2020.07.24

2017/09/30 文献紹介


Janz DR, Semler MW, et al. A multicenter, randomized trial of a checklist for endotracheal intubation of critically ill adults. Chest. 2017 Sep 13. pii: S0012-3692(17)32685-5.
PMID: 28917549

安全確認の基本である『指差呼称』について、厚生労働省HP http://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo72_1.html にはこう記載があります。『危険予知活動の一環として、作業対象、標識、信号、計器類に指差しを行い、その名称と状態を声に出して確認すること。日本国有鉄道の蒸気機関車の運転士が、信号確認のために行っていた安全動作だったが、現在では鉄道業にとどまることなく、航空業、運輸業、建設業、製造業等、幅広い業界で行われている。』

当論文は、気管挿管前に10項目の注意事項を文書と口頭で確認することによって
低酸素や血圧低下、合併症の発生率が改善するかどうかについて調べた多施設研究です。

調査は米国6施設のICU/NICUで行われ、
主な手技者は呼吸器内科/集中治療のフェローおよび麻酔科のレジデントでした。

確認するのは次の10項目です
①前酸素化(pre-oxygenation)は酸素マスク、BIPAP、BVMのいずれかでなされているか
②吸引の道具が準備されているか
③喉頭鏡と気管チューブの確認と準備が済んでいるか
④挿管困難に対処するデバイス(ブジー、LMAなど)はすぐに使用できる状態か
⑤カプノグラフィーは使用可能か
⑥小項目6つの確認(OSASの有無、頸部の可動性など)
⑦指導者、呼吸療法士、薬剤投与担当ナースがいるか
⑧静脈路は有効か
⑨薬剤の準備と禁忌事項の確認
⑩気道のマネジメントとバックアッププランを口頭で述べる

結果はなんと、チェックリストの有無でアウトカムに差は生じない、というものでした。
SpO2値 チェックあり92%(IQR 79-98) vs チェックなし93%(IQR 84-100)
最低血圧 112mmHg(IQR 94-133) vs 108mmHg(IQR 90-132)
手技時間、喉頭展開の回数、致死的合併症についても有意差なし。

手技者の盲検化ができていないというlimitationはありますが、レジデントやフェローとはいえある程度の臨床経験がある者にとっては上の10項目をチェックしなくても安全に手技ができる、または無意識に身についているということでしょうか。

ICUセッティングでICU/麻酔科医を調べたstudyという意味では我々ER医がそのまま現場に適用するには外的妥当性に乏しいかもしれませんが、
アウトカムに差がないのであれば手間になるのでチェックリストは使わないという捉え方もできますし、教育的効果やチーム内の情報共有に有効なので使っても良いと考えることもできると思います。

EMA会員の皆様の解釈は如何に!?

②Rashid AO, Islam S. Percutaneous tracheostomy: a comprehensive review. J Thorac Dis 2017;9(Suppl 10):S1128-S1138.

経皮的気管切開術のレビューです。

我々非外科医がベッドサイドで行える手技として知られてますが、単独で手技を行えるようになるには最低でも20〜50例の経験が必要のようです。
外科的気管切開との違いとして、コスト(経皮的US$1,569± vs 外科的US$3,172±114)、感染発生率(OR 0.20)などが示されています。

他に、普段よく直面する臨床上の疑問点に関しては
・気切のタイミング→症例や施設ごとに判断する。挿管後から11日を中央値にしている報告もあれば、48時間以内の早期に行った方が死亡率、肺炎の発生率などが少なくなったという報告もあります。
・気切チューブと皮膚の縫合は必要か→縫合をしても意図しない抜去(脱落)のリスクは変わらないため基本的には不要
・チューブの交換:2-3ヶ月ごと
という記載があります。

なお、代表的デバイス"Blue Rhino"のメーカーであるCook medical社が
一連の手技の動画を公開していますのでご参考にどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=2svtzRn0qHQ