2019.11.14

EMA症例83:3月症例解説

みなさん
数多くの解答をありがとうございました。
今回の症例は小児の突然の頚部痛の症例でした。
まだ症例を見ていない方はこちらをさらっと目を通してから解説へどうぞ!
http://www.emalliance.org/education/case/shorei83

解答のまとめ

短い期間にも関わらず100名を超える先生方にご回答頂きましてありがとうございました。
検査の選択は頸椎レントゲン(緑)と頸椎CT(オレンジ)が35%程度と同数程度、その後に全身骨のレントゲンが12%(青)で続きました。

その後の方針に関しては環軸椎回旋位固定を念頭に置いたマネジメントがほとんどでした。
・ネックカラー装着
・痛み止めで経過観察
・待機的に整形外科フォロー
・画像で重症度分類する
という方針が大半でしたが、
・骨折などの外傷の確認
・頸部の感染や炎症の確認
・虐待の否定
など原因検索や合併損傷の検索などに対する重要な事項も指摘がありました。

回答者の属性は4割が救急医(専門医または後期研修医)、3割が初期研医、1割が内科の先生という属性でした。

本症例は環軸椎回旋位固定の症例でした。いわゆるsnap diagnosisで知っていると即答、知らないと迷う、疾患なのではないかと思います。
一般的と言うほどではありませんが忘れた頃にERにやってくるような頻度の疾患と言えるでしょう。
それでは下記の解説で疾患概念を整理していきましょう!

解説
環軸椎回旋位固定は比較的急性の経過で頚部痛や斜頸を主訴として来院する疾患です。小児の中でも比較的まれとされていますが、診断の遅れが難治の原因になるとも言われており早期に専門科の受診を促すことが肝要となります。
また、特徴的な姿勢をとるため一度経験すれば比較的容易に診断にたどり着くことができるという点で、「知っている」ことが重要な疾患とも言えます。

疫学
10万人あたり数人とされ、10才以下の小児が多くを占めます。頚部痛もしくは斜頸を主訴に受診する例が多いとされます。

病因
原因ははっきりしていませんが、軽微な外傷や咽頭痛、リンパ節炎などのエピソードが先行したとする報告が多くあります。そのため、みなさまの解答にあるように背景疾患の検索は重要で、それに対する介入が必要ないかは評価します。また、全ての外傷で虐待の可能性を一度は考えることも小児では重要です。病歴と矛盾がないかなどを確認するとよいでしょう。MRIでは椎体間に炎症を認めるため、上記の誘因によって椎間関節(Luschka関節)に炎症が惹起されるものとする意見もあります(1)

身体所見・検査所見
斜頸を補正して頭部を水平に保とうとするためCock Robin positionという特徴的な姿勢をとります。見慣れていればsnap diagnosisが可能です。


DOI: 10.1542/pir.20-1-13 より引用

検査としては単純レントゲンが古典的に知られており第一選択とされています。レントゲン所見による重症度分類が広く知られてきました。(Fielding分類)(2)。しかし頸椎CTの診断精度が高いとされ、CTを第一選択として勧める場合もあるようです。CTでは小児の場合環椎歯突起間が3mm以上開いている場合は横靭帯の損傷があるものと考えます(3)
レントゲンかCTかは議論の分かれるところで診断精度とのバランスと思われます。逆に理学所見などである程度可能性が高ければ、治療介入を開始して画像の必要性はその後の専門科にゆだねても良いかもしれません。ただ、専門科を再診する際には症状が改善している時もあり、有症状時の画像所見を希望されることもあり、院内整形外科医とコンセンサスを形成しておくのも重要でしょう。

Fielding 分類
◯ Type I: 片側の関節面の亜脱臼であり、横靭帯は正常である。
      最も多く歯突起が支点となっている。
◯ Type II: 片側の関節面の亜脱臼であり、環椎歯突起間は3−5mmである。
      横靭帯損傷を伴っている。歯突起が支点となっている。
◯ Type III: 両側関節面が前方に偏位しており5mm以上環椎歯突起間が理解している。
       まれであり神経学的異常がでることがある。
◯ Type IV: 環椎が後方に偏位しており歯突起が正常に機能していない。
      まれであり、神経学的異常を高い確率で伴う

治療
一般的にFielding分類Type IとIIは痛み止めと頚椎カラーで保存療法、Type III以上はグリソン牽引などの必要性があるとされますが、発症初期の分類は長期成績を予測しないとも言われ、救急外来での対応としては痛み止めと頚椎カラーで一旦帰宅として整形外科へフォローを依頼するのが妥当と思います。院内の整形外科とコンセンサスを形成しておくのも重要でしょう。その際のカラーは原則はですが、1週間まではソフトカラーでよいとする意見もあります(4)。極度に嫌がったり小児用のハードカラーがなければ、次回受診まではソフトカラーでもよいのではないでしょうか。幼児サイズがない場合は症状が強くなく偏位も軽度であれば対症療法のみでもよいでしょう。

Take Home Message
・環軸椎回旋位固定(AARF)は小児に多く、突然の頚部痛で生じる
・典型的にはCock-Robin positionがあり特徴的な姿勢から知っていればすぐに診断できる
・重症度はFielding分類があり治療方針の参考にはなるが、発症直後の急性期は正確ではない
・基本的には保存療法で治癒されるがまれに観血的整復や持続牽引を要する例もある

<本症例の学習目標>
・環軸椎回旋位固定の典型像を知る
・Fielding分類と治療方針の基本を学ぶ

参考文献
1) Eur Spine J (2012) 21 (Suppl 1):S94–S99
2) J Bone Joint Surg Am 1977;59:37-44.
3) Balkan Med J 2012; 29: 277-80
4) 整形外科と災害外科 63:(3)501~504,2014