2019.05.10

2018/6/4 文献紹介

6月に入ってしまいましたが、文献班より5月後半分の文献紹介をさせていただきます。
今回はプレホスピタルの蘇生に関連する文献2本です。

①Time to Epinephrine Administration and Survival From Nonshockable Out-of-Hospital Cardiac Arrest Among Children and Adults.
Circulation. 2018 May 8;137(19):2032-2040. PMID: 29511001

院外心停止のうち、電気的除細動の適応でない波形(PEA/Asystole)に対する初回エピネフリン投与時間が生存率と関係する、という研究です。

エピネフリンは心機能を向上させる事で冠動脈灌流圧を上昇させる作用がある一方で、脳灌流の減少や心筋の酸素需要の増加を招く作用も有しています。それゆえ心停止の発症時間と薬剤投与のタイミングによって良い方にも悪い方にも影響する可能性があるとされています。

本研究は北アメリカ10施設の心停止レジストリに登録された症例の二次解析です。初期波形がPEA/Asystoleの院外心停止32,101例を、救急隊到着から最初のエピネフリン投与までの時間が10分未満の群と10分以上の群に分け、それをさらに成人と小児に分けて、生存退院率や神経学的予後を比較しています。

救急隊到着からエピネフリンの初回投与が1分遅れるごとに成人では4%、小児では9%生存率が低下するという結果が出ています。

個人的に驚いたのは、小児症例の71%は骨髄針で輸液路を確保していたことです。ちょっとした訓練を受ければ30秒以内に95%輸液路が確保できるとまで書いてあります。

プレホスピタルでのエピネフリン投与についてはヨーロッパのPARAMEDIC2(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5081174/) というRCTの結果が待たれます。

また、つい最近、SOS-KANTOのデータを用いて東京ベイERの先生方がOHCAに対するエピネフリンに関する論文を発表されました。患者群やLimitationが①の文献と若干異なりますが、結果とメッセージは概ね共通しています。こちらもぜひご一読ください。

Association of the time to first epinephrine administration and outcomes in out-of-hospital cardiac arrest: SOS-KANTO 2012 study.
Am J Emerg Med. 2018 May 21. pii: S0735-6757(18)30415-7  PMID: 29804789.

②Cerebral tissue oximetry levels during prehospital management of cardiac
arrest - a prospective observational study.
Resuscitation. 2018 May 12. (Epub ahead of print)
doi: 10.1016/j.resuscitation.2018.05.014. PMID: 29763712.

みなさま、NIRS(近赤外分光法)を用いたモニタの使用経験はありますでしょうか。
このモニタは『組織の酸素飽和度』を計測するもので、代表的な製品として国内ではINVOS(Somanetics社、米国)やNIRO(浜松ホトニクス、日本)があります。
心臓外科手術中のモニタリング等に用いられる事が多いようです。

本研究は、院外心停止の症例に現場でINVOSを装着(粘着式のプローブを左右の前頭部に貼るだけ)し、脳の組織酸素飽和度【rSO2】(基準値60-80%)の値が予後とどう関係するかを調べたものになります。

これまでにも院外心停止のrSO2を評価した研究はいくつかありましたが、CPRの初めからROSCの前後まで継続的に測定したものは今回が初めてです。

この研究はスロベニアで2012年から2015年の3年間行われ、合計53人の症例がincludeされました。

ROSCなし群とROSCあり群を比較すると、ROSCなし群のCPR中のrSO2の最高値はROSCあり群のROSC時のrSO2よりも有意に低く(平均31%(SD=18%) vs. 47%(SD=14%); p<0.001)、ROSC前のrSO2の中央値にも有意差がありました(ROSCあり 22%(Q1=16;Q3=35) vs. ROSCなし 14%(Q1=16;Q3=35))

どちらの論文にも言えることですが、これらの研究で示されたのは「関連」であり、「因果」ではないという点には注意が必要です。

将来的には救急隊員が骨髄針やNIRSモニタを携行したり、ドクターカー等で医師が積極的に現場に赴いて処置や計測をして、蘇生率の向上に努めたり予後判定を行う時代が来るのでしょうか現場滞在時間や特定行為の指示要請の仕組みとの兼ね合いも気になるところです。

プレホスピタルや消防の活動に詳しい方、ぜひご意見をお聞かせください。

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川口 剛史
EMA文献班
聖マリアンナ医科大学 救急医学
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