2019.05.21

2018/3/16 文献紹介

EMAの皆様

こんにちは。沖縄県立宮古病院の山本です。
寒い冬が終わり、だいぶ暖かくなってきましたね!!
今回は心停止に関連する文献を3つ紹介します。
少し長いですが、よろしくお願いします。

①Lower-dose epinephrine administration and out-of-hospital cardiac arrest outcomes.
Resuscitation. 2018 Jan 3;124:43-48.

みなさんご存知の通り、アドレナリンは蘇生に必須の薬剤です。
しかしアドレナリンのエビデンスは乏しく、病院到着前の蘇生率は改善させても全生存率を改善させないという報告や神経学的予後を悪化させるという報告もされています。
(この辺りはJ Emerg Med. 2017 Jun;52(6):809-814. Emergency Medicine Myths: Epinephrine in Cardiac Arrest.に詳しいです)
従って病院外心停止におけるアドレナリンの有効性は疑問視されており、2015年のAHAガイドラインではクラスⅡb, very low quality evindenceとなっています。
また、投与する/しないという間での生存率や神経学的予後の評価 は以前からされていましたが、投与量での評価はされていませんでした。

この疑問に答えを1つ加えてくれるシアトルからの文献を紹介いたします。シアトルと言えば米国一の蘇生率を誇る都市ですね!!
シアトルでは、2011年のアドレナリンがプラセボに比較し生存退院率に勝らなかったRCT、2012年の日本から報告されたア ドレナリン使用量と生存率の低下の関連を示した大規模観察研究の結果を受けてアドレナリンの使用量を減らしたプロトコルを2012年10月から導入したようです。その前後での比較試験です。
細かい点は省きますが、2012年10月以降のプロトコルではそ れ以前では1回1mgだったアドレナリン投与量が1回0.5mgに、投与間隔も伸ばされています。
こんなにあっさり変えられるなんてすごいなシアトル!!
2008年1月から2016年6月の期間を対象としています。

結果です。期間中に病院外心停止は3570人、1315人が除外されショック適応リズムの554人、非適応リズムの1701人が解析されました。
アドレナリン使用量はプロトコル変更前後で平均してショック適応リズムで0.8mg、非適応リズムで0.7mgの低下を認めました。
しかしROSC、生存退院、良好な神経予後のいずれも改善しておりませんでした。ショック適応、非適応のリズムに関わらず改善を認めなかったようです。
例えば生存退院はショック適応リズムで変更前35% → 変更後34.2% (p=0.832)、非適応リズムで変更前4.2% → 変更後5.1% (0.366)、良好な神経予後はショック適応リズムで変更前32.9% → 変更後30.5% (p=0.555)、非適応リズムで変更前3.1% → 変更後3.5% (0.589)でした。

前後比較試験でありlimitationはかなりありますが、この期間に蘇生のevidenceが蓄積されていたにも関わらず改善を認めなかったことを考えると、アドレナリンの投与量の差は蘇生には関連がないのかもしれません。

続いてPEAに関する文献です。
PEAでは脈拍の触知の有無がとても大切です。しかしトレーニングされた人間でも10秒以内に脈拍の有無を判断するのは難しいです。
またPEAは初期波形の20-25%を占めると言われており、心停止の約1/4を占めています。PEAを見た場合は原因検索を行い、原因に対する治療を行うことが必要ですが、PEAの原因に対する正しい治療が行われていたのは18%しかなかったとも報告されています。
最近では初期波形のQRS幅と心エコーを用いて、これまでの原因検索とは異なる方法を試みている方々もいます。

まだまだわかっていないことだらけのPEAですが、そんなPEAに関して2つ興味深い文献をご紹介いたします。

②Initial electrical frequency predicts survival and neurological outcome in out of hospital cardiac arrest patients with pulseless electrical activity
Resuscitation. 2018 Feb 3;125:34-38.

1つ目はPEAの心拍数に関する研究です。この場合の心拍数はあくまで脈が触れない状態での心臓の電気的な活動を指します。
PEAで記録された心拍数が60を超えていた場合、予後が良かったという研究です。

2013年8月から2015年8月の間にウィーンで心肺停止レジストリVICARに登録された症例を元にした後ろ向き観察研究です。18歳を超えた成人の非外傷性心停止で初期波形がPEAの症例を対象としております。記録された心電図を解析し、初期波形が PEAだった症例の心拍数を計測しました。そして心拍数が10-24回/分、25-39回/分、40-59回/分、60-150 回/分の4つの群にわけ30日後の生存率、神経予後を調べています。

結果です。期間中の病院外心停止は2149人、うち初期波形がPEAは631人、そのうち504人の解析が行われました。
心拍数が60を超えていたのは73人(14%)でしたが、30日生存率は22%(16人)、良好な神経予後は15%(11人)と 、他の群に比較し有意に良好な結果となりました。
逆に心拍数が10-24回/分の群(109人 22%)は30日生存率2%(2人)であり、高い死亡率との関連を認めました。またこの群では良好な神経予後は0%でした。

PEAで心拍数が60を超えている...それって本当にPEAだったの!?というツッコミがありますが、PEAの心拍数に焦点を絞った研究は初めて見ました。
心拍数が60を超えているPEAでは良好な予後に期待できるかもしれません。

③A retrospective study of pulseless electrical activity, bedside ultrasound identifies interventions during resuscitation associated with improved survival to hospital admission. A REASON Study.
Resuscitation. 2017 Nov;120:103-107.

続いてPEAと心エコー、カテコラミン持続静注に対する文献です 。

2016年10月、当文献班の鈴木先生が紹介して下さった、CPR中の経胸壁心エコーで心臓の動きを認めた場合、予後が良いかもしれないという文献を覚えていらっしゃるでしょうか??(http://www.emalliance.org/?p=5503
これはthe Real-time Evaluation and Assessment Sonography Outcomes Network (REASON)によって行われた全米20施設の前向き研究でしたが、その研究の二次解析です。今回はPEAの症例に焦点を絞っています。

記録された心エコーから心臓の動きをorganizedとdisorganizedに分類しています。organized cardiac activityとは心室壁が同期した動きをみせ、心室のサイズに変化がある場合を指します。いわゆる心臓が収縮している状態と思われます。
そして蘇生中にACLS通りに薬剤が使用されたのか、それともドパミンやノルアドレナリンなどのカテコラミンの持続静注が使用されているのかを調べています。

非常に興味深い結果となっています。
まず全心停止(793人)のうちPEAは414人、そのうち心エコーで心臓の動きを認めたのは225人(うち10人はさらに除外)、organized群は75人、disorganized群は95人でした。
organized群でカテコラミンの持続静注が使用されていた群ではACLS通りの薬剤を使用していた群と比較しROSC率 90.9% (vs 54.7%)、生存入院率 45.5% (vs 37.7%)、生存退院率 4.5% (vs 1.9%)と有意に高くなっています。
一方でdisorganized群ではカテコラミン持続静注群 vs ACLS群でROSC率 47.1% (vs 37.2%)、生存入院率 0% (vs 17.9%)、生存退院率 0% (vs 1.3%)の結果となり、有意差を認めませんでした。

いかがでしょうか??
N数は225人と少なく、生存退院は全体で3人のみです。またエコー結果もreviewerによる後ろ向きの解析で、現場でorganized、disorganizedを判断していません。なぜカテコラミンが蘇生中に開始されたのかもわかっておらず、かなりlimitationがあります。
しかしPEAの一部はACLS通りの治療でなく、カテコラミン持続静注の方が効果があるかもしれないと思うと、ワクワクする結果ではないでしょうか!?

この文献が伝えてくれることは以下の2点です
1. 蘇生中の心エコーで心臓の動きをorganizedとnon-organizedに分類することは理にかなっているかもしれない
2. organized cardiac activityを認めるPEAではカテコラミン持続静注の出番が今後出てくるかもしれない

いかがでしたか??
皆さんのアドレナリンやPEAに対する見方は変わったでしょうか??
これからも心停止に関する文献から目が離せませんね!!

沖縄県立宮古病院
救急科 山本 一太