2019.05.21

2018/1/4 文献紹介

EMAのみなさま
あけましておめでとうございます。
12月後半の文献紹介予定だったのですが、大幅にずれ込んでしまい申し訳ありません・・・

本年も楽しく読みやすい文献紹介を心がけて参ります、皆様コメントいただければ幸いです^^
よろしくお願い致します!
東京ベイ浦安市川医療センター 救急集中治療科 國谷有里

1)Resuscitation. 2017 Dec;121:41-48. doi: 10.1016/j.resuscitation.2017.10.004. Epub 2017 Oct 6.
A user-friendly risk-score for predicting in-hospital cardiac arrest among patients admitted with suspected non ST-elevation acute coronary syndrome - The SAFER-score.

”NSTE-ACS入院患者の院内心停止リスクの予測スコア:SAFER score”
冬になり、心疾患患者の救急受診が多くなってきたな〜と肌で感じるこの頃です。
NSTE-ACSの入院患者の院内心停止リスク・心電図モニタリングの必要性の評価にこちらのスコアリングが有用になるかも?

2008/1/1~2014/12/31にSWEDEHEARTレジストリに登録された18歳以上を対象としてSAFERスコアで院内心停止リスクを予測できるか、というコホート研究です。
242303人の患者がincludeされそのうち2077人(0.9%)が院内心停止となっています。
(※SWEDEHEARTレジストリ:ACSと診断されたまたはACS疑いでCCUに入院となった患者)
(exclusion STEMI・入院前に心停止・入院前心停止に関わるデータ欠損・院内心停止に関わるデータ欠損)

SAFER スコア
・60歳以上 1点
・心電図ST-T異常 2点
・Killip分類>1 1点 (※Killip分類:Ⅰ群心不全なし Ⅱ群軽度〜中等度心不全 Ⅲ群肺浮腫 Ⅳ群心原性ショック)
・心拍数<50 or >100bpm 1点
・収縮期血圧<100mmHg 2点

SWEDEHEARTレジストリでのSAFERスコアのc-statistics 0.72でしたが、2008~2013年にMINAPレジストリでエクスターナルバリデーションされc-statistics0.65という結果になりました。(※MINAP イギリスのレジストリMyocardinal Ischemia National Audit Project)
スコアが高ければ高いほど院内心停止のリスクが高くなるのでCCU等での密なモニタリングが望ましいのではないか、という提案がなされています。
エクスターナルバリデーションではc-statisticsが下がってしまいましたが、ERでもつけやすい、user-friendlyなスコアリングですので今後のバリデーションに期待したいと思います。

2) CMAJ. 2017 Nov 13;189(45):E1379-E1385. doi: 10.1503/cmaj.170072.
Validation of the Ottawa Subarachnoid Hemorrhage Rule in patients with acute headache.

”Ottawa SAHルールのバリデーション 感度100%!! "
頭痛、、、よくある主訴ですが決して見逃したくないのがSAH。
Ottawa SAHルールのバリデーションが出ました!感度100%、ですが、、、用法にはご注意ください。
(Ottawa SAH Rule:①頚部痛or後部硬直②40歳以上③意識消失の目撃あり④労作時発症⑤雷鳴性頭痛(突然発症かつ1分以内に痛みがピークになる頭痛)⑥頚部運動制限 ①〜⑥のうち1項目以上当てはまればSAHの検索が必要)

2010年1月〜2014年1月カナダの6つの大学関連3次病院の救急科を受診した頭痛患者にオタワSAHルールを適応した、バリデーションスタディです。
(inclusion:16歳以上、1時間以内に最大の痛みに増強した非外傷性頭痛

exclusion:GCS<15、7日間以内に直接頭部外傷あり、発症から14日以上経過している、同様の性状、強さの頭痛が6ヶ月以内に3回以上発症している、他院でSAHの診断がついている、同様の頭痛に対してすでにCT/LPが施行済み、乳頭浮腫がある、新規の神経学的巣症状がある、脳動脈瘤・SAH・脳腫瘍・脳室シャント・水頭症の診断がされている)

SAHの診断は『単純CT、キサントクロミー、髄 液中RBC、造影CTでの脳動脈瘤/血管奇形の有無』で行われています。
結果、感度100%(95%CI 94.6%-100%) 特異度13.6%(95%CI 13.1%-15.8%)となりましたがLimitationに"1/3の患者が追跡不可あるいは医師の判断によりenrollされなかった"、という点があり全ての患者に適応できるかが不明瞭です。"40歳以上”という項目でひっかかる患者も多く、40歳以上なら全員CTやLPでのSAH精査を行うか、という判断は現実的ではなく他の臨床症状と合わせて判断することが必要と思われます。また、Ottawa SAH Ruleはあくまで"SAH"を除外するためのClinical Prediction Ruleであり、他の二次性頭痛の診断の除外には使用できないことにも注意が必要です。

3)The American Journal of Emergency Medicine , In Press, Corrected Proof, Available online 26 December 2017
Intravenous crystalloid fluid for acute alcoholic intoxication prolongs emergency department length of stay

"急性アルコール中毒患者への輸液はERステイを延長させる!?"
当院からの発表で恐縮ですが、年末年始、急性アルコール中毒患者の救急受診に悩まれている先生方も多いのではないでしょうか。
「点滴すると早く醒めるので点滴してほしい!」なんて患者さんから要求されることもあるかと思いますが、、、
急性アルコール中毒の患者106人に対して 生理食塩水を輸液した群(46人)と輸液しなかった群(62人)とでER滞在時間を比較した後ろ向きコホート研究です。
(inclusion:20歳以上、予測血中アルコール濃度を測定された、ERでの経過観察が必要と判断された患者
exclusion:入院が必要、外傷あり、他疾患でERでの経過観察が必要、アルコールと他の鎮静系薬物を服用、暴力行為があった患者)

帰宅可能判断基準は『意識清明、GCS15、安全に自立歩行可能、フォローアップが必要ではない、指導医により帰宅可能と判断された』です。

primary outcomeのER滞在時間は『輸液なし群189分』『輸液あり群254.50分』となり多変量解析の結果HR 0.54 (95%CI 0.35-0.84) p=0.006と有意差を認めました。
輸液をしたからといって、早く帰宅可能になるというわけではなさそうなので、軽症の急性アルコール中毒患者には輸液なしで経過観察が妥当!?
しかしexclusion criteriaにあるような患者はその限りではないことに注意が必要です。輸液が必要となるアルコール中毒患者ももちろんいます・・・が、輸液あり群では4人が点滴自己抜針しており、輸液をする際は医療者の目の届く範囲での経過観察が必要かもしれませんね。