2019.05.08

EMA症例97:5月症例 40歳代男性 吐血

状況


未曾有の超大型連休の過ぎ去った5月頭。平日夜勤帯、3時に救急要請の電話が鳴った。

40歳代後半の男性、吐血したとして救急要請となったもの。

救急隊接触時、気道開通、RR 28/min、SpO2 98%(R.A.)、HR 120bpm/整、BP 162/92mmHg、JCS 0、BT36.2度、自力歩行可能。

吐物は血性とのことだが吐物は流されており、救急隊は性状を確認していない。高血圧にて近医通院中。20分後に搬入予定。

 本日の夜間帯は内科系当直医無し、外科系当直として心臓血管外科医がいる。夜間は上部消化管内視鏡など必要な場合には、消化器内科と内視鏡室スタッフ呼び出しで、スタッフ招集から施行まで20分程かかる。救急外来には看護師3人、初期研修医3人おり、酸素投与を要する肺炎の90歳男性が入院上がり待ち、腎盂腎炎の22歳女性が入院を決めかねている。

患者搬入後に聴取した現病歴:

アルコール多飲歴ある40歳代後半男性  これまで健診ではアルコール性肝障害と高血圧を指摘されており、高血圧に対しては近医で処方を受けている。その他に通院無し。  来院前日20時頃に吐血あり、その後も4〜5回吐血したが、朝になったら病院に行こうと思い耐えていた。先行する嘔吐は無く、吐物は鮮やかな赤い色をしていたとのこと。

 来院日3時頃に再度吐血、家族の説得に応じて、救急要請となったもの。腹痛自覚なし。救急車までは自力で歩行可能であったが、搬送中も鮮血の嘔吐があったとのこと。呼吸苦やふらつきも自覚なく、嘔気以外に自覚している不快症状の訴え無し。

アレルギー なし
既存症 高血圧症
既往歴 なし
内服薬 アムロジピン10mg/日 ビソプロロールフマル酸塩5mg/日
最終摂食 来院前日18時頃、ほぼ酒のみ
嗜好歴 喫煙20本/日×30年 飲酒 焼酎5杯/日(ストレート)
家族歴 特記事項なし

来院時現症:

Vital signs
会話可能、RR 32/min、SpO2 98%(R.A.)、HR 128bpm, 整、BP 178/108mmHg、JCS 0、BT36.6度

Physical examination
眼瞼結膜蒼白(―) 眼球結膜黄染(―)
心雑音(―) 奔馬調律(―) 整脈 肺性副雑音(―)
腹部は軽度膨隆、軟、圧痛(―)、CVA叩打痛(―)
四肢末梢冷感軽度 Capillary refilling time 3秒程度

Point of care testing
静脈血液ガス分析:pH 7.262, PaCO2 32.5 Torr, HCO3 14.2mmol/L, Lactate 8.3mmol/L, Hb 10.4g/dL, Glucose 94mg/dL
十二誘導心電図:HR126bpm, 洞調律, QRS幅狭い, ST-T変化無し
胸部単純レントゲン:心拡大(―) 肺野清 Silhouette sign(―)

Point of care ultrasound:
心嚢水(―) 胸水(―) Eye-ball EF 60%以上 IVC虚脱
腹水は肝周囲に少量、大動脈は評価可能な範囲で拡大無し、脾臓は大きい、肝辺縁は鈍

検査・治療の準備をしている間に、再度吐血あり。本人曰く、まだまだ吐血しそうとのことだった。Vital signsは来院時と著変無く、会話可能であり、腹痛や背部痛は訴えていない。細胞外液は500mL投与されたが、やはり頻脈であった。別件で院内発症の吐血を対応していたと言う消化器内科On call医がERに様子を見に来てくれて、スタッフも揃っているので、内視鏡も直ぐに対応できるとのことであった。左前腕20Gと右前腕18Gの末梢静脈路が確保されている他、デバイスの留置は無し。