2019.11.14

EMA症例70:2月症例解説

学習目標
・マムシに咬まれた人のdispositionを適切に決定できる
・マムシ咬傷の治療法についてエビデンスを知る

アンケート結果
今回は77名の方に回答をいただきました。まずは回答者の内訳ですがこのようになっております。

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救急科以外の医師の回答が多いですね。日常診療でよく遭遇するということの象徴かもしれません。では質問への回答を見て行きましょう。

質問 
以下に蛇の写真を提示します(苦手な人はご注意ください)。マムシは次のうちどれでしょう。

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もしかしてマムシを見たことが無い人もいるのではないかと思いこの設問を作りました。みなさんからの回答はこのようになりました。

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aという意見が多く、bからdと続きます。三角形の頭部に独自の斑状の模様がある褐色の蛇がマムシであるというイメージが強いようです。20%の方は全部マムシであると回答いただきました。で、どれがマムシかというと「全部」です。マムシの特徴は後ほど解説します。

質問
行う治療を次のうちから全て選んでください
(創部局所切開、抗菌薬投与、破傷風トキソイド投与、破傷風グロブリン投与、抗マムシ血清投与、セファランチン投与、その他)
治療介入において何か条件がある場合には記載してください

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破傷風トキソイドは多くの方が選択されましたが、マムシ咬傷の治療薬として認識されているはずの抗マムシ血清は約半数、セファランチンは30%強の人しか選択されませんでした。
 一方、治療介入の条件として腫れが肘まで広がったら抗血清投与をするという意見、GradeⅢになりそうなら抗血清投与という意見がありました。具体的に6時間以内にと挙げていただいた方も数名いらっしゃいました。抗血清いついくの?いまでしょ!とはならない事情があるのかもしれません。後述します。
 その他、血液検査で凝固系の異常を見たら治療開始とする意見、全身状態悪化に伴い抗菌薬投与を検討するという意見、創汚染の状況に従い破傷風グロブリン投与と抗菌薬を検討するという意見、末梢神経障害や血流障害があれば減張切開を考慮するという意見がありました。

質問
この患者さんのdispositionは?

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多くの方が入院を勧めるようです。また入院させなくても、日中は様子を見ておこうと考えるようです。帰してはならない理由はあるのでしょうか?解説で触れて行きたいと思います。

マムシについて
 マムシ属(Gloydius)には9つの種が知られており1)、ニホンマムシ(Gloydius blomhoffii)はその一種です。ニホンマムシと呼ばれるくらいなので当然日本に生息する他、中国や韓国でも確認されています。また英名はMamushiで通じるようです。60cm程度の蛇で、攻撃範囲は30cm程度。5mm程度の薄い牙で噛み付いてきます。マムシは普段川や池、水田などの近くに生息し、春や秋は日中に、夏は夜間に活動することが知られています。画像で示したものは前述の通り全てマムシです2)。最もありふれた色はaのものですが、カラーバリエーションとしてbやc、メラニン色素の強いものとして黒っぽいものも存在するということは知っていて良いかと思い提示しました。

マムシ咬傷の初期治療
 マムシに咬まれたら何が問題なのでしょう。一番問題になるのはマムシの毒です。以前は駆血帯やターニケットで縛り上げて毒が回るのを防ぎ、局所切開したり毒を吸引したりするように言われていましたが、近年は推奨されていません。理論的には咬傷部より中枢側の皮下静脈を押さえる程度に軽く圧迫すれば毒が回るのを防げるはずですが、効果のほどは定かでありません。また局所切開や毒の吸引も、人体における有効性についてはエビデンスがないです2)
 マムシ咬傷でマムシ毒以外の問題はあまり起こりません。咬傷そのものはしっかり洗浄して、破傷風トキソイドや抗菌薬投与を考えますが、抗菌薬の感染予防効果を示す強いエビデンスはありません。創部の切開をする必要はありませんが、もし創部が壊死しているようであればデブリードマンする必要があり、その場合にはさらに抗菌薬投与と破傷風トキソイドの投与を積極的に検討してください3)

マムシ毒
 マムシ毒はプロテアーゼやホスホリパーゼ、ブラジキニン放出に関わる酵素など、様々な酵素を含んでいます。咬まれた部位の疼痛と周辺の腫脹がメインの症状となりますが、時に水疱形成や皮下血腫を伴い、また腫脹は徐々に進展し体幹部まで広がることもあります。重症では血管内のvolume lossから低血圧を招き、このような例では横紋筋融解の結果としてCPK上昇から急性尿細管壊死に繋がります。また横紋筋融解に加え、腎臓での出血や毒素の直接の作用により腎不全に拍車がかかり、さらに高K血症を合併して心停止に至ることもあります。恐ろしいことにマムシ毒は腎臓の他にも多臓器に影響し、心筋壊死に至ることもあるようです2)
 その他、マムシ毒は血小板凝集作用もあり、あっという間に血小板低下を引き起こします。受傷後1時間で粘膜からの出血を認め、受傷後2時間で血小板が3000/mm3となってしまった例も報告されています5)

診断
 マムシ咬傷の診断は目撃があれば良いのですが、目撃がなければ難しくなります。多くは1cm程度の間隔で小さい傷が2つ付いています。ただし咬傷が2つあるとも限らないので要注意です。目撃がなく何かに刺されたなどと言う場合で、症状が乏しく咬み傷しかない時にはマムシに咬まれたのかどうなのか判断に難渋します。よく見なければわからない虫刺され程度の傷であればさらに困ります。よくよく病歴を聞いて、どこでどんな状況で咬まれたのかを把握し、マムシの生息地や活動時期と一致するのであれば積極的に考えておいてください。
 よく蛇毒で問題になる蛇としてハブとヤマカガシがいます。ハブの生息地は沖縄や奄美ですから、そちらでの蛇咬傷でなければハブではないと思います。ヤマカガシは確かに毒を持っているのですが、マムシとは頭部の形が異なり、かつ毒牙は奥歯のあたりにある(写真1参照)のでかなりガッツリと咬まれなければ蛇毒は回りません。この辺がマムシと見分けるポイントかと思います。あとヤマカガシの目は丸く、マムシの目は比較的縦に細いので、これも鑑別の参考になるかもしれません。
 もし蛇に咬まれたけどマムシと断定できないという時には時間をおいて経過を見ることが大事です。時間を置くと、腫脹をはじめとした様々な症状が出てくるかもしれません。腫脹してこなければマムシ以外に咬まれたか、マムシに咬まれたけど毒が入っていないかですから、ある程度安心できます。腫脹についてはGrade分類があります2)(表1)。腫脹の広がりを見るために患肢にしっかりマーキングをして、適時メジャーで周囲を測定することが求められます(写真2参考)。来院後すぐは10分おきくらいに測ってもいいんじゃないかと個人的には思います。時にコンパートメント症候群を呈することもあり、腫脹が強く、著しい疼痛や神経症状がある場合にはコンパートメント圧の測定も考慮してください。もちろん必要があれば減張切開も考慮しましょう。

(表1:マムシ咬傷のGrade分類)
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マムシ毒の治療
 マムシ毒の治療にはマムシ毒で免疫したウマの血清を精製処理して得た「マムシ抗毒素」が使用されます。即効性を期待して静注で、小児でも成人量を投与します(6000単位)。抗毒素は体内で遊離状態にあるマムシ毒を中和しますが、一旦組織に結合してしまうと中和しにくいとされます。このため、咬まれてから6時間以内の投与が有効とされます6)
 抗毒素は唯一の根本的な治療薬といっても過言ではないと思いますが、副作用がしばしば問題になります。もっとも恐ろしいのはアナフィラキシーショックで、薬物等のアレルギー歴や抗毒素血清使用歴がある場合は特に注意を払わねばなりません。また血清病を起こす可能性もあります。血清病はⅢ型アレルギー機序によって起こる組織障害で、皮疹や発熱、関節痛を主な症状とします。起こしやすいとされる投与後から10日間は注意しなくてはなりません。血清病の治療は対症療法的に抗ヒスタミン薬の投与や、ステロイド投与を行うことになります2)
 抗血清の他にはセファランチン®(ツヅラフジ科植物から抽出されたアルカロイド)も治療の選択肢に挙がります。実験室的に、また経験的にその効果が確認されているのみですが、抗毒素血清より副作用が少ないために好まれるようです。
 というわけで副作用も含め、これらのどちらを使うのか、どちらも使うのか、どちらも使わないのかということを考えなくてはなりません。抗毒素血清とセファランチン®の効果については234名の多施設観察研究があります7)。GradeⅢ以上の重症例では、セファランチン®単独投与群に比べて抗毒素血清単独使用群のほうが1週間以内の退院率が高かったようです。この傾向は両方投与した群とセファランチン®単独投与群で比較した時、より顕著になります。ただし、抗毒素血清単独使用群と、両方投与群を比較しても差はありません。またGradeⅡ以下では治療法の違いで1週間以内の退院率に変化はなく、セファランチン®単独投与群と薬剤非使用群ではどの重症度においても1週間以内の退院率に差はありません。あとアナフィラキシーの発生率は1.8%だったと言うことです。これを受けて、GradeⅢ以上になれば抗毒素血清を積極的に使用という方針が広まったわけです。ただし質の良いRCTが行われたわけではありませんし、アウトカムが1週間以内の退院率なので、死亡率の改善につながるか、皮膚の腫脹や腎不全を抑えられるかといったことなど、まだまだ不明なこともあります。未だに治療方針をどうするかといったことについては一定しません8)

まとめ:結局どうしましょうか
 抗毒素とセファランチン®に関しては明確なエビデンスがない領域ですので、確実な正解がないと言うのが正直なところです。都度リスクとベネフィットを天秤にかけながらやっていくしかないと思われます。例えば受傷後8時間程度経ってからGradeⅢになったらどうしようと言うことについては答えがありません。
 ただし、年間10名程度が死亡しているという事実もありますので8)、重症例は絶対に見逃してはならないと言うことは確実に言えます。マムシ咬傷を疑ったら、静脈ルート確保をして血液検査(血算、BUN、Cre、CPKなど)を行いつつ必ず経過観察をします。できれば入院経過観察が望ましいです。重症度に応じてセファランチン®やマムシ抗毒素血清の使用を検討し、投与するなら副作用対策を怠らないことが重要です。そして入院後、起こった変化(血小板減少、著明な四肢の腫脹、横紋筋融解、腎不全はじめとした臓器不全など)に対する治療を行います。
 今回の症例では、当初腫脹がなかったものの、数時間でGradeⅢまで進展してきました(写真2)。これを受けて抗マムシ血清の投与を行なっています。来院時にはCPK値は304U/Lでしたが、入院後25000U/L以上になってしまいました。しかし急性腎不全や重篤な血小板低下は合併することなく、その後は輸液のみで経過観察。第6病日にCPKがpeak outし、第13病日に退院しました。帰宅させていたらと思うと怖いですよね。

(写真1:毒蛇の牙の位置と形(文献2より引用))
a:マムシ、b:ハブ、c:ヤマカガシ
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(写真2:咬まれてから数日後の写真)
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Take Home Message
・マムシ咬傷は原則入院
・四肢の腫脹や血小板低下、横紋筋融解に注意して経過観察する
・マムシ抗毒素を投与するなら副作用対策を万全に

参考文献
1) Interagency Taxonomic Information System
(https://www.itis.gov/servlet/SingleRpt/SingleRpt?search_topic=TSN&search_value=634414#null)
2) Hifumi T, et al. Venomous snake bites: clinical diagnosis and treatment. J Intensive Care. 2015 Apr 1;3(1):16.
3) WHO, Guidelines for the Management of Snake-bites
(http://apps.searo.who.int/PDS_DOCS/B4508.pdf)
4) 行徳 貴志, 他. マムシ咬傷死亡例. 西日本皮膚科. 2002; 64(3): 318-322.
5) 藤田 基, 他. 著明な血小板減少を来したマムシ咬傷の1例. 日本救急医学会雑誌. 2005; 16: 126-30.
6) 日本中毒情報センター
7) Hifumi T, et al. Clinical efficacy of antivenom and cepharanthine for the treatment of Mamushi (Gloydius blomhoffii) bites in tertiary care centers in Japan. Jpn J Infect Dis. 2013;66(1):26-31.
8) 瀧 健治、他. 全国調査によるマムシ咬傷の検討.日臨救医誌(JJSEM). 2014; 17: 753-60