2019.05.10

2018/8/7 文献紹介

EMA文献班、湘南鎌倉総合病院の関根です。

今回 紹介させていただく文献は3つ。
① 院外心停止に対するアドレナリン投与やいかに?(N Engl J Med. 2018 Jul 18.)
② “軽症”脳梗塞に rt-PA治療したらどうなる?(JAMA. 2018 Jul 10;320(2):156-166.)
③ 疑問の答えがきっとある!虫垂炎診断のCT検査(Emerg Radiol. 2018 Jul 12.)

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①N Engl J Med. 2018 Jul 18. doi: 10.1056/NEJMoa1806842. [Epub ahead of print]
A Randomized Trial of Epinephrine in Out-of-Hospital Cardiac Arrest.

院外心停止に対するアドレナリンの有効性は疑問視されており、2018年3月に文献班からの紹介させていただいた文献でも、使用するアドレナリンの容量を減らしても自己心拍再開、生存退院率、良好な神経学的予後のいずれも変わらなかったというものがありました(Resuscitation. 2018 Jan 3;124:43-48.)。
 http://www.emalliance.org/education/recommend/dissertation/20180316-journal

PARAMEDIC2 (Prehospital Assessment of the Role of Adrenaline: Measuring the Effectiveness of Drug Administration in Cardiac Arrest) trialとも呼ばれるこの研究では、院外心停止 8014例が、アドレナリン投与 vs プラセボ投与で 二重盲検ランダム化比較されています。

主な結果は下記の通り。
・30日後の生存率:3.2% vs 2.4%
 (unadjusted odds ratio for survival, 1.39; 95%CI, 1.06 to 1.82; P = 0.02)
・良好な神経学的予後で退院まで生存:2.2% vs 1.9%
 (unadjusted odds ratio, 1.18; 95%CI, 0.86 to 1.61)、有意な差なし。
・退院時に重篤な神経学的後遺症(mRS 4-5):31.0% vs 17.8%
  アドレナリン投与群の方が多い

Primary outcomeである30日後の生存率はアドレナリン投与群で有意に高くなっています。
よーし、やっぱりアドレナリン“効く”んだ!投与しよう!、、、でしょうか?

病院到着までの自己心拍再開率 36.3% vs 11.7%、生存入院率 23.8% vs 8.0%で、いずれもアドレナリン投与群で高くなっています。
なのに、良好な神経学的予後で退院まで生存する割合は有意な差がなくなってしまいます。

心停止の蘇生で最終的に我々が目指しているところは“良好な神経学的予後で生存”することでしょう。
そして、蘇生の結果は、“自己心拍再開→生存→良好な神経学的予後で生存”の順で達成が難しくなります。
なので、“良好な神経学的予後で生存”の中間因子的な存在である“自己心拍再開”や“生存”を、ひとまずの目標としてアドレナリン投与を含む蘇生行為を行っています。

この研究の結果を踏まえると、確かに“自己心拍再開”や“生存”に関しては間違ってなかった!
でも、本当に目指している“良好な神経学的予後で生存”は達成できないことを示唆しています。

この結果をどう捉えるか、どのような影響が蘇生行為のプラクティスに起こるのか、気になりますね。

②JAMA. 2018 Jul 10;320(2):156-166. doi: 10.1001/jama.2018.8496.
Effect of Alteplase vs Aspirin on Functional Outcome for Patients With Acute Ischemic Stroke and Minor Nondisabling Neurologic Deficits: The PRISMS Randomized Clinical Trial.

症状が重い脳梗塞症例はrt-PA(アルテプラーゼ)治療や血管内治療を急ぎます。しかし、NIHSS 0-5点など症状が軽い症例に対するrt-PA治療の効果や安全性は検証されていません。

このPRISMS trialでは、症状出現から3時間以内の軽症脳梗塞について、948例を、アルテプラーゼ静注群+プラセボ内服の群と、プラセボ静注+アスピリン内服の群に分けて比較しています。
アルテプラーゼ治療 vs プラセボ治療ではなく、アルテプラーゼ治療 vs アスピリン治療の比較であるのがおもしろいですね!

90日目にmodified Rankin Scale(mRS)0-1点であった割合は、2群間で差がなく、アルテプラーゼ群 78%、アスピリン群 81%でした(adjusted risk difference, -1.1%; 95%CI, -9.4% to 7.3%)。症候性頭蓋内出血の合併は、アルテプラーゼ群 5例(3.2%)、アスピリン群 0例でした(risk difference, 3.3%; 95%CI, 0.8%-7.4%)。

ところで、このtrialでは、90日目のmRS 2-6点の割合が両群ともに、従来の報告(30%)よりも少なく、その理由としてアスピリンを早期投与した(75%で発症から3.1時間以内!)ことが関与しているかもと考察されています。日本の脳卒中治療ガイドライン2015では、急性期抗血小板療法については、アスピリン160-300mg/日を発症から48時間以内に投与するよう推奨されています。

重症例でrt-PA治療や血管内治療を急ぐだけでなく、軽症例でもアスピリン投与を遅らせないように意識した方が良いかもしれません。

③Emerg Radiol. 2018 Jul 12. doi: 10.1007/s10140-018-1624-9. [Epub ahead of print]
Diagnostic performance of CT for pediatric patients with suspected appendicitis in various clinical settings: a systematic review and meta-analysis.

虫垂炎を疑った際に超音波検査で診断できない場合はCT検査が推奨されていますが、このsystematic reviewのサブグループ解析では、単純CT検査(感度 95%、特異度 95%)や低線量CT検査(感度 97%、特異度 96%)も有用とのことです。

低線量CT検査? どこかで聞いたことがありますね。
尿路結石症の診断で、低線量のCT(low-dose CT)を使用すると、被曝量を減少することができて、診断率も高い!というアレですね。
(Ann Emerg Med. 2015 Feb;65(2):189-98.e2.、Radiology. 2016 Sep;280(3):743-51.)

小生、虫垂炎診断でも低線量CTを用いている研究があることを知りませんでした!ここにも “Less is Better” の流れ。 ER医が好みそうな考え方ですね。

CTで評価したいけど、ルート確保・造影剤はちょっとなぁ、、、不要な放射線被曝量も減らしたいなぁ、、、
そんな みなさま!虫垂炎を強く疑ってCT検査をするときのプラクティスが変わるかもしれませんね。

また、CT検査で虫垂炎を診断しようとしたけどCTの所見が微妙だった場合、本当に虫垂炎である割合(17%, 95% CI, 9-29%)などについても述べられています。

日々の診療での素朴な疑問に対する答えがきっと載ってるはずです。

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 湘南鎌倉総合病院 救急総合診療科
 関根 一朗