2020/4/19 文献紹介
今回の文献紹介は、
① COVID-19の心肺蘇生に関するガイドライン
② 難治性心室細動に対するDouble Sequential External Defibrillation
③ ERで見逃される虫垂炎の特徴
をお送りします。
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① Edelson DP, et al. Interim Guidance for Basic and Advanced Life Support in Adults, Children, and Neonates With Suspected or Confirmed COVID-19: From the Emergency Cardiovascular Care Committee and Get With the Guidelines-Resuscitation Adult and Pediatric Task Forces of the American Heart Association in Collaboration with the American Academy of Pediatrics, American Association for Respiratory Care, American College of Emergency Physicians, The Society of Critical Care Anesthesiologists, and American Society of Anesthesiologists: Supporting Organizations: American Association of Critical Care Nurses and National EMS Physicians.
Circulation. 2020 Apr 9. [Epub ahead of print]
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=32270695
擬似症も含むCOVID-19症例に対する心肺蘇生の暫定的なガイドラインが出されました。
パンデミックにおける擬似症と考えると、院外心停止の症例はほぼすべて対象となりますね。
医療従事者の暴露を減らすこと、エアロゾルを発生させる手技で注意することなどが主旨です。
この内容を踏まえて、私の所属施設ERでは下記のようなルールをみんなで共有しました。
・年齢や併存疾患から蘇生を目指すかどうかの方針決定を速やかに行う
・蘇生を行う全員がPPE装着
・蘇生を行うメンバーを制限
・蘇生を目指すなら速やかに気管挿管実施
・気管挿管は1回で成功させる(上手い手技者、McGrath使用など)
・気管挿管時は胸骨圧迫を中断、閉鎖式吸引回路・人工鼻装着後に再開
今までは、蘇生困難と判断しても家族に説明が終わるまでCPR継続したり、教育目的に研修医が気管挿管を行ったりすることがありましたが、プラクティスを変更した次第です。
このガイドラインでは院内発生CPAの対応にも言及されており、こちらも現行の蘇生行為と異なる点(挿管下腹臥位管理中のCPAは仰臥位にせず背部かから胸骨圧迫するなど)があるため、院内の他診療科とも合意形成を急いでいます。
なお、文献内のアルゴリズムの和訳版が日本ACLS協会ホームページに掲載されています。
https://acls.or.jp/dictionary/covid19-resources/
みなさまの施設での ACLS for COVID-19 の取り決めで、妙案があれば是非教えていただきたく思います。
② Cheskes S, et al. Double sequential external defibrillation for refractory ventricular fibrillation: The DOSE VF pilot randomized controlled trial.
Resuscitation. 2020 Feb 19. [Epub ahead of print]
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=32084567
“Double Sequential External Defibrillation” を御存知でしょうか?
簡単に言うと、除細動器を2つ使用し、2組のパッドを患者に貼り、それぞれの除細動器で連続して除細動を行う方法です。
難治性心室細動(除細動 3回に反応なし)に対して 20年以上前から有効性が検討されているとのことですが、私自身はやったことも見たこともありません。
このDSEDに関しては、症例報告や観察研究の報告はありますが、質の高いRCTはありません。
しかも「DSEDは最後の手段」と表現されることが多く、既報の研究で “実施が遅れた” がゆえに有効性が示せていないのではないかと解釈する声もあります。
そしてこの ①Double Sequential External Defibrillation (DSED) ならびに ②Vector change (VC) defibrillation (パッド貼付部位を前胸部&背部に変更し除細動) と、③標準的な除細動の難治性心室細動に対する有効性を検討するRCTが現在進行中です。(DOSE VF trial (930症例)、2022年データ収集終了予定)
今回紹介するのは、DOSE VF trial の実現可能性と安全性を検証するために実施された pilot RCTです。
カナダの4つの地域のparamedic service (日本でいう消防)を、クラスターランダム化クロスオーバー試験で上記①〜③の割付けを行っています。
この時期に「クラスター」と聞くと、集団感染のことかと思ってドキリとしますね。
クラスターランダム化クロスオーバー試験は、個々の症例に介入方法を割り振るのではなく、集団(クラスター)ごとに介入方法を割付け、6ヶ月で介入方法を変更するというものです。
152名の傷病者が対象です。
89.5%が割付け通りの除細動を行えており、除細動器の誤作動や熱傷など有害事象の報告はありませんでした。
なお、93%が6回目の除細動までに割付通り除細動を行えており。77%が4回目の除細動で実施できています。
また secondary outcomeも興味深いです。
心室細動停止率は、標準群 66.6%、VC群 82.0%、DSED群 76.3% でした。
自己心拍再開率は、標準群 25.0%、VC群 39.3%、DSED群 40.0% でした。
ER到着時の自己心拍再開率は、標準群 19.4%、VC群 24.6%、DSED群 32.7% でした。
この文献では予後については調査されていませんが、なんだか VC群やDSED群、有効そうに感じますね!
心停止で難治性心室細動を生じると、死亡率は 最大 97%だそうです。
厳しい局面だからこそ、画期的な治療の有効性確立が待ち遠しいですね!DOSE VF trialの結果を楽しみにしています!
③ Mahajan P, et al. Factors Associated With Potentially Missed Diagnosis of Appendicitis in the Emergency Department.
JAMA Netw Open. 2020 Mar 2;3(3):e200612.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=32150270
「虫垂炎は、女性患者、併存疾患のある患者、および便秘を伴った腹痛を訴える患者で見逃されやすい!」
これまでにもER受診時に虫垂炎を見逃す原因についての研究はありましたが、コホート規模が小さいことや、単一施設での研究であるといった理由で、一貫性がありませんでした。
今回著者らは、大規模な民間医療保険会社の行政請求データベースをSPADE(Symptom-disease pair analysis of diagnostic error)法を用いて分析することで、原因を究明しました。行政請求データベースを利用する利点として、大量のデータを扱えることや、施設のクロスオーバーが可能となることがあります。(例えば、ある病院に受診して、後日別の病院を受診していた場合でも保険請求データなら追跡できる)
2010年から2017年に虫垂炎と診断された患者の中から、診断される30日以内に虫垂炎に関連した症状で救急外来を受診した約12万人の特性や症状などを解析しました。
結果、成人群でも小児群でも約6%の患者が、初診時に虫垂炎を見逃された可能性がありました。
ロジスティック回帰分析の結果、腹痛がない患者は成人群(AOR、3.57;95%CI、3.22-3.95;P < 0.001)と小児群(AOR、2.99;95%CI、2.25-3.96;P < 0.001)の両方で虫垂炎を見逃す可能性が高いことがわかりました。また腹痛と便秘の両方があった患者(成人では、AOR、1.51;95%CI、1.31-1.75;小児では、AOR、2.43;95%CI、1.86-3.17)は、虫垂炎を見逃す可能性が高いという結果となりました。
また女性はどのような症状の組み合わせでも、男性に比べて見逃す可能性が高く、併存疾患が増えるほど見逃しの可能性が高まりました。
これらの結果は、先行研究の結果とも一致する形となりました。
その他にも、行われた検査と見逃しの可能性について調べていますが、これは診察した医師がそもそも虫垂炎を考慮していなかった可能性を反映している可能性が考えられます。
初診時にCTスキャンを受けた患者のうち、成人の5.5%、小児の4.7%で虫垂炎が見逃された可能性がありましたが、これは虫垂炎の所見を見逃したのか、その時は正常であったのかを判断することができなかったことは研究上の制約となります。
虫垂炎に限らずですが、このような見逃しやすい患者特性を頭に入れておきたいですね。
また便秘の治療をして症状が一旦改善しても、もしかして虫垂炎かも、という意識は必要かもしれません。
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EMA文献班
大林 正和(中東遠総合医療センター 救急科)
関根 一朗(湘南鎌倉総合病院 救急総合診療科)