2019.05.21

2018/5/15 文献紹介

文献班より沖縄県立中部病院ERの岡正二郎です。
暑い沖縄から、熱い文献をご紹介します。

今回、ご紹介する文献は4つです。
全て気管挿管に関するものです。

A comparison between video laryngoscopy and direct laryngoscopy for endotracheal intubation in the emergency department: A meta-analysis of randomized controlled trials.
J Clin Anesth. 2018 Mar 14;47:21-26. doi: 10.1016/j.jclinane.2018.03.006. [Epub ahead of print]

まず最初の文献は、救急外来の気管挿管では、ビデオ喉頭鏡を使用しても直接喉頭鏡と比較して初回成功率は上がらなかったというメタアナリシスです。

背景として、2016年のコクランレビューのメタアナリシスで、ビデオ喉頭鏡の方が初回挿管成功率は高く、とりわけ挿管困難な症例では良い結果でした。
しかし、これらはほとんどが麻酔科による予定手術のものでした(64のスタディ中61がそれ)。(DOI: 10.1002/14651858.CD011136.pub2)

今回が初めて救急外来を対象に絞ったメタアナリシスです。

5つのRCTから1,250人の患者について調べられました。
ちなみに、ビデオ喉頭鏡の種類は3つのRCTでC-MAC、2つのRCTでグライドスコープでした。

結果として、初回の気管挿管成功率 や、最終的な気管挿管成功率、院内死亡率について差はみられませんでした。
ただし、食道挿管はビデオ喉頭鏡で少ない結果でした。
初回の気管挿管成功率(OR1.28, p=0.42)
最終的な気管挿管成功率 (OR1.26, p=0.6)
院内死亡率(OR1.25, p=0.32).
食道挿管(OR0.09, p=0.02).

実は、昨年のICU患者でのメタアナリシスでも同様の結果で、ビデオ喉頭鏡を使用しても初回挿管成功率は変わらないという結果でした。(DOI: https://doi.org/10.1016/j.chest.2017.06.012)

あれ??ビデオ喉頭鏡って優れているのではなかったの???

これまで手術室のデータではビデオ喉頭鏡が優れていたはずなのに、なぜICUや救急外来では差がみられなかったのか??
もしかすると、術者がビデオ喉頭鏡に不慣れであったりすることも考えられます…。
直接喉頭鏡のように喉頭展開しなくても、ビデオ喉頭鏡では喉頭蓋や声帯がよく見えます。けれど、いざ挿管チューブを操作する際にはある程度喉頭展開をしないと上手く気管挿管できません。
ビデオ喉頭鏡モニター画像では声帯まではっきり見えるのに、うまく挿管できない経験…皆様はございませんか?自分はあります(^_^;)
ビデオ喉頭鏡を過信し ていました。反省です。この結果をふまえて、ビデオ喉頭鏡の限界や使用 注意点を研修医や他診療科医師とも共有します。

Effect of Bag-Mask Ventilation vs Endotracheal Intubation During Cardiopulmonary Resuscitation on Neurological Outcome After Out-of-Hospital Cardiorespiratory Arrest: A Randomized Clinical Trial.
JAMA. 2018 Feb 27;319(8):779-787. doi: 10.1001/jama.2018.0156.

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2つ目の文献は、病院前CPA患者へのバッグバルブマスク(BMV)は気管挿管(ETI)に比べて劣っていないとは示せなかったRCTです。

非劣性を示せなかった???同等ってこと???と思われたかもしれません。
言葉がわかりにくいのですが、非劣勢試験とは『ほぼ同等だよね…?少なくとも劣ってはいないよね?』と示そうとした試験です。
今回、非劣性を示せなかったというのは『もしかすると劣っている可能性がある』ということです。
つまり、『BMVはETIに比べて劣っているか…も…。』ということです。

2013年、JAMAに掲載された日本のウツタインデータを用いた大規模観察研究で、病院前CPRで気管挿管すると予後が悪化するという結果が大きな論議を呼びました。(doi:10.1001/jama.2012.18 7612. )
n=649,654人。良好な神経学的予後はETIで1.0%、BMVで2.9%。
神経学的予後はBMVの方がむしろ良いというものです。
いま だにガイドライン上は病院前CPAに対してETIかBMVどちらを行うべきかの明確な推奨はありません。

今回ご紹介するのは、これらを背景とした初めての大規模RCTです。
これまでの研究結果から、BMVは良好な神経学的予後について非劣勢では?という仮説でデザインされた研究です。
フランスとベルギーで行われ、合計患者数は2,043名です。これは非劣勢閾値を-1%としてデザインされた症例数です。
プライマリアウトカムを、良好な神経学的予後としました。

結果としてプライマリアウトカムの28日後の神経学的予後に差はみられませんでした。BMV群4.3%、ETI群4.2%(P=0.11)
非劣性マージン-1.0を満たさず、BMVの非劣性を示せませんでした。

フランスやベルギーでは病院前CPRの際に医師が救急車に 同乗しており、日本と異なります。
やっぱり挿管できる状況では挿管しようかと思ってしまいます(^_^;)

Association Between Tracheal Intubation During Adult In-Hospital Cardiac Arrest and Survival.
JAMA. 2017 Feb 7;317(5):494-506. doi: 10.1001/jama.2016.20165.

3つ目の文献は、病院内CPA患者に最初の15分以内で挿管されると予後が悪かったという観察研究です。

アメリカの668の病院で、最終的に108079人のデータが対象となりました。
プライマリアウトカムは生存退院率と定義し、セカンダリアウトカムはROSC率、神経学的予後としました。
最初の15分以内に挿管された43314人について、15分以内に挿管されなかった43314人とマッチさせる形で比較検討されました。

結果です。
プライマリアウトカムの生存退院率は挿管群で有意に低いという結果でした。
挿管群16.3%、非挿管群19.4%(P<0.001)。
セカンダリアウトカムの、ROSC率と神経学的予後どちらも挿管群で悪いという結果でした。

ROSC率; 挿管群57.8%、非挿管群59.3%(P<0.001)
良好な神経学的予後; 挿管群10.6%、非挿管群13.6%(P<0.001) 

上記の2013年の日本の院外CPAへの挿管と同様に、今回も挿管すると予後悪化?という結果でした。
たしかに、以前から議論されているように、気管挿管によって胸骨圧迫の中断される時間が長かったり、過換気をしてしまったり、除細動が遅れてしまったりするのでは…など可能性を憶測されていますが、はっきりした原因はわかりません。
そもそも今回のスタディでは挿管する/しないはどのように決められたのか?などはっきりしない部分も多いです。
明日から院内CPA患者に挿管しない方針とは誰もしないでしょう。
でも、今後も注目するべきテーマということで情報共有するべき論 文だと思います。

Timing of advanced airway management by emergency medical services personnel following out-of-hospital cardiac arrest: A population-based cohort study.
Resuscitation. 2018 Apr 22;128:16-23. doi: 10.1016/j.resuscitation.2018.04.024. [Epub ahead of print]

最後の文献は、大阪のデータを用いて、病院前CPA患者で挿管された場合、早期に挿管されると神経学的予後が良かったというスタディです。

上記の2013年のスタディ等で、病院前の挿管そのものが予後悪化させるかについての議論はありましたが、挿管のタイミングが予後に関連するかどうかについては、これが初めてのスタディです。

2005年から2012年の間に大阪でCPAで搬送された症例のうち、病院前で挿管された27,431人について、CPR開始から気管挿管されるまでの時間と、1ヶ月後の神経学的な予後について関連性を検討されました。

CPR開始から挿管されるまでの平均時間は約5分でした。
最終的に27,431人が調べられ、1ヶ月後の生存者は1,469人(5.3%)で、神経学的な予後が良好だったのは503 人(1.8%)でした。

結論として、
CPR開始から挿管までの時間が早ければ早いほど、神経学的な予後は良好でした。(1分毎分0.95、95%信頼区間[CI]0.87-0.94)
また、17,022人のPS一致コホートにおいて、CPR開始5分以内に挿管された群は、5分以降(29分以内)に比べて、神経学的な予後は良好でした。(2.2%vs.1.4%;OR 1.58(95%CI 1.24-2.02))

病院前CPRで挿管するのなら早いに越したことはないということです。

うーむ(^_^;)
いろいろなスタディからさまざまな意見がありすぎて混乱しますね…。なぜそのような結果に?という理由を考え出すとよくわからなくなります。
今回のスタディから、胸骨圧迫の妨げや搬送時間の延長にならない範囲では、病院前で挿管を試みてもらうのはやはり妥当かと思いました。

病院前挿管と声門上デバイスやラリンジアルチューブついて、現在2つRCTがされているようです。AIRWAYS-2 trialとPART trialです。
結果が待ち遠しいですね。

岡拝