2019.11.19

EMA症例63:7月症例解説

たくさんのご回答を寄せていただきありがとうございます。質問への回答を振り返りながら解説をしていきたいと思います。

Q1.最も可能性の高い診断名

回答:高マグネシウム血症、下部消化管穿孔、尿路感染症による敗血症、大動脈解離、異物誤飲→消化管穿孔、副腎クリーゼ、副腎不全、非虚血性腸管壊死、腸管気腫症、上腸間膜動脈閉塞症、肛門周囲膿瘍、S状結腸軸捻転

Q2.鑑別診断

Q1以外の回答:CD腸炎、薬剤中毒、髄膜炎、高Ca血症、迷走神経反射、糞便性イレウス、中毒性巨大結腸症、心筋炎、急性膵炎、非閉塞性腸管虚血、気腫性膀胱炎、Vit.B1欠乏症、低P血症、異所性ACTH産生腫瘍、神経原性ショック、循環血流減少性ショック、虚血性腸炎

Q3.どのような検査データを見たいか
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その他:造影CT、CK、LDH、Ca、FT4、アンモニア、試験開腹

Q4.回答者の属性

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 今回の症例は多くの方が鑑別に挙げられた通り、高マグネシウム血症の症例でした。Q1で最も可能性の高い鑑別疾患に高マグネシウム血症を挙げた人は25%でした。鑑別疾患は非常に多岐に渡っており病態の複雑さを物語っていると思います。Q3でマグネシウムの検査を見たいと思った人は全体の83.3%でしたから鑑別疾患には入っていたけど、他の疾患の可能性が高いと考えた人が多かったようです。属性別でマグネシウムの検査を見たいと思った人は初期研修医と救急科スタッフで100%!救急科後期研修医で88.9%でした。

 事態がある程度進行した状態で相談を受けたケースでしたので、時間軸に沿って<来院時>、<相談を受けた時>、<その後の経過>でのProblem listを書き起こしてみます。
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 時系列順のプロブレムリスト(左側)を、疑われる疾患名ごとにまとめたのが右側のプロブレムリストです。
 これらを更にコンパクトにまとめたのが下記のプロブレムリストです。

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 Problem listを列挙してまとめるだけで混乱しそうなほど、様々な状態が浮かんでいます。当初相談を受けた診察医は遷延するショックの原因として、まず何らかの感染症を疑い、qSOFA 2点(GCS<15、sBP<90mmHg)でSOFAスコア≧2点であったことから敗血症性ショック1)を念頭に診療を進めましたが、疑問が残されていました。

 なぜCO2ナルコーシスになってしまったのか。CO2ナルコーシスが原因で意識障害となっていたのであれば、CO2貯留が解除されれば意識障害が改善されるのではないか。なぜ意識障害は改善しないのか。尿閉状態で細菌尿(尿路感染症疑い)となるのは理解できるが、そもそもなぜ尿閉や宿便性イレウス(当直医からの情報)となってしまったのか。何らかの感染症による敗血症性ショックだとしてもスッキリしない疑問が残されています。

 ABCDの中でABの問題がクリアできた状態ですので、遷延するショック(C)と遷延する意識障害(D)の原因を突き止めなければなりません。一般的なショックの鑑別をSHOCKで挙げると、表1のようになります。

表1 ショックの鑑別SHOCK
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 これまでの経過および諸検査から鑑別に残りそうなのは表の中で敗血症性ショックくらいです。それ以外の原因としては副腎不全などの内分泌系や薬剤性ショックを考えます。副腎不全を疑うのは低Na血症、原因不明の低血糖などですが、いずれもありません。薬剤に目を向けると難治性ショックの原因として主要なCaブロッカーやβブロッカーの過量摂取2)も考慮されましたが、該当する内服歴は確認できませんでした。一般に高齢者で考慮すべき過量内服薬剤3)は表2の通りです。

表2 高齢者が過量内服する薬剤
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 心電図をよくよく見てみるとPQ時間が延長しておりI度房室ブロックになっています。さまざまなプロブレムリストを全て1つの原因で包含しようとすると思い当たるのは、高マグネシウム血症でした。血中濃度を院内で測定できたため提出すると、丁度CVを挿入しているときに検査部から連絡がありました。“先生!マグネシウムの値が11.4mg/dLでパニック値です!”。大量輸液後の値でしたので、初期対応時の検体で再検査してみると15.8mg/dLとなっていました。グルコン酸カルシウムを投与し、すぐに腎臓内科に相談。緊急透析となり、3時間の透析でマグネシウム値は3.6mg/dLまで減少。透析中から意識状態およびバイタルサインも回復していきました。

高マグネシウム血症

 マグネシウム製剤は重症喘息や子癇発作、Torsades de pointesのような不整脈の時にERでは使用される薬剤ですが、一般的には緩下剤として使用される酸化マグネシウムや硫酸マグネシウムなどが有名でしょうか。マグネシウム製剤は1日あたり5,000mgを超えて投与されると高マグネシウム血症によるマグネシウム中毒を起こすとされています4)が、一般的な緩下剤としての使用量(2,000mg/日まで)は体内に吸収されにくいことから安全域として認識されています。しかし、一方でマグネシウムが腎排泄であることから、腎機能の悪い高齢者で高マグネシウムによる死亡例が報告され近年注目されています5),6)。腎機能が悪くなくとも腸管壊死などにより本来吸収されにくいはずのマグネシウム製剤が吸収され高マグネシウムが生じるとも報告されています6),7)。いずれにせよ安全と思われている薬剤が実は危険な可能性がある、というのはER医として知っておかねばならない知識といえます(表3にその他の原因を示します)。

表3 高マグネシウム血症の原因
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高マグネシウム血症の症状

 高マグネシウム血症の症状の特徴は骨格筋・呼吸・心血管のあらゆる機能が低下するところにあります。そのため様々な症状が出現します(表4)。

表4 マグネシウム血中濃度と臨床症状
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 表3の中では血中濃度と症状が相関しているように書かれていますが、実際に血中濃度を測定するタイミングは症例によって異なっています。症例報告によると血中濃度が測定されたのは、ほとんどが入院後数時間後である一方、入院後2日経過してようやく測定された例もあります8)。症例が稀であるために、そもそも高マグネシウム血症の症状であると認識できなかったり、患者が起こす症状が多岐に渡るため、それぞれの症状に引きずられて治療方針が右往左往する認知バイアスがその原因と思われます。そのため測定値と症状が必ずしもマッチしないことに注意が必要です。

高マグネシウム血症の治療

 高マグネシウムの治療の最初はグルコン酸カルシウムの投与です。グルコン酸カルシウムを投与することによって心臓の膜電位を安定化させることができます。心停止の原因ともなり得る高マグネシウム血症の治療では、まず第一に選択すべき薬剤となります。軽症の高マグネシウム血症では利尿薬によって腎排泄を促す方法があります。呼吸状態が悪い場合には呼吸状態に応じた呼吸補助が必要となります。また平滑筋の弛緩により末梢血管拡張を来しDistributive shockとなりますから、十分な補液が必要となります。場合によっては循環作動薬も必要になるでしょう。これらの支持療法には現在のところエビデンスはありません。そうやって支持両方を行いつつ、透析を行える状態にマネジメントしていきます。マグネシウム除去について透析そのものが低マグネシウム血症の原因となるほど、有効に働きます9)。透析液には低マグネシウム血症を防ぐ目的でマグネシウムが含有されていますから、マグネシウム濃度を0にして透析を行います。しかし、透析に対する認識には注意が必要で、透析患者でも日常でサプリメントなどを使用していて高マグネシウム血症となった症例もあり10)、透析患者だから高マグネシウム血症はないと否定することはできません。

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本症例を振り返って

 当患者は腎機能もそれほど悪くなく(体表面積補正eGFR 57.53 mL/min)、マグネシウム製剤の量も常用量でした。推定20年以上のマグネシウム製剤使用歴があり、長期間投与されていた形跡があること、慢性的な便秘症で麻痺性イレウスとなり腸管内に吸収されずに残っていたマグネシウム製剤が徐々に吸収さるものの、持続的にマグネシウム製剤が投与されていたために、いつの間にか高マグネシウム血症となっていたことが推測されました。

 ERで尿閉をきたしていますが、尿閉と高マグネシウム血症の文献データはわずかで11)作用機序などは不明ですが、平滑筋弛緩による膀胱収縮能の低下と思われます。尿路感染症を疑われましたが、細菌尿であっただけと考えました。遷延するショックや意識障害、CO2ナルコーシスは高マグネシウム血症の目立った症状です。手足の熱感は、紅潮を伴っていたことから末梢血管拡張によるものと考えられ、ほぼ全ての臨床徴候が高マグネシウム血症で説明をつけることができました。

 診断をつけることができたのは意識障害がまるで眠っているように見え、呼吸は徐呼吸でしたが穏やかであったために、睡眠剤などの薬剤性の影響を当初から考えていたことでした。そのため内服のマグネシウム製剤に気付いたところから血中濃度測定に至ったわけです。今回は途中からコンサルトを受けるという、時間経過がすでにあったため情報を整理することができました。原因不明の疾患に直面したとき、時間を味方にすることの強みを見せられた症例といえます。

Take Home Message

高マグネシウム血症は腎機能低下症例とは限らない
原因不明の意識障害・ショックの鑑別に高マグネシウム血症も考慮する
初期対応はグルコン酸カルシウム、補液、軽症なら利尿薬
原因不明の疾患に出会ったときは時間の変化を味方につけて診療を進める

参考文献
1) Singer M, Deutschman CS, Seymour CW, Shankar-Hari M, Annane D, Bauer M, Bellomo R, Bernard GR, Chiche JD, Coopersmith CM, Hotchkiss RS, Levy MM, Marshall JC, Martin GS, Opal SM, Rubenfeld GD, van der Poll T, Vincent JL, Angus DC. The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3). JAMA. 2016 Feb 23;315(8):801-10.

2) DeWitt CR, Waksman JC. Pharmacology, pathophysiology and management of calcium channel blocker and beta-blocker toxicity. Toxicol Rev. 2004;23(4):223-38.

3) Welker KL, Mycyk MB. Pharmacology in the Geriatric Patient. Emerg Med Clin North Am. 2016 Aug;34(3):469-81.

4) Kutsal E, Aydemir C, Eldes N, Demirel F, Polat R, Taspnar O, Kulah E. Severe hypermagnesemia as a result of excessive cathartic ingestion in a child without renal failure. Pediatr Emerg Care. 2007 Aug;23(8):570-2.

5) Onishi S, Yoshino S. Cathartic-induced fatal hypermagnesemia in the elderly. Intern Med. 2006;45(4):207-10.

6) Weisinger JR, Bellorín-Font E. Magnesium and phosphorus. Lancet. 1998 Aug 1;352(9125):391-6.

7) Van Hook JW. Endocrine crises. Hypermagnesemia. Crit Care Clin. 1991 Jan;7(1):215-23.

8) Fung MC, Weintraub M, Bowen DL. Hypermagnesemia. Elderly over-the-counter drug users at risk. Arch Fam Med. 1995 Aug;4(8):718-23.

9) Lacson E Jr, Wang W, Ma L, Passlick-Deetjen J. Serum Magnesium and Mortality in Hemodialysis Patients in the United States: A Cohort Study. Am J Kidney Dis. 2015 Dec;66(6):1056-66.

10) Wyskida K, Witkowicz J, Chudek J, Więcek A. Daily magnesium intake and hypermagnesemia in hemodialysis patients with chronic kidney disease. J Ren Nutr. 2012 Jan;22(1):19-26.

11) Walsh SB, Zdebik AA, Unwin RJ. Magnesium: The Disregarded Cation. Mayo Clin Proc. 2015 Aug;90(8):993-5.