2019.11.14

EMA症例72:4月症例解説

 今回の症例は黄色ブドウ球菌性毒素性ショック症候群(以下黄色ブドウ球菌性TSS, Toxic shock syndrome)でした。26名の方にご回答いただきました。皆様ご回答ありがとうございます。

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●TSSとは
 TSSは、黄色ブドウ球菌により産生される外毒素が原因です。
スーパー抗原として知られているこの外毒素は、Tリンパ球の強い活性化を引き起こし、非常に激しい宿主の免疫応答を生じさせます。
TSSはこの免疫応答により、急性発症の高熱を伴う皮疹を特徴とし、
ショックや多臓器障害といった多彩な臨床症状をもつ疾患です1

●質問1:最も疑われる疾患

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 皆様のご回答は上記の通りでTSSが最も多く、その他に成人の黄色ブドウ球菌性 scaled skin syndrome(SSSS)、急性汎発性発疹性膿疱症(acute generalized exanthematous pustulosis, AGEP)を疑った方もいらっしゃいました。共に発疹+低血圧で鑑別にあがりうる疾患です。症例提示からの判別は困難ですが、SSSSの成人発症は稀で、痛みを伴う発疹が多く、初発症状は口囲、眼囲の水疱、びらん、発赤であることが多いです。またAGEPについては頚部の膿疹があることから鑑別に挙がるのですが薬剤暴露がないこと、低血圧と発疹がほぼ同時に出現しており発症経過が早すぎることは合わないところです。しかし実際の症例でもAGEPで敗血症性ショックのような状態のこともあるため2、薬剤暴露を何度か確認しましたが、内服されていないということ、予後良好な疾患であるため一旦鑑別の順序を下げることにしました。後に考えるとAGEPの膿疱は薬剤に反応したTリンパ球が表皮で好中球を集めて形成される3 ため、TSSでも起こりうるのかと一人で納得していました。一般的に発疹を伴う発熱患者の問診では以下を確認します。

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ちなみに本症例では中毒性紅斑+低血圧からタンポン使用歴を確認すると、月経中でタンポンを使用している事からTSSの診断へと繋がっていきました。

●質問2:鑑別疾患は

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 皆様のあげた鑑別はグラフの通りで、素晴らしいものが並びました。またその他の鑑別としてIEやレプトスピラ、デング熱などもありました。今回の症例のような「発疹+低血圧」で来院し救急外来で見逃してはいけない鑑別はTSS、播種性髄膜炎菌感染症、リケッチア感染症、中毒性表皮壊死症(TEN)、Stevens-Johnson症候群(SJS)があります5。また感染症の青木眞先生は「健康成人の発疹+敗血症」の鑑別ではTSS、播種性髄膜炎菌感染症、リケッチア感染症(ロッキー山紅斑熱、ツツガムシなど)、IE(ブドウ球菌など病原性が強い菌による)を鑑別としておっしゃっております6。皮疹を伴う重篤な全身感染症では中毒性紅斑ならTSS、様々な形の斑、紫斑、膿疹、丘疹は髄膜炎菌、散在性の丘疹、小疱、斑は髄膜炎菌とリケッチア症、全身の紫斑+重篤感があれば髄膜炎菌、肺炎球菌、グラム陰性桿菌敗血症、リケッチア症を考えます。

●TSS

 さて最初に黄色ブドウ球菌性TSSが報告されたのは1978年で、その後1980年代始めからアメリカにて高吸収性タンポンを使用した若い健康な女性の膣からブドウ球菌が検出され有名になりました2,4。高吸収性タンポンはこの後販売中止となり、タンポンの使用に伴って黄色ブドウ球菌性TSSの罹患の可能性があることを表示する事がアメリカで義務づけられました。しかし現在も毒素産生のブドウ球菌が健康な女性から産生される割合は1~5%と1980年頃から変わっておらず、今もなお死亡する可能性のある疾患です。月経に伴わない黄色ブドウ球菌性TSSの原因としては皮膚や粘膜のブドウ球菌感染によって起こるもので、膿瘍形成や熱傷、外科処置後がありますが、感染源がはっきりしない事もあります。一方で溶血連鎖球菌性 TSSは健常者にも起こりますが、慢性疾患や水痘感染、NSAIDS使用者でより罹患率が上昇します。また溶血連鎖球菌性TSSは黄色ブドウ球菌性TSSよりも死亡率が高く(7日間での死亡率44%)、発疹が出現しにくい、軟部組織感染を伴っていることがほとんど、というのが特徴です4

●TSSの症状と病像

 黄色ブドウ球菌性TSSは突然のインフルエンザ様の症状(発熱、消化器症状、筋痛など)や発疹が出現し、その後意識障害、昏睡、不穏や低血圧などが続いて急速に随伴します。月経性黄色ブドウ球菌性 TSSは95%が月経中、非月経性黄色ブドウ球菌性 TSSは先行する熱傷や外科手術創部の悪化、異物の存在などがあり入院中ですでに抗菌薬加療中という状況が多いようです。ただし術後の非月経性黄色ブドウ球菌性 TSSは術後48時間で起こる事が一般的で、その多くは創部感染がわかる前に発症します。溶血連鎖球菌性 TSSは壊死性筋膜炎、蜂窩織炎、筋炎といった軟部組織感染症から引き続いて発症しますが、初期は発熱、咽頭痛、頸部リンパ節腫脹、消化器症状といったインフルエンザ様症状から発症するケースもかなりの頻度で認められます。

●TSSの診断基準

 それぞれの診断基準を以下に示します。しかし注意したいのは、診断も除外も容易ではないという事です。また血液培養は毒素による症候群のため必ずしも陽性にはならず黄色ブドウ球菌性 TSSでは陽性率5%以下、溶血連鎖球菌性 TSSでは60%ほどになります。

●本症例での診断までの経過

 本症例では発熱、前日まで元気であったにも関わらず急激な低血圧、発疹(入院後6日目より手掌と足底に落屑あり)、タンポン使用があり、入院日の採血では多臓器障害はありませんでしたが、黄色ブドウ球菌性 TSSの可能性が高いという判断で入院となりました。翌日より下痢、CPK上昇、血小板低下を認め、その後膣からMSSAが培養されTSSがより疑われました。残念ながらロッキー山紅斑熱やレプトスピラ、麻疹力価の測定はしていないため確定診断にはなっておりませんがその後発疹に落屑を伴う臨床経過からも強く黄色ブドウ球菌性 TSSを疑うという診断になりました。

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●質問3:初期対応と治療

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 初期対応については上記の回答となりました。皆様のご回答通り治療は敗血症に準じて行われます。薬剤投与と回答頂いた方の内容は昇圧剤や抗菌薬、重症薬疹を疑った方はステロイド投与を記載されていました。培養結果が出ない状況での診断は困難ですが、TSSの抗菌薬の選択はセファゾリン1.5g 6時間毎とクリンダマイシン600-900mg 8時間毎(毒素産生の抑制のため、高齢者では臓器傷害をきたしやすいため高容量は避ける)となります8。タンポンなど異物は除去し、軟部組織感染を合併している場合には創部のデブリドメントを行います。免疫グロブリン投与については強いエビデンスはありませんが小さなRCTで有効性が示唆されており9,10、治療に反応しない場合に投与されます。今回の症例では来院後の輸液に反応せず入院初日に昇圧剤を投与し集中治療室入室となりましたが、4日目以降は状態が安定し発疹が改善傾向となりました。入院6日目には手掌と足底に落屑の出現があり、入院11日に独歩で退院となっております。

まとめ

・発熱+発疹の病歴聴取はI C JOV DATAS
・発疹+低血圧の鑑別はTSS、播種性髄膜炎菌感染症、リケッチア感染症、中毒性表皮壊死症(TEN)、Stevens-Johnson症候群(SJS)
・TSSはタンポンや皮膚軟部組織感染など誘因があってインフルエンザ様症状から発疹、ショックに急激になるという病像であることを知る

参考文献

1.John AM et al. Rosen’s Emergency Medicine: concepts and clinical practice, 8th ed. Philadelphia: ELSEVIER SAUNDERS, 2014

2.Lesterhuis WJ et al. Acute generalized exanthematous pustulosis mimicking septic shock. Am J Med. 2004;574-575.

3.Britshgi M et al. Acute generalized exanthematous pustulosis, a clue to neutrophil-mediated inflammatory processes orchestrated by T cells. Curr Opin Allergy Clin Immunol. 2002;325-331.

4.Emma LF et al. Gram-positive toxic shock syndromes. Lancet Inf Dis. 2009;281-290.

5.Adams JG et al. Emergency Medicine. 2nd ed. Philadelphia: ELSEVIER SAUNDERS, 2013

6.CDCのHPよりhttps://wwwn.cdc.gov/nndss/conditions/toxic-shock-syndrome-other-than-streptococcal/case-definition/2011/

7.CDCのHPよりhttps://wwwn.cdc.gov/nndss/conditions/streptococcal-toxic-shock-syndrome/case-definition/2010/

8.青木眞. レジデントのための感染症診療マニュアル 第3版 医学書院 2015年

9.Kaul R et al. Intravenous immunoglobulin therapy for 溶血連鎖球菌性 toxic shock syndrome—a comparative observational study. The Canadian 溶血連鎖球菌性 Study Group. Clin Infect Dis. 1999;800-807.

10.Darenberg J et al. Intravenous immunoglobulin G therapy in streptocccal toxic shock syndrome: a European randomized, double-blind, placebo-controlled trial. Clin Infect Dis. 2003;333-340.