2019.11.19

EMA症例64:8月症例 87歳女性 主訴:下腹部痛、嘔吐

!Caution!
・今回の症例は深夜に研修医が対応した症例です。早朝の勤務当番だったあなたは、朝ERへ向かうと困っていた研修医から相談を受けました。

症例
87歳女性
主訴:下腹部痛、嘔吐
現病歴:
深夜1時のER。
高齢者施設入所者が2時間ほど前から下腹部痛を訴え、その後頻回の嘔吐が出現したため救急搬送となった。下痢はしていない。普段は軟便が出ているが本日は硬便であった。ご本人はいろいろな部位の疼痛を普段からよく訴える方であるとのこと。
既往歴:脳梗塞、胆嚢炎、慢性心不全
内服:バイアスピリン、メマンチン、ランソプラゾール、フロセミド、スピロノラクトン、エチゾラム、パンテチン、酸化マグネシウム、ビオフェルミン
アレルギー:なし
ADL:3年前に脳梗塞になって以来、会話は可能だが車いす生活

バイタルサイン:
GCS E3V3M5(普段とそれほど変わらない)
BP 148/82 mmHg, HR 92bpm, RR 20/min, SpO2 96%ra, BT 36.2℃

身体所見:
身長160.0cm 体重 39.1kg BMI 15.3
結膜:貧血なし 充血なし 黄疸なし
頸部:リンパ節触知なし 甲状腺腫大なし・圧痛なし
胸部:呼吸音清 左右差はないが弱い 収縮期雑音あり
腹部:下腹部に膨隆と圧痛あり・緊張している 反跳痛なし Ope scarなし
背部:CVA叩打痛なし
四肢:下腿浮腫軽度あり、手足に熱感あり
皮膚:皮疹なし

心電図:

58-01

腹部エコー:膀胱内に尿貯留著明

→初療医により導尿施行され多量の尿回収あり、その後下腹部痛は改善した

静脈血液ガス検査:
pH 7.496, pCO2 45.3 Torr, HCO3 34.2 mmol/L, BE 9.8 mmol/L, AGAP 11.6 mmol/L
血算・生化学:
WBC 19,200/μL, Hb 11.9 g/dL, Plt 18.1万/μL, TP 6.2 g/dL, Alb 3.3 g/dL, CRP 0.35 mg/dL, BUN 23.7 mg/dL, Cre 0.57 mg/dL, Na 147 mmol/L, K 2.9 mmol/L, Cl 101 mmol/L, T-Bil 0.0 mg/dL, ALP 288IU/L, γGTP 17 IU/L, AST 24 IU/L, ALT 18 IU/L, LDH 31 IU/L, AMY 52 IU/L, Glu 186mg/dL
尿検査:比重1.007, pH 7.0, 蛋白(-), 糖(-), ケトン(-), 潜血(1+), ウロビリノーゲン(±), ビリルビン(-), 亜硝酸塩(-), 尿白血球(3+)

腹部単純CT:

58-02

58-03

<ここからあなたが登場します>
 朝ERに行くと当直の研修医から当患者について相談を受けた。下腹部痛で夜間に搬送され尿閉と尿路感染症、宿便性イレウスの診断で朝までERで経過観察をしていたが、朝になって呼びかけたところ反応がなくなっていたこと、ER到着後より断続的に泥状便の排出あり、その後朝5時頃に血圧70台まで低下したが補液ですぐに90台に回復、SpO2も92%台と不良で酸素投与が必要となっていたことなど、様々なことが起きており原因が分からないとのことであった。

あなたが接触した時のバイタルサイン:
GCS E1V1M5
BP 73/32mmHg, HR 70bpm, RR 8/min, SpO2 96% 1L/min nasal, BT 36.2℃

動脈血液ガス検査:
pH 7.223, pCO2 88.1 Torr, pO2 105.0 Torr, HCO3 35.5 mmol/L, BE 4.8 mmol/L, Na 149 mmol/L, K 3.2 mmol/L, AGAP 16.2 mmol/L, Glu 116 mg/dL, Lac 4.29 mmol/L
ベッドサイドエコー:壁運動問題なし、EF55%はありそう、右室拡大なし、D-Shapeなし、心嚢液貯留なし、IVC18 mm・呼吸性変動大きい、腹水貯留なし

胸部レントゲン:浸潤影なし、肺うっ血所見なし、CPA sharp
頭部CT:明らかな出血を認めず
瞳孔:3.5mm同大 +/+
その他、身体診察上は特に所見を得られなかった

あなたは敗血症性ショックを疑い、血液培養2セット採取、尿培養提出、2本目のルートを太い針で確保し細胞外液負荷を行い、ノルアドレナリンの投与も開始したが、ショックを離脱できなかったため中心静脈ラインを確保し、状態の安定化を図った。また貯留していたCO2はハイフロー・ネーザル・カニューレを使用したところpCO2 51.6 Torrまで改善したが意識状態は変わらなかった。