2019.05.21

2018/2/28 文献紹介

EMAの皆様

徳島大学の中西です。

今回の文献は救急外来でも役に立つこと間違いなし!
処置時も含めた疼痛に対する最新の3文献を紹介します。

①Safety and Efficacy of Intravenous Lidocaine for Pain Management in the Emergency Department: A Systematic Review.
Oliveria JE Silva L, et al. Ann Emerg Med. 2018 Jan.



救急外来受診の主訴で一番多いのは「痛み」だそうです。
そんな痛みに対して静注のリドカインは安全で有効なのでしょうか。

確かにリドカインは疼痛軽減目的に局所麻酔、表面麻酔、硬膜外麻酔などで使用されますが、静注で使用されないのはなぜ?と思ったことがあります。今回はそんなリドカイン静注の疼痛に対する効果・安全性に関するシステマティックレビューです。

8つの研究、536人の患者が含まれました。
含まれた6つのRCTのうち2つの研究ではリドカインの静注は従来の疼痛管理と同等、他の2つの研究は従来の疼痛管理よりすぐれていたとのことです。
腎結石や四肢虚血などの痛みにはモルヒネより効果がありましたが、片頭痛には効果がなかったようです。
さらにリドカインが静注された患者225人のうち、20人に副作用(軽度;19人、重度;投与量の間違いで1人)を認めました。

結論としては腎結石や四肢虚血などには効果があったが、安全性も含めて、その効果は今後の研究が待たれるとのことです。

日本では適応外ですが、リドカインの静注が効果的であれば、アセトアミノフェンやオピオイドが使用しにくい患者、効果がない患者で困った時は選択肢になるかもしれません。さらにオピオイド乱用も減るかもしれません。

②Pre-emptive ice cube cryotherapy for reducing pain from local anaesthetic injections for simple lacerations: a randomised controlled trial.
Song J, et al. Emerg Med J. 2018 Feb.



救急外来で創部の処置をする時は当然キシロカインで局所麻酔をすると思いますが、
そもそも、そのキシロカインの局所麻酔が痛い!ですよね。
その局所麻酔の痛みを、創部を氷で冷やすことで軽減するか調べたRCTです。シンプル!!

56人の患者が創部処置の前に①滅菌手袋に氷1個(1.5cm四方)をいれて2分冷やす群と②プラセボ群に分けられました。
痛みの評価はNumerical Rating Scale (NRS)を用いて10点満点で比較されました。氷を用いた群ではNRS 2.0 (95% CI, 1.8-3.5)、対象群ではNRS 5.0 (95% CI, 3.9-6.1)と氷を用いた群で有意に疼痛が軽減しました (p=0.001) 。有害な影響もなかったようです。

確かに局所麻酔の注射の痛みを気にする患者さんもいます。というか誰も痛みは嫌なはずです。そんな時は前もって氷で冷やすと有効かもしれません。

③A Randomized Double-Blind Trial Comparing the Effect on Pain of an Oral Sucrose Solution vs. Placebo in Children 1 to 3 Months Old Undergoing Simple Venipuncture.
Gouin S, et al. J Emerg Med. 2018 Jan.



乳児の採血はみなさんどのようにされているでしょうか?
まさか、バスタオルで羽交い絞めにはしてないですよね。

砂糖水を飲んで疼痛軽減?
乳児の採血における砂糖水とプラセボ群の比較です。

救急外来で採血を要する1カ月から3ヶ月の乳児を
採血の2分前に砂糖水(88%のショ糖2mL)を飲む群とプラセボ群に分けました。
痛みの評価は下記の2種類のスコア(FLACCとNIPS)と啼泣時間、心拍数の変化を比較しました。

FLACC (Face, Legs, Activity, Cry, and Consolability Pain Scale) 
表情、下肢の動き、活動性、啼泣、安静度の5項目をそれぞれ0-2点で評価した10点満点のスコア。0点;快適、1-3点;軽度の痛み、4-6点;中等度の痛み、7-10点;重度の痛み

NIPS (Neonatal Infant Pain Scale)
表情、啼泣、呼吸様式、腕の動き、足の動き、覚醒状態の6項目をそれぞれ0-2点で評価した10点満点のスコア。0-2点;痛みなしか軽度の痛み、3-4点;中等度の痛み、4点以上;重度の痛み

RCTの結果は砂糖水を飲む群とプラセボ群では痛みに違いはなかったようです。
FLACC ①砂糖水2.84±0.64 vs. ②プラセボ2.71±0.64 (p=0.98)
NIPS ①砂糖水2.32±0.47 vs. ②プラセボ1.63±0.49 (p=0.60)
啼泣時間 ①砂糖水 63.0±3秒 vs. ②プラセボ 48.5±5秒 (p=0.17)
心拍数の増加 ①砂糖水 33±6回/分 vs. ②プラセボ 24±5回/分 (p=0.44)

乳児は処置時の疼痛経験がその時の痛みだけでなく、成長にも影響するといわれています。
今回の研究では残念ながら砂糖水は効果がなかったということですが、痛い思いをさせないために、なんらかの工夫が必要ですね。

処置時の疼痛には次のような方法もいいかもしれません。

・すご~くゆっくりと麻酔薬を注入する
・麻酔薬を体温程度に少し温める
・キシロカインとメイロンを混ぜる。効果がなかったとのRCTもありますが( J Emerg Med. 1999 Mar-Apr;17(2):223-8.)。
・静脈路確保前の鎮痛にコールドスプレーなど(Painease®など) を使用する。氷より効果があるそうです(Pediatr Emerg Care. 2013 Jan;29(1):8-12.)。
・インスリン注射用のシリンジで麻酔する
・子供なら、両親に付き添ってもらう
・i padや携帯でアニメをみてもらう
・針を見せない
・幼児くらいの年齢なら説明も理解できる子もいるので、しっかりと説明する

Emergency Medicine Reports Feb.1, 2018に”Wound care review”にも創傷処置時の疼痛管理について詳しく記載されています。

みなさんの施設ではどうしていますか?

EMAlliance 文献班
徳島大学病院 救急集中治療部
中西 信人