2020.04.30

2020/4/30 文献紹介

EMA文献班より東京大学 公共健康医学専攻の宮本です。
今回はCOVID-19に関する文献や報告を6本ご紹介したいと思います。
先日、Pubmedで"COVID-19"と調べると、すでに5000件以上のHitがありました。
EMA文献紹介によって、少しでも皆様の情報収集に関するご負担が減ればと願っております。

①Richardson S, et al. Presenting Characteristics, Comorbidities, and Outcomes Among 5700 Patients Hospitalized With COVID-19 in the New York City Area. JAMA. 2020 Apr 22. [Epub ahead of print]
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32320003

(ニューヨークのCOVID-19患者 5700例の記述研究)

ニューヨークにおける、3月1日〜4月4日までのCOVID-19による入院患者データ(鼻咽頭スワブPCRが陽性の症例)の記述研究。
5700人が対象となった。(生存退院:2081人 死亡退院:553人 4月4日時点で入院中:3066人)
・年齢の中央値は63歳(IQR:52-75)
・併存疾患としては高血圧が56.6%、肥満が41.7%、糖尿病が33.8%であった。
・併存疾患のスコアリングであるCharlson Comorbidity Indexの中央値は4点(IQR:2-6)であった。
・トリアージ時点で38℃以上の発熱を有していたのはたったの30.7%、呼吸数が24回を超えていたのは17.3%のみ。
・他の呼吸器感染を引き起こすウイルスとの合併感染は2.1%であった。
・退院患者(生存・死亡問わず)2634人のうち、死亡退院は553人(21%)であった。
・上記の2634人のうち、ICUに入室したのが373人(14.2%)、人工呼吸器を装着したのが320人(12.2%)であった。
・人工呼吸器を受けた320人のうち死亡したのは282人(88.1% !!)であった。
・ACE-IやARBがCOVID-19の病態に関わるのではないかという議論は以前からあるが、高血圧の既往のある患者のうち、ACE-Iを内服している患者の死亡率は32.7%、ARBを内服している患者の死亡率は30.6%、両者とも内服していない患者の死亡率は26.7%であった。

過去の中国からの研究と比較すると、死亡率がやや低いですが、入院の閾値の違いではないかと筆者は考察しています。
また、観察期間終了時点で入院している患者は打ち切り(censoring)扱いとして、死亡率の母数に含まれていないため、注意が必要ですね。
アメリカ・中国と大規模な記述研究が2つ発表されましたが、おおよそ類似した結果となりました。

②Kim D, et al. Rates of Co-infection Between SARS-CoV-2 and Other Respiratory Pathogens. JAMA. 2020 Apr 15. [Epub ahead of print]
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32293646

(COVID-19と他の呼吸器感染症の合併)
さて、さきほどの文献でも「他の呼吸器感染症との合併が2.1%ある」という話をしました。
北カリフォルニアからも同様の報告がなされています。

鼻咽頭スワブでPCR陽性となったCOVID-19患者に対し、呼吸器パネルアッセイ(インフルエンザやRSウイルス・ライノウイルスなどを同時検出できるアッセイ)を施行した。
1217人にSARS-CoV-2のPCR検査を施行し、116検体が陽性となった。
116検体のうち、24検体(20.7%)でSARS-CoV-2以外の呼吸器感染症を引き起こすウイルスが陽性となった。

「インフルエンザ迅速検査が陽性だから安心」というわけではないことを示す文献の1つになりますね。

次の2本は医療従事者とCOVID-19について扱った文献です。

③Chow EJ et al. Symptom Screening at Illness Onset of Health Care Personnel With SARS-CoV-2 Infection in King County, Washington. JAMA. 2020 Apr 17. [Epub ahead of print]
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32301962

(医療従事者の症状に関するスクリーニング)
診療に従事している自分自身はどのような症状に気をつければ良いのか と考えたことはありませんか?
ワシントン州 King County(老人ホームで集団感染が発生した地域)から医療従事者を対象とした研究です。

SARS-CoV-2感染が確定した50人の医療従事者(施設職員を含む)を対象に電話で聞き取り調査を行った。
48人が調査に回答した。
37人(77%)が患者と直接接触する職種であり、11人(23%)は管理業務・清掃業務など患者と直接接触しない職種であった。
発熱・咳嗽・息切れ・咽頭痛のいずれかを有していたのが40例(83%)であった。
発熱・咳嗽・息切れ・咽頭痛・悪寒・筋肉痛のいずれかを有していたのが43例(90%)であった。
また1例は鼻汁と頭痛のみを症状としていた。

上記より、発熱・咳嗽・息切れ・咽頭痛といった従来のスクリーニング基準だけでは見逃しの可能性があると筆者は主張しています。
何らかの体調不良を感じた場合は速やかに欠勤するのが安全ですね。

④Ewan H, et al. First experience of COVID-19 screening of health-care workers in England. Lancet. 2020 Apr 22. [Epub ahead of print]
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32333843

(医療従事者は院内感染より市中で感染しているかもしれない)
今度はLancetより、イギリスから、院内感染に関する興味深い報告です。

1654人のCOVID-19を疑う医療従事者にPCR検査を行い、240例(14%)が陽性となった。
3月10日時点では感染者数も少なかったが、その後、3月24日まで指数関数的に増加した。
3月20日に学校閉鎖を行い、23日からsocial distancingを開始し、24日以降は線形に感染者数が増加した。
次に医療従事者を、患者と接する程度によって3群に分けて感染率を検討した。
(1)患者と対面する職種:医師・看護師など(834人)
(2)患者と対面しないが院内曝露の危険性が高い職種:清掃担当やリネン担当、検査室の職員など(86人)
(3)患者と対面せず、院内曝露の危険性も低い職種:事務担当や管理者、システムエンジニア、秘書など(109人)
結果として、(1)〜(3)の感染者の割合はそれぞれ15%・16%・18%と有意差は見られなかった。

この結果から因果関係を示すことは困難ですが、「十分な患者隔離と感染防御を行っていれば院内感染は十分に防ぐことができ、むしろ市中感染を懸念するべきである」と筆者は主張しています。

最後の2本は妊婦とCOVID-19についてです。

⑤Sutton D, et al. Universal Screening for SARS-CoV-2 in Women Admitted for Delivery. N Engl J Med. 2020 Apr 13. [Epub ahead of print]
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32283004

(妊婦のCOVID-19スクリーニング検査)

アメリカからの報告。この施設では分娩のための入院時に咽頭スワブを用いたPCR検査を全例に行っているよう。
観察期間(3月22日〜4月4日)に215例の分娩があった。4人(1.9%)は入院時にCOVID-19に関する症状を有しており、全員がPCR検査陽性であった。一方、無症状であった211人のうち、210人から検体採取を行ったところ、29人(13.7%)がSARS-CoV-2のPCR検査が陽性であった。つまり、PCR検査陽性であった33人のうち、29人はCOVID-19に関する症状を有さなかった。

妊婦の無症候性感染の扱いと感染対策は悩ましいですね。
本邦でも、一部の病院では全例スクリーニング検査を行っているところもあるようです。

⑥ Chen L, et al. Clinical Characteristics of Pregnant Women with Covid-19 in Wuhan, China. N Engl J Med. 2020 Apr 17. [Epub ahead of print]
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32302077

(妊婦のCOVID-19に関する臨床症状と転帰)
こちらは中国・武漢市でCOVID-19の診断(PCRもしくは胸部CT所見で診断)を受けた妊婦118人を対象としている。
年齢の中央値は31歳(IQR:28-34)であった。
重症(呼吸数30回以上 or P/F ratio<300mHg or SpO2≤93%)は8例、最重症(呼吸不全 or 人工呼吸器管理 or ショックや臓器不全)は1例であった。最重症の1例はNIPPVを装着した。
対象集団のうち、COVID-19を懸念しての誘発流産が4例あった。分娩は68例あり、63例(93%)が帝王切開を受け、そのうち約6割がCOVID-19を懸念した選択的帝王切開であった。早産は14例あり、その中で、COVID-19を懸念して誘発分娩を行ったのが7例存在した。
新生児の咽頭PCR検査は8例のみ行われ、いずれも陰性であった。

少なくともこの文献からは、患者集団全体(15.7%)と比較して死亡率や重篤化率が極端に高いということはなさそうです。
ただし同年代女性と比較した検討はまだなされていないこと、インフルエンザでも妊婦は重症化のリスクであることなどを考えれば、引き続き注意が必要と考えます。

今回の文献紹介は以上です。

なお、これまでのCOVID-19に関する文献紹介をまとめたページを作成しました!
https://www.emalliance.org/covid/journal/
こちらもぜひ御覧ください!

皆様で力を合わせて、この国難を乗り越えていきましょう。