2019.05.10

2018/6/30 文献紹介

徳島大学の中西です。

集中治療関連の文献をメインに3文献を御紹介します。

NEJMでのECMO、Family supportに関する2つのRCTとResuscitationでの女性救急隊員による土俵での蘇生に関するLetterです。

①Extracorporeal Membrane Oxygenation for Severe Acute Respiratory Distress Syndrome.
Combes A, et al. N Engl J Med. 2018 May 24;378(21):1965-1975.

重症ARDSの死亡率は60%以上との報告があります。従来の人工呼吸管理で維持できない患者にECMO(Extracorporeal membrane oxygenation;体外式膜型人工肺装置)を用いることがあります。

ARDSに対するECMOは新型インフルエンザのパンデミック時に有用性が数多く報告され世界中で普及し始めましたが、ECMOを積極的に支持するRCTはありませんでした。

今回は重症ARDS患者を対象として、
「介入群:ECMO早期導入群」
「対象群:従来の人工呼吸管理をして酸素化を保てなくなればECMO導入群」
をRCTで比較しました。60日死亡率を主要評価項目としました。

60日死亡率はECMO早期導入群 44人(35%)、対象群57人(46%)でありRelative risk 0.76 (0.55-1.04), p=0.09となりました。合併症はECMO早期導入群の方が輸血を要する出血、重度の血小板減少が多かったという結果になりました。対象群は35人(28%)の患者が低酸素のため途中でECMO導入となりました。ECMO早期導入と対象群では統計学的有意差がなく(P=0.09)、ECMOの早期導入を積極的に推奨する結果とはなりませんでした。

解釈の難しい論文かもしれません。ECMOの早期導入が必ずしも良いわけではないと解釈しましたが、みなさんはどう思われますか?

② A Randomized Trial of a Family-Support Intervention in Intensive Care Units.
White DB, et al. N Engl J Med. 2018 May 23.

重症患者の家族の精神的負担は相当なものです。
家族への積極的介入により家族の精神的負担を軽減して、患者・家族の望む治療に繋がるか検討した研究です。

通常のケアに追加して患者家族への介入の効果をRCTで検証しました。
5施設、1420人の患者が対象となりました。

家族への介入はトレーニングを受けた看護師を中心に以下のようなプロトコル(概略)で行われました。
Day1:家族と面談、精神的サポート
Day2:多職種での面談、精神的サポート
Day3-6:家族の状態をチェック、精神的サポート
Day7:多職種での面談、精神的サポート
Day7以降:家族の状態をチェック、5-7日に1回は多職種での面談

主要評価項目は6カ月後のHospital Anxiety and Depression Scaleです。
副次評価項目としてその他のスケールとICU滞在期間を評価しました。

スケールの説明です。
Hospital Anxiety and Depression Scale:0-42点、点数が高いほど不安や心配が強い
Impact of Event Scale:0-88点、点数が高いほどPTSDの症状が強い
Quality of Communication Scale:0-100点、点数が高いほど家族と医療従事者のコミュニケーションが良好。
Patient Perception of Patient Centeredness Scale:1-4点、点数が低いほど患者・家族中心のケアができている。

介入群と非介入群で主要評価項目のHospital Anxiety and Depression ScaleやImpact of Event scaleは有意差がなく、家族の精神的負担が軽減しなかったという結果になりました。
しかし、Quality of Communication ScaleとPatient Perception of Patient Centeredness Scaleでは有意差があり、ICU滞在期間は短縮しました(6.7日 vs. 7.4日)。

興味深い点は亡くなった方は介入群の方が有意に多く(36% vs. 28.5%, p=0.008)、亡くなった方の入院期間は介入群の方が短かった点です(4.4日 vs. 6.8日, p<0.001)
一方、生存患者のICU滞在日数には有意差がありませんでした(8.0日 vs. 7.6日, p=0.48)。

その理由として以下のように考察されています。
家族への介入により患者家族とのコミュニケーションが向上し、患者・家族が望んでいた治療をより受けられるようになった。患者・家族が望む治療が円滑におこなわれ、積極的治療を望まない患者の意思をより尊重できたことで亡くなった方のICU滞在日数は短く、ICU滞在期間が短縮したということです。

重症患者の家族は一患者であり、チーム医療の一員でもあります。重症患者の家族とのかかわりが今後も注目されそうです。

③Female rescuers faced difficulties in resuscitating a collapsed man in the Sumo ring.
Resuscitation. 2018 May 30.

先日、日本でも大きく報道された相撲の土俵で女性が蘇生を試みたが、その女性が土俵から降りるように指示されたという出来事に関してです。

このレターには2つのメッセージがあります。
①行司が痙攣や下顎呼吸から心停止を認識できておらず、バイスタンダーの教育向上が重要である。
②今回の出来事はバイスタンダーの女性に大きなストレスとなり、今後は救助者の精神的負担・PTSDにも気を付ける必要がある。

確かに患者や家族にばかりでなく、バイスタンダーの精神的負担も軽視できません。

最近の出来事なのに、すでに英文のレターになって世界に発信されているのにも驚きです!

EMAlliance 文献班
徳島大学病院 救急集中治療部
中西 信人