2019.11.14

EMA症例80:12月症例解説

 今回は54名の方に回答いただきました。ご参加いただいた皆様ありがとうございました。まずは、回答いただいた方々の属性からご紹介します。

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 今回の症例は画像診断からの方針決定を軸に据えて作成させていただきました。画像自体は問題文記載の通り、一見腸管内の糞便に見えるものが左腎下極付近にありました(図1の赤い○内)。

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図1 腹部造影CT

 この時点での診察医の思考は近くの腸管が写ったものか、あるいは腎実質内部に膿瘍+ガス像かの二択でした。腸管であれば、今回の病態とは無関係となりますが、膿瘍となりますとドレナージが必要となり、方針が変わってしまいます。当患者は糖尿病の既往があり、また採血結果から何らかの炎症反応が起こっていることが示唆されるため、感染症を疑うべき状況です。腸管と連続性があるかないかを慎重に見てみたところ、造影CTの冠状断像(図2)から腸管との連続性がないことが分かり、腎膿瘍疑いと判断しました。

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図2 腹部造影CT(冠状断)

 膿瘍内部にはガス像があり、限局的ではあるものの気腫化もあるため、ただの腎膿瘍ではなく気腫性腎盂腎炎を疑います。

 質問1の回答では、気腫性腎盂腎炎が17名、腎膿瘍が24名でした(その他AFBN(acute focal bacterial nephritis:急性巣状性細菌性腎炎)、腎腸管瘻孔、腎損傷など)。
 病変部の辺縁が平滑な球状であることからは腎嚢胞内に感染を起こしたとも考えられますが、ガス像は見逃せない所見です。気腫性腎盂腎炎とすると、Huangの分類1)によってその後の方針が変わります(表1)。

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 本症例ではガスが腎実質内にとどまっていることから、Class 2に分類されます。Class2では内科的治療と経皮的ドレナージを行います。それらの治療でもコントロール不良であれば、腎摘出となることもあります。そのため、質問2では「日曜日の日直帯で、院内には一般内科医と一般外科医しかいない体制」という条件付きで対応を検討いただきました。

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 病院によって待機医師の体制は異なるため、対応は状況によって様々になるかと思います。日曜日ということを考慮すると、バイタルサインが許せば、まずは入院させて内科治療を開始し、翌日に泌尿器科に相談するという方法もあるでしょう。泌尿器科の待機医師がいるのであれば、一度相談しておくのもよいかもしれません。あるいは最初から泌尿器科での治療を念頭に、手術可能な近隣病院への転院搬送も考慮されます。
 当患者は日曜日で泌尿器科が対応困難であったため、近隣病院へ転院となり、内科治療とドレナージが行われました。

気腫性腎盂腎炎
 気腫性腎盂腎炎は糖尿病患者や免疫不全状態にある患者に多く、腎尿路内外にガス像の貯留を認める腎盂腎炎です。起因菌としてはE.coli(69%)やKlebsiella pneumoniae(29%)が多く、これらの菌が尿中の糖を分解することによってガスを産生します。96%が糖尿病患者であったという報告もあります1)。糖尿病以外では腎癌や尿管癌の合併が報告されています2)

 尿路閉塞を伴うことが22%あり1)、ガス像に目を奪われてしまいがちですが、閉塞起点の検索も必要です。

 死亡率が20%前後あり、適切な治療が必要となります。死亡と関連の高い要素としては、緊急血液透析、来院時ショックバイタル、意識状態の変容、低アルブミン血症、不適切な抗菌薬治療があります3)

 診断は画像所見および尿路感染徴候で行い、尿検査では膿尿の他に血尿、蛋白尿が出ることがあります(本症例では尿タンパク+1、尿潜血+2)4)

 治療はHuangの分類に基いて行いますが、どのタイミングでドレナージや腎摘出術を行うかは議論のあるところです。画像上、腎実質の破壊が50%を超えていることが、腎切除術の必要性を有意に予測したとする報告もあります5)。尿路閉塞がある場合は、その解除も必要となるため、泌尿器科など専門診療科と協議しつつ治療方針を決めていくことが重要です。いずれにしてもERでは、ショックになりえる疾患であるため、ABCのモニタリングおよび安定化に努めることを忘れてはなりません。

まとめ
・腎および腎周囲のガス像は見逃せないサイン
・気腫性腎盂腎炎ではHuangの分類で治療方針や方向性を検討する
・ERではABCのモニタリングと安定化をはかりつつ専門科コンサルト

参考文献
1) Huang JJ, Tseng CC. Emphysematous pyelonephritis: clinicoradiological classification, management, prognosis, and pathogenesis. Arch Intern Med. 2000 Mar 27;160(6):797-805.

2) Wang MC, Tseng CC, Lan RR, Lin CY, Chen FF, Huang JJ. Double cancers of the kidney and ureter complicated with emphysematous pyelonephritis within the parenchyma of the renal tumour. Scand J Urol Nephrol. 1999 Dec;33(6):420-2.

3) Lu YC, Chiang BJ, Pong YH, Huang KH, Hsueh PR, Huang CY, Pu YS. Predictors of failure of conservative treatment among patients with emphysematous pyelonephritis. BMC Infect Dis. 2014 Jul 29;14:418.

4) Ubee SS, McGlynn L, Fordham M. Emphysematous pyelonephritis. BJU Int. 2011 May;107(9):1474-8.

5) Kapoor R, Muruganandham K, Gulia AK, Singla M, Agrawal S, Mandhani A, Ansari MS, Srivastava A. Predictive factors for mortality and need for nephrectomy in patients with emphysematous pyelonephritis. BJU Int. 2010 Apr;105(7):986-9.