2019.11.14

EMA症例91:11月症例解説

みなさま多数の回答ありがとうございました。
50名程度の先生方から回答頂きとても勉強になりました。

本症例は生来健康な男性に急性に生じた激烈な消化器症状です。

問1は何を疑うか、という質問でした。回答の殆どはサルモネラやカンピロバクターなどの細菌性腸炎でした。それにイレウスやアナフィラキシーが続き、hemolytic uremic syndrome(HUS)などの回答も見られました。

本症例では食事後数時間で嘔吐と下痢症状が出現しており、感染症にしては発症が早い印象です。そうした時は食事歴が重要となり、特に少し変わったものを大量に食べた際は自然毒の中毒を考える必要があります。今回は金針菜を40個ほど摂取したとのことで調べてみると、金針菜ユリ科ワスレグサ属に属するホウカンゾウという花の蕾です。コルヒチン含有の食物でコルヒチン中毒が疑われました。

お二人の先生がコルヒチン中毒と回答くださいました!すごい!

コルヒチン中毒の臨床経過に関して簡単にまとめます。コルヒチンはユリ科の植物に多く含まれ、中毒の多くは誤食もしくは通常摂取する物の不適切調理や摂食過多により起こります。誤食ではイヌサフランや、グロリオサが有名です。速やかに消化管から吸収され20%程度は尿中排泄で、残りは腸管循環します。コルヒチンは微小管を障害するため、ターンオーバーが早い細胞ほど影響されやすく、小腸粘膜、骨髄、毛根細胞が障害されやすいとされます。以下に症状と経過をまとめます1

摂取後2-24時間
消化器症状(嘔吐、下痢、腹痛、消化管出血) →上記に伴い、電解質異常、腹水、血圧低下

摂取後2-7日目(多臓器不全期)
⾻髄抑制、神経抑制、臓器不全→発熱、敗血症、ARDS、凝固障害

摂取後7-10日目(救命例での回復期)
一過性の脱⽑症、汎⾎球減少、リバウンドによる白血球増多症(発熱は数週間持続することもある)

半減期は19.4時間で、コルヒチンとして60mgくらいで死亡例の報告があります。0.5mg/kg以下では死亡例はありませんが0.8mg/kg以上では全例死亡したと報告があります。例えばイヌサフランは球根にコルヒチンが0.2~0.5%含まれているので1、10g(大体1球)でも死亡する可能性が高いとされます。

問2は治療の質問でしたのでコルヒチン中毒が疑われた場合の治療を概説します。
コルヒチンを正解した先生方はお二方とも活性炭投与を挙げておられました。さすがです!

中毒の治療はどんな物質でも中毒症状に対する治療と中毒物質そのものの治療に大別するのがポイントです。中毒症状として消化器症状が強く出るのでそれに伴う体液の喪失に細胞外液の大量投与が必要です。
一方中毒物質に対する治療は吸収阻害、排泄の促進、拮抗薬を考えるのでしたね。コルヒチンの場合拮抗薬はありません。
分布容積4.87 ± 2.0L/kgと大きく、タンパク結合率約が高いことから透析も有効ではありません。コルヒチンは腸肝循環するためmultiple dose activated charcoal (MDAC)が有効とされています。
MDACとは腸肝循環をする薬剤の除去を目的として、活性炭1g/kgを2-4時間毎に繰り返し投与することを指します。腸管内薬剤の濃度を下げることで血中薬剤濃度との濃度格差を作り、薬剤を腸管に引き戻す作用を期待した治療です。適応はABCDのゴロが有名です。

A: Aminophylline(テオフィリン), Antimalarials(キニン), Aspirin(アスピリン)
B: Barbiturates(フェノバルビタール), βblocker
C: Carbamazepine, Colchicine
D: Dilantin(フェニトインの商品名)

本症例では脱水症状が強く晩期合併症の恐れもあったため入院管理となりました。幸い、補液により循環動態は安定し、腎機能障害も数日で改善しました。症状も骨髄抑制などは出現せず入院7日目で退院となっています。

今月のtake home messageは
・発症の早い消化器症状では、自然毒の中毒の可能性も頭の片隅に!
・ユリ科植物の過食はコルヒチン中毒を疑おう
・コルヒチン中毒は循環動態の維持とMDAC
・MDACの適応はABCD

参考文献
1 平成22年度食品安全確保総合調査より イヌサフラン ハザード概要シート
 http://www.fsc.go.jp/sonota/hazard/kosyoku_6.pdf

さらなる学習には
Goldfrank Toxicologic emergencies 10th edition McGraw Hill. J Emerg Med. 1994 12 171