッと見ただけで「解離はないけど乳癌あるね…」と指摘されたことがありました。それ以来、胸部CT撮像時の乳腺と腋窩リンパ節は意識して見るようにしています。あとは心臓CTで見逃されやすい肺癌なども同様に意識しないといけませんね!

情報量が膨大でちょっと読みにくいかもしれませんが、自分の身を守るための「必読文献」だと思います!

このようなこともあるので、できれば不要なCTはとりたくないですよね。もちろん、患者さんのためにも、コスト面でも重要なことです。次の文献は有名なClinical Predicition Ruleを応用して少しでも頭部CTを減らすことができないか研究した文献です。

②Application of the Canadian Computed Tomography Head Rule to Patients With Minimal Head Injury.
Ann Emerg Med. 2018 May 9. [Epub ahead of print]

成人の頭部外傷のClinical Prediction Ruleについてパッと思いつくのはカナダ頭部CTルールとニューオリンズ頭部CTルールではないでしょうか? いずれも感度が高く、いろいろな本にも掲載されていますが、どのような患者に適応され、どのようなoutcomeをもとにした感度・特異度なのか正確に把握されている方は多くないのではないでしょうか。
文献班でも2010年にまとめて紹介させていただいた経緯があります。
(http://www.emalliance.org/education/recommend/dissertation/head-trauma-2)

今回はその中でカナダ頭部CTルールについて簡単に復習してから文献紹介をしたいと思います。

【カナダ頭部CTルール】
前提:GCS:13~15点の患者で意識消失の目撃がある患者or しっかりした健忘があった場合にのみ以下の基準を適応する。
基準:以下の1項目があればCT(ただしリスクは2種類に分けられている)
 (high risk - 神経学的な介入が必要なリスク)
 1.外傷後2時間経ってもグラスゴーコーマスケールが15未満
 2.頭蓋骨の開放、または陥没骨折が疑われる
 3.頭蓋底骨折の所見がある
 4.2回以上の嘔吐
 5.65歳以上
 (moderate risk - CTで頭蓋内損傷が指摘されうるリスク)
 6.受傷30分以上前の記憶が消失している
 7.危険な受傷機転
結果:脳外科処置を必要とするor 臨床的に重大な頭蓋内損傷について感度100%(95% CI 92-100%)であった。

どうですか?日本では、しっかり意識消失があったり健忘が残っていたりすれば上記7つの基準を1つも満たさなくても頭部CTは施行しませんか?またoutcomeもあくまで「臨床的に重大な損傷」について、ですので軽微な頭蓋内出血などは見逃されている可能性があります。相手のいる交通外傷の責任問題や医療訴訟などの問題、CTへのアクセスから、ciTBIのみの否定だけでは日本では少し物足りませんよね。

今回ご紹介する文献は上記の前提条件(意識消失もしくは健忘のある患者)を満たさない、より軽症の患者に対して頭部CTの結果と上記の基準を満たすかどうかの関係性について調べたものです。

大学病院・市中病院の2施設での前向きコホート研究。18歳以上の鈍的頭部外傷患者で頭部CTを施行した「minimal head injury」(下記参照)の患者を対象。

「minor head injury」:GCS14-15かつ以下の1つを満たす
①外傷後に生じた目撃のあるもしくは自己申告での見当識障害や混乱
②事故受傷前後での目撃のあるもしくは自己申告での健忘
③神経学的な異常所見
④30分以下の目撃のあるもしくは自己申告での意識消失

「minimal head injury」:「minor head injury」から目撃のある見当識障害や意識消失を除外した症例

結果として240人が対象となり、5名の患者が頭蓋内出血を指摘された。しかしいずれの症例も脳外科的介入やICU入室を要さないものであり、1例は帰宅、残りの4例の平均入院期間は1.25日であった。また、上記5例はいずれもカナダ頭部CTルールにおける7つの基準を少なくとも1つは満たしていた。つまり前述の患者群においてもカナダ頭部CTルールの感度は100%(95%CI:40-100%)であった。なお、特異度は29%(95%CI:23-35%)であった。なお、頭蓋内出血を来した5例とも抗血小板薬・抗凝固薬の内服はなかったため、今回の研究に限ってはこれらの薬剤は関与していない可能性がある。

PECARNの研究や上記のClinical Prediction Ruleを使用するときはきちんと対象となる患者とどのoutcomeに対しての感度・特異度なのか、確認することがとても大事です。その上で、この文献に対する批判的吟味を行ってみてはいかがでしょうか?

そしてCTはやはりレントゲンと比較して診断能に優れているという特徴があります。
肺炎を実臨床で診ているときに、レントゲンは陰性だけれどもCTでは有意所見があることってないですか?
以下の文献ではそれを“CT-only pneumonia”と名付けてレントゲンで診断できるような肺炎とその性質を比較しています。

③Community-Acquired Pneumonia Visualized on CT Scans but Not Chest Radiographs: Pathogens, Severity, and Clinical Outcomes.
Chest. 2018 Mar;153(3):601-610.

EPIC study(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1500245)のサブ解析。
成人市中肺炎の患者を対象に、全症例にレントゲンを行っている。またCTは治療している医師の判断にて行われた。画像はすべて呼吸器読影を専門とする放射線科医によって読影された。
outocomeとしてCTでしか診断できない肺炎(CT-only pneumonia)を“臨床症状と抗菌薬の投与の有無”“起因菌もしくはウイルス”“短期的予後”の3つの観点から通常の肺炎と比較した。

EPIC studyに登録された2251名のうち、CT-only pneumoniaは66名(3%)存在した。ちなみにレントゲンで肺炎の診断がついている患者で、CTが施行されたのは31%であった。合併症・vital signs・入院期間・起因菌もしくは原因ウイルス・ICU入室率や人工呼吸器管理率・死亡率など有意差は見られなかった。

急性気管支炎であっても抗菌薬を投与するpracticeを持っている方にとっては「Xp陰性だろうが陽性だろうが治療方針がそう変わらないのでは?」と思うかも知れません。風邪に対する抗菌薬投与の意義や急性気管支炎に対する抗菌薬の意義については以下の文献(BMJ 2007;335: 982)が有名です。この文献によれば上気道症状を含む「かぜ症候群」に対する抗菌薬投与はNNT4000とあまりメリットがあるようには見えませんが、65歳以上の急性気管支炎に限ればNNT39と一定の効果があるようです。
その他、グラム染色の結果に応じてpracticeを変えるという方もいらっしゃるかもしれません。

こう考えてみると、CTで検出できる肺炎があってもあまり撮像にメリットがないように感じます。
しかしCTによって肺炎のrule inができるということは他疾患の可能性が低下するのでCT撮像にはそういったメリットもあると思われます。
またレントゲンを施行していなかったり入院していなかったりするとEPIC studyに登録もされないので、レントゲン陰性の肺炎というのはもっとたくさん存在するかもしれません(66人というのは過小評価の可能性あり)。

下気道症状に対してCTを撮像することは色々意見の分かれるところだと思いますが、少なくとも我々としてはこの研究から以下のことはわかったと思います。
・入院するような気道症状を伴う患者には少ないが一定数、レントゲン陰性かつCT陽性の肺炎が存在すること
・そしてそれらは通常のXpで診断できるような肺炎と同じような振る舞いをする可能性が高いこと

今までの自分のpracticeに照らし合わせてみて、明日からの臨床に少し使えそうでしょうか?

画像特集、最後はエコーです。
眼球エコーは皆様ご存知でしょうか?
眼球エコーでは後眼部の観察も可能と言われており、古くから眼科医によって行われてきました。
近年、ERの現場でも眼球エコーが浸透してきており、こちらも感度・特異度ともに非常に優れているという報告がされています。
しかし、この非常に高い診断能に異を唱える文献が発表されました。
この文献に関してNEJM Journal Watchでは“Don't Try to Rule Out Retinal Detachment with POC Ultrasound in the ED”と紹介されており、非常にセンセーショナルでしたのでご紹介しておきます。

④Test Characteristics of Point of Care Ultrasound for the Diagnosis of Retinal Detachment in the Emergency Department.
Acad Emerg Med. 2018 May 18. [Epub ahead of print]

カナダのバンクーバーでの単施設前向き研究。急性発症の光視症と飛蚊症を訴えERに来た患者を対象。18歳以下、7日以上持続した症状、すでに診断がついている患者、成熟白内障の患者、2週間以内に眼科手術を受けた患者は除外された。1時間程度の網膜剥離に関する講義を受けたER医(スタッフから卒後2年めまで様々な年次がいる)が診察した。ER医による診察とエコーの後、すべての患者は1週間以内に網膜専門医の診察を受け、それを診断基準としER医における眼球エコーの感度・特異度を計測した。なお、網膜専門医はエコーの結果を知らない。また、網膜剥離を疑われた患者は24時間以内に一度眼科レジデントの診察を受けている。

フォローアップまで到達した115人の患者が対象となり、30人のER医が診察した。実際に網膜専門医による網膜剥離の診断に至った患者は16人であった。エコーで同定できたのは12人で感度は75%(95%CI:48-93%)であった。なお、特異度は96%(95%CI:87-98%)であった。なお、偽陽性は6人あり、(本文中では記載がないが)陽性適中率は67%であった。

いかがでしょうか?こうやって見ると眼球エコーがイマイチな印象ですね。
以上の結果から4人は網膜剥離をエコーで見逃し、6人は網膜剥離がないのにエコーで誤診したわけですが、全文を読むと以下のような記載があります。

6人の偽陽性の最終診断は3件が後部硝子体剥離、網膜裂孔・網膜出血・硝子体出血がそれぞれ1件ずつであった。
また4人の偽陰性のうち1件は後部硝子体剥離、1件は硝子体出血と誤診したとのこと。そしてもう1件はエコーの輝度の設定を間違えてしまった(!?)という理由だったようです。(残りの1件については記載なし)

ここまで踏まえると、一旦残念な結果に終わった眼球エコーも以下のような点に気をつければ大きな武器となるのではないでしょうか?
・確定診断や完全な除外には使用できないものとする
・エコーで硝子体出血や後部硝子体剥離の所見があった場合も眼科に相談や紹介をする
・網膜剥離だと思っても1/3程度は診断が異なることはあるものと許容する(ちなみに全く診断のなかった患者はいない)

こういった結果の理由も記載してくれており、明日からの診療に役立てられる実践的な文献でしたね!
(※なお、眼球エコーは通常リニアプローベで施行しますがメーカーや周波数によっては使用禁止となっているものもありますので、仕様書をよく確認してから使用ください)

また今月はmajor articleからpre-hospital関連の文献が2本出ましたね。
pre-hospitalの行うべき仕事は都市部とそうでないところで変わるのかもしれないということも示唆するような文献です。
タイトルだけご紹介しておきます。

⑤Prehospital Plasma during Air Medical Transport in Trauma Patients at Risk for Hemorrhagic Shock
N Engl J Med 2018; 379:315-326

⑥Plasma-first resuscitation to treat haemorrhagic shock during emergency ground transportation in an urban area: a randomised trial
Lancet. 2018 Jul 28;392(10144):283-291

今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
今後ともEMA文献班をよろしくお願い申し上げます。