2019.11.14

EMA症例88:8月症例解説

アンケート形式でしたが、132名のみなさんに参加いただきました。ありがとうございました。まずは参加者の属性からご紹介します。鼻腔内異物というcommonな状況のためか、多様な顔ぶれであることが分かります。

質問1
嫌がる患児に対してどのようにアプローチしますか?最も近いやり方を選んでください。

診療がスムーズに行えない小児に対してERでどのように対応するかをお尋ねしました。この質問の最大の要点は、鼻腔内異物が患児の協力を得られないうちに、気道内へと転位し、気道閉塞を来さないかを考慮に入れながら対応することです。とはいえ、鼻腔内異物が気管内の異物となるのは10,000例のうち6例未満と言われており1、全例に気道確保を行って異物除去を行うのは現実的ではありません。いずれの方法で患児へアプローチするにしても、事前に呼吸状態に変化が起きた場合のことを付き添いの家族に十分な説明をしてから行うことが大切と考えられます。

 異物がボタン電池の場合2、あるいは1組の磁石が鼻中隔を挟んでいない限り3緊急性がないため2、翌日の耳鼻科外来受診を指示するのも数ある手の一つです。

質問2
あなたが行ったことのあるルーツェ鑷子以外の鼻腔異物除去法を教えてください。(複数選択可)

 鼻腔異物の除去法には様々な方法があります。アンケートの中では吸引やMAGIC KISS、健側鼻腔内への高流量酸素投与で押し出す方法などを答えた方もありました。しかし、これらの方法は、今回の症例には無効でした。なぜでしょう?

鼻腔内異物の場合、実際にどの程度の大きさのものが入っているかが、鼻鏡を用いても分からないことがあります。実物があると分かりますが、持参がないこともあります。鼻孔のサイズよりも大きなモノが入ることもあります。今回は母親からの情報でビーズが入っているということでした。とある研究では鼻腔内異物のうち最も多いのがビーズ(44%)だったといいます3

 ビーズはご存知の通り、球体状の樹脂の中心に穴が通っている構造をしています。気体を使った異物除去法では、穴の大きさやビーズの向きによっては圧が抜けてしまい、十分な効果が得られないことがあります。

 最終的に本症例では、親御さんの協力のもと患児をしっかりと固定し、最初に用いたルーツェ鑷子で異物を把持し、除去することができました。

鼻腔内異物
 鼻腔内異物は、アメリカでの多施設データベースにおける年齢分布を見ると2~5歳に好発しています(図1)。右側のことが多く、右側は左側の2倍の頻度5と言われていますが異物が1つでないこともあり、異物除去後は両側を再度確認することが大切です。合併症は約9%にあり鼻出血、副鼻腔炎、中耳炎がよく知られています。極稀に眼窩蜂窩織炎、髄膜炎6、喉頭蓋炎、ジフテリア、破傷風を起こすことが報告されています4

 異物が球状や円盤状であることは異物除去失敗の因子となります。異物除去までの平均時間は、異物が入ってから9.7時間ですが5、長期間異物が入っていることは副鼻腔炎のリスクとなります。発熱や悪臭を伴っている場合には、いつから入っていたのかを再度問診し、副鼻腔炎の合併を疑います。

 ボタン電池が入っている場合は4時間以内に穿孔を起こす可能性があるため、早期に除去を行う必要があります7,8。ボタン電池はリチウム電池とアルカリ電池の違いが時折議論になりますが、一般的にリチウム電池のほうが、電圧が高く腐食性が高いためより危険であると考えられています(リチウム電池約3.0V、アルカリ電池約1.5V)。


図1 鼻腔内異物の年齢層別分布割合(参考文献4より作成)

鼻腔内異物除去の4ステップアプローチ
 鼻腔内異物を除去する標準的な方法は、あまり研究がなされていませんが、成功率を高めるために4つの手順を踏んだ方法(4ステップアプローチ)が報告されていますので、一部改変してご紹介します9

ステップ1:両手を開放するためにヘッドライトを使用する。ヘッドライトがない場合は助手にペンライトを持ってもらうなどして両手を開放しつつ照明を確保する。

ステップ2:鼻鏡を使用する。

ステップ3:充血除去剤を鼻の中に噴霧する。希釈したアドレナリンおよびキシロカインを噴霧する。

ステップ4:患児が固定されていることを確認する。家族に協力してもらい固定しますが、固定が不十分であると鼻出血を起こしたり、除去がうまくいかなかったりします。ベッドに寝かせてベルトやシーツなどを使用して抑える、または診察室で親の膝の上で固定します。

鼻腔内異物除去の方法
・ルーツェ鑷子
・生検鉗子
・異物鑷子(図2)
 ルーツェ鑷子はアリゲーター鉗子とも呼ばれるもので、鼻や耳の異物除去によく用いられます。 細長いことを生かして、鼻腔内の奥まで到達できることが特徴です。構造上細身であるため把持力が弱く、強い力で把持する必要がある場合、小さいモノを把持する場合には向きません。その際は異物鑷子のように先端が固い金属でできた器具を選択します。生検鉗子は手元で先端部分の把持操作ができるものです。挟める程度の厚みのものであれば有効です。


図2 異物鑷子

・吸引
 気道吸引に使う軟性の吸引チューブと、金属製の吸引チューブがあります。軟性のチューブは先端に側溝があいているため、側溝部分より近位でカットして使用します。陰圧をかけるタイミングを自分で操作したいときは、チューブを10~15cm程度の短さにしておくと便利です(図3)。


図3 軟性吸引チューブ

・キューレット(図4)
・クリップ(図5)
 この2者は異物を掻き出すようにして除去する器具です。キューレットは子宮内掻爬術に使われるものです。持ち手や太さにいろいろなバリエーションがあります。クリップは事務用のクリップを曲げて使います。今回のようなビーズのように穴があいていて、そこにクリップの針金が通りそうなら、そこで引っ掛けて除去するのも手です。


図4 キューレット


図5 クリップ

・木製の綿棒+シアノアクリレート(ダーマボンド®
 木製の綿棒の柄の先端にシアノアクリレートを塗ります。塗った部分を粘膜に接しないように慎重に鼻腔内に入れて異物と接触させ、60秒程度待った後に異物ごと除去する方法です10。シアノアクリレートとは市販の瞬間接着剤のことで、医療用としてはダーマボンド®が知られています。

・バルーンカテーテル
 膀胱に留置するときに使うバルーンカテーテルを使う方法です。できるだけ細いバルーンカテーテルを選択して、異物の脇を通してバルーン部分を奥まで入れ、そこでバルーンを膨らませ、牽引することで異物を除去する方法です。この方法の利点はバルーン内に造影剤をまぜた生食を入れることで、透視しながら除去したいときに有用です。挿入時には鎮痛目的にリドカインゼリーを塗布しておきます。

・Magic kiss(mother’s kiss)
 Magic kissは子供の健側の鼻腔を閉じさせ、口から親が陽圧呼気を吹き入れることで、鼻腔内異物を吹き飛ばす方法です。バッグバルブマスクを用いても陽圧を掛けることが可能です11。その際、圧が抜けないように、しっかりと口に密着させる必要があります。親が行う場合は、身体拘束をしなくて済むことが多いですが、バッグバルブマスクの場合は子供の抵抗が予想され、身体拘束が必要なことが多くなります。成功率は約60%と報告されています12。気道損傷の報告はありませんが、実際にやってもらったときに呼気が胃内に入ってしまったためか、子供が直後に嘔吐したのを経験しました。

除去に成功したら
 必ず2つ目がないか、反対側に残っていないかを確認します。また、帰宅させる前に、悪臭のある鼻汁が出る場合や、上顎洞部の痛みを伴う発熱が出る場合は、耳鼻科を受診して副鼻腔炎の有無を評価するよう話をしておきます。

Take Home Message
・上気道閉塞に留意して、処置前に十分な説明を行う
・4ステップアプローチで成功率を高めよう
・除去に成功したら2つ目や反対側に残っていないかを確認

参考文献
1. Qureshi AA, Lowe DA, McKiernan DC. The origin of bronchial foreign bodies: a retrospective study and literature review. Eur Arch Otorhinolaryngol. 2009 Oct;266(10):1645-8.

2. Morris S, Osborne MS, McDermott AL. Will children ever learn? Removal of nasal and aural foreign bodies: a study of hospital episode statistics. Ann R Coll Surg Engl. 2018 Jul 3:1-3.

3. Kazikdas KC, Dirik MA. Button Magnets in the Nasal Cavity. N Engl J Med. 2017 Oct 26;377(17):1666.

4. Svider PF, Sheyn A, Folbe E, Sekhsaria V, Zuliani G, Eloy JA, Folbe AJ. How did that get there? A population-based analysis of nasal foreign bodies. Int Forum Allergy Rhinol. 2014 Nov;4(11):944-9.

5. Baranowski K, Sinha V. Foreign Body, Nose. 2017 Nov 15. StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2018 Jan-. Available from http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK459279/

6. van der Veen J, Thorne S. Bacterial meningitis: a rare complication of an unrecognised nasal foreign body in a child. BMJ Case Rep. 2017 Jan 30;2017.

7. Guidera AK, Stegehuis HR. Button batteries: the worst case scenario in nasal foreign bodies. N Z Med J. 2010 Apr 30;123(1313):68-73.

8. Bakshi SS, Coumare VN, Priya M, Kumar S. Long-Term Complications of Button Batteries in the Nose. J Emerg Med. 2016 Mar;50(3):485-7.

9. Ng TT, Nasserallah M. The art of removing nasal foreign bodies. Open Access Emerg Med. 2017 Nov 6;9:107-112.

10. Hanson RM, Stephens M. Cyanoacrylate-assisted foreign body removal from the ear and nose in children. J Paediatr Child Health. 1994 Feb;30(1):77-8.

11. Kiger JR, Brenkert TE, Losek JD. Nasal foreign body removal in children. Pediatr Emerg Care. 2008 Nov;24(11):785-92; quiz 790-2.

12. Cook S, Burton M, Glasziou P. Efficacy and safety of the "mother's kiss" technique: a systematic review of case reports and case series. CMAJ. 2012 Nov 20;184(17):E904-12.