2019.11.19

EMA症例62:6月症例 解説

学習目標
・熱中症の基本的な対応ができる
・熱中症の除外疾患の検索をきちんとできる
・熱中症の合併症を知る

 みなさま、そろそろ夏到来ということで、今回は熱中症を扱ってみました。実際の診療の時も、救急隊からの事前情報で最初から「熱中症疑い」ということで搬送されてくる場合も多いかと思いますので、今回はあえて病名を出してからアンケートをとるという形を取ってみました。臨場感でましたかね?というわけで、そんな熱中症なのですが、改めて知識の整理をしていけたらなと思っております。まずはアンケート結果です。

質問① どこで体温測定をしますか?
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 今回皆様から頂いたアンケート結果では、大多数の方から直腸温を測定すると回答いただきました。膀胱温や食道温も用いられているようですが、皮膚や腋窩、鼓膜、口腔といった末梢の体温測定は避けられる傾向にあります。

質問② 主にどのような冷却方法をとりますか?
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 最も多かった意見は、常温水かぬるま湯を噴霧して扇風機で風をあてるというものでした。次点で冷えた細胞外液の点滴、そして冷水の噴霧と扇風機が続きます。アルコール噴霧は少数派でした。その他の中では、低体温療法で使用するようなアークティック・サン®などの水冷式ゲルパッドやブランケットを用いるという意見が挙げられていました。

質問③ 主な冷却法に加えて行う冷却法があれば記載してください

 前述の冷却法の他、氷嚢で腋窩・頚部・鼠径部を冷やす、冷房で室温を下げる、冷水で膀胱/胃洗浄、常温の輸液、PCPS、CHDF・・・などなど、様々な意見を上げていただきました。あの手この手で冷却しようと試行錯誤されているのが伺えます。後ほど冷却法と効果についてまとめていきます。

質問④ 目標とする冷却温度を教えてください
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 いざ体温を下げるぞ!と思っても、意外と何度まで下げるか?と言われたら悩んだ方もいらっしゃったのではないでしょうか?この質問は38度という回答が多かったものの、結構回答が割れていました。

質問⑤ 熱中症以外に想定すべき疾患を記載してください

 悪性症候群、セロトニン症候群、甲状腺クリーゼ、悪性高熱、横紋筋融解症、低血糖、脱水、中毒(一酸化炭素、アンフェタミン)、薬物離脱、心房粗動、くも膜下出血、脳出血、心筋梗塞、敗血症、破傷風、細菌性髄膜炎、TTP、他のショックを起こす疾患群、大動脈解離・・・

 特に横紋筋融解、悪性症候群を多くの方から挙げていただきましたが、様々な疾患が集まりました。どんな時でも致死的疾患を疑うというのは救急医としてのプライドだと思いますが、限られた時間の中で可能性の高いものを順に除外していくことが重要です。後ほどまとめましょう。

質問⑥ 今後起こりうる合併症を記載してください

横紋筋融解症、DIC、心停止、急性腎不全、多臓器不全、細菌感染、電解質異常、致死性不整脈、高乳酸血症、易感染性、急性肝不全、ミオグロビン尿、ARDS、中枢神経障害、心筋障害、脳浮腫・・・

 こちらも様々な病態を挙げていただきました。横紋筋融解症を特に多くの方に挙げていただいております。こちらも後ほど系統的にまとめていきたいと思います。
 今回様々なご意見をいただきましたように、それぞれの施設で治療法に差があり、国内のERでも一定していないというのが現状かもしれません。今一度、熱中症を基本から見直してみましょう。

熱中症とは
 日本救急学会が出している熱中症ガイドラインによると、熱中症とは「暑熱環境における身体適応の障害によって起こる状態の総称」ということになっています1)。大きく、古典的熱中症(非労作性)労作性の熱中症に分類されますが、両方とも気温の上昇に対して、体の熱処理能力で適切に対応できなかった場合に発症します。過去には重症度分類も兼ねて熱失神(heat syncope)、熱痙攣(heat cramps)、熱疲労(heat exhaustion)、熱射病(heat stroke)と呼ばれ、それぞれの病態で認識されることも多かったですが、近年ではこれらを全て包括して熱中症と呼んでいるわけです。本邦では2013年に407,948人が熱中症と診断され、入院患者数は35,571人(全体の8.7%)、死亡者は550人(全体の0.13%)であったと報告されています。当然夏に多い疾患で、2016年6月においても、6月6日から12日までの1週間ですでに907名、その翌週には1000名以上が救急搬送されており、そろそろ旬を迎えてくるころというわけです2)

体温の調節
 通常人間は視床下部を体温調節中枢として、体温の基準値(=セットポイント)を定めてその通りに維持する機構を有しています。①熱産生、②維持、③放散により体温を調節しますが(表1)、このバランスが崩れて熱がこもってしまうと熱中症となります。体温調整に影響を与える因子は多数存在しますが、例えば運動により熱産生は向上しますし、気温や湿度、風の強さや日射しの強さ、衣服により熱放散の効率は変動します。また血液量や心機能が担保されているかということは、体熱を末梢まで運んで放散につなげられるかどうかということに関わるので、こちらも大きな影響を持ちます。

(表1 体温の調節)
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熱中症の診断
 熱中症は“疾患”というよりも“病態”にちかいものですから、明確な診断基準というものはありませんし、何かの検査をしたから診断できるというものでもありません。日本救急医学会のガイドライン上も
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 と記載されており、基本的には除外診断であるということでコンセンサスが取れていると思います。救急外来では体温管理をしつつ、高体温の鑑別疾患(表2)を参考に原因検索していくことになります3)。意識障害があれば血液培養採取をはじめとした感染症の検索を行い、全身状態が許すなら頭部CTを施行するのも診断に有用です。もちろん髄膜炎が疑われるならば、髄液検査を行う必要が出てきます。高体温に合わせて持続する高血圧と頻脈があれば内分泌の検査を行うことも重要です。

(表2 高体温の鑑別疾患)
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熱中症の対応
 具体的な対応の手順ですが、まずは脱衣させて気道と呼吸が安定しているかどうか、循環が安定しているかどうかを確認します。不安定であれば相応の対応をしなくてはなりません。そして、きちんと体温を測定する必要がありますので、必ず核心温(中枢温)を測定しましょう。皮膚や口腔内といった通常測定される外殻温は、冷却の効果を受けやすく正確な体温測定ができません4)。アンケート結果の通り、直腸温を測定されることが一般的ですが、食道や膀胱温も活用できます(体温の下げ方については後述します)。こうしてABCと体温の管理をしつつ身体診察や検査をしてくわけですが、熱中症に特徴的な所見とそうで無い所見を鑑別しながら系統的に行うと分かりやすいと思います。適切な全身管理により生理学的に体を落ち着けつつ、しっかり熱中症以外の疾患鑑別を行えるかが救急医の腕の見せ所ですね。

(表3 特徴的な身体所見4)
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熱中症の治療
 通常労作性の熱中症は適切な冷却と輸液等を行えば致死的経過をたどることは少ないとされますが、古典的熱中症では多臓器不全、循環系の破綻、中枢神経系への障害から致死的経過をたどる場合も少なくありません。2003年にフランスを熱波が襲った際には、熱中症でICU入院した人の死亡率は62.6%と報告されています5)。重症熱中症は要注意なのです。どんなものが重症かということで、日本救急医学会ガイドラインの熱中症重症度分類を挙げておきます1)

(表4 熱中症の重症度分類)
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 中等症までで、ERでの介入により症状が改善すれば帰宅可能かと考えますが、症状が継続する場合や重症熱中症では入院を考えましょう。特に重症の場合はいち早く体温を下げつつ、経時的な観察と適切な全身管理を行うことが重要になります。今回は意識障害があり重症熱中症と考えられる患者さんですので、重症熱中症の対応についてまとめていきたいと思います。

体温管理 薬剤治療は?
 残念ながら熱中症の際に体温をコントロールできる薬剤はありません。体温のセットポイントによる調節が破綻して熱中症になってしまっているので、セットポイントを変化させるような解熱薬は当然効果が無いのです。そういうわけで熱中症では物理的に体温を下げる必要があります。

体温管理 水風呂に漬ける
 冷却方法は様々ありますが、最も効果的なのは熱湯風呂の後の芸人が如く氷水に浸してしまうことです。かつてはシバリングを誘発するため冷水は避ける方向でしたが、最近では8℃以上の水だと冷却速度は0.04〜0.26℃/minで、氷水に漬けると0.12〜0.35℃/minで冷却できるという報告もあるようです6)。水風呂に入れてしまうというのは見た目にも確実そうな冷却法ですが、モニタリングしにくくなってしまうという弱点は考えておかねばなりませんし、設備と労力も要ります。またこの方法を行う場合は低体温に気をつけて下さい。体温が下がりやすいため、10℃以下の冷水に入れる方法では低体温を防ぐよう直腸温が38.6度程度になったら治療を中断するように推奨されています6)

体温管理 霧吹きと扇風機
 その他によく用いられる方法としては、水を体表面に噴霧して、そこへ送風することで気化させるというものがあります。15℃の水と、45℃の温風を0.5m/secで流すという方法では冷却速度が0.05〜0.31℃/min程度とのことですが、結果が不安定なのと、まったく同じ条件で行おうと思うと設備投資にお金を要するのが難しいところです。ちなみに単純に裸体にガーゼをあてて20℃の水を吹きかけて扇風機で送風という方法では0.087℃/minということです7)。冷水に漬けるより効率は劣るかもしれませんが、モニタリングが簡便です。今回多くの方がこの方法で体温を下げると回答してくれました。どの程度の温度の水を噴霧するか、どんな方法で送風するかというのは、報告も様々で比較検討も難しく答えが無いところかもしれませんが、一般に冷水やアルコールはシバリングを誘発して冷却効果が下がるのではないかということで避けられる傾向にあります。当院では水道水を噴霧して扇風機で風を当てています。

体温管理 体外から冷やす
 その他、体表面から腋窩や大腿動脈を氷嚢などで冷やす方法は簡便で行いやすい治療法ですが、冷却効果が少ないため補助的です。近年、クーリングマットやゲルパッドを使用して体表面の大部分を覆って冷却する機械も使用されています。効果的であるという報告もありますので、デバイスがあれば検討しても良いかもしれません8)

体温管理 内部から冷やす
 外部から冷却する方法の他、体の内部から冷却する方法として、経鼻胃管や膀胱カテーテル、直腸カテーテルから冷水を注入して冷却する方法もありますが、エビエンスは乏しい領域です。水中毒にも注意しなくてはなりません4)。それから、もしかすると集中治療に力を入れている施設では体外循環を用いて体温コントロールするところもあるかもしれません。当院でも経験がありますが、コントロールは非常にやりやすいです。ただし侵襲が大きいのが難点です。症例と環境を選ぶ方法ですね。それぞれの治療の長所と短所を表5にまとめました。

(表5 治療の長所と短所)
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体温管理 何度まで下げる?
 このように様々な方法がありますが、体温を何度まで下げるかというのは議論のあるところです。近年日本救急医学会が行ったHeatstroke STUDYでは、重症熱中症において後遺症を残した群とそうで無い群を比較し、体温を38度台まで冷却するのにかかった時間が後遺症群で有意に長かったとされています(108.3±93.5分 vs 67.2±85.0分)1)。なるべく早く核心温38度台というのは一つの目安になるかと思います。またスポーツや軍隊関連の文献では、熱中症と認知してから30分以内に核心温度を40度以下にできれば死亡率を0まで下げられるという報告もあります6)。プレホスピタルでいち早く体温を下げる努力も必要かもしれません。高温環境での神経系はじめとした臓器へのダメージを考えれば、できる限り急いで冷却するに越したことは無いと考えられます。

合併症 横紋筋融解と腎不全
 熱中症では様々な臓器障害を起こしますが、脱水に伴う循環不全と筋組織の破壊から横紋筋融解を起こすことが多いです。CPKの上昇は労作性の熱中症でより顕著になります。尿細管がつまって腎不全となることは避けねばなりませんから、血管内volumeはなるべく適切に保ちたいところです。どのぐらいの量の輸液が適切かということについて調査した研究は無いようですが、一般に1000-2000mLの細胞外液が必要になります。特にCPK値が10000U/L程度まで上昇しているときには急性腎不全へ進展する可能性を考慮してしっかり輸液すべきであるとされており、さらに大量の輸液を要するかもしれません。尿量をモニタリングしつつ、2mL/kg/hの尿量を確保できるように輸液し、24時間から72時間程度の経過観察で腎機能の経時的評価とCPKのピークアウトを確認します4)。ちなみに岸和田名物「だんじり祭」ではCPKが数万という方が大勢いらっしゃいますが、やはり搬送直後から積極的な細胞外液の輸液で対応し、これまで重篤な腎障害を残した方はいないようです。ただし、とにかく大量に入れれば良いというわけではありませんので、過剰輸液による肺水腫や鬱血性心不全には細心の注意を払ってください。尿量の評価と並行して経時的な観察が必要です。
 輸液の温度についてですが、冷水を輸液するとシバリングを誘発するということで一般的に推奨されていませんが、これも現在のところ確定的なエビデンスはありません。また輸液の際には電解質にも注意を払う必要がありますが、例えばNaに関して言えば高Naになることも低Naになることもあり、電解質もその都度評価して対応していかなくてはなりません。高CPKや電解質異常を認める場合には入院経過観察を考えましょう

合併症 肝不全と循環障害
 臓器傷害では腎不全の他に、肝不全や心血管系障害にも注意を払わねばなりません。肝傷害は熱や循環不全による影響と考えられています。多くの場合改善しますが、肝移植になってしまう例もあるようです1,4)救急外来では肝胆道系酵素を測定しておき、これらが上昇しているときには経時的評価を必ず行いましょう。心血管系の合併症では徐脈、低血圧、不整脈をはじめとした様々な症状を呈する可能性があります。心筋障害の評価のために、12誘導心電図や心筋逸脱酵素の測定も推奨されます4)。肝不全や心血管系障害があるときにはやはり入院経過観察が必要と考えられます。

合併症 DIC
 各臓器の障害に加えて、熱中症では血管内皮細胞の障害からDICに陥り多臓器不全へとつながることもあります。血液検査で凝固系の測定をしておくことは管理上重要な点であるとは思いますが、DICを合併していたとしても、現時点で効果的な治療を推奨する確固たるエビデンスはありません1)。DICにより起こる諸問題については対症療法を行うしかないというのが現状であると考えます。

今回の症例について
 今回の症例は、来院後にまず膀胱温の測定をしたところ42℃ということでした。気道確保のために気管挿管を行い、なんとかしてすぐに体温を38℃台までは下げようと思うのですが、当院ERには氷水風呂がありません。輸液を行いつつ全裸にして霧吹きで水道水を振りかけ扇風機で風を送りました。20分後も体温は依然42℃で、さらにNGチューブを挿入して冷水で胃洗浄を行いました。さらに10分後に体温は41℃台になりますが、かなりの高体温が遷延しており、この時点で体外循環を導入しました。その後も体内外から冷却を行い、さらに20分経過した頃ようやく体温は38℃台となりました。血液検査では甲状腺ホルモンに異常がなく、頭部CTで明らかな異常はありませんでした。意識は改善傾向で、明らかな神経巣症状がないことから腰椎穿刺は行っておりません。循環動態は安定していたため体外循環はOFFにして、その後は水冷式パッドで体温管理を行いつつ集中管理を継続しました。CPK値は入院翌日で1183U/Lで、入院3日目の2159U/LをPeakとしてその後は改善。その他、腎不全や肝不全、心筋障害、DICといった合併症を起こすことなく経過しましたが、体外循環のためのカテーテル挿入部に感染を起こしてしまいました。これの治療のために入院期間が長引き、入院27日目に独歩退院されました。
 熱中症治療は未だ決まった答えが無い状況ですが、確実性と侵襲性を吟味しながら都度対応し、みんなで力を合わせて今年の夏の熱中症死亡者数を減らしましょう!

まとめのQ&A
・熱中症の診断は?
病歴から疑い除外診断を行う!
・ERでは何をするべきか?
①冷却を行う:種々の方法を用い、できるだけ迅速に38℃台目指して!
②輸液を行う:輸液量は全身状態と相談。入れすぎ注意!
③検査を行う:鑑別疾患と合併症を頭におく!
④適切な引き継ぎを行う:重症では集中治療も要します!
・熱中症帰していいですか?
症状が続く場合や合併症が疑われる場合は入院を!

参考文献
1)日本救急医学会 熱中症診療ガイドライン2015
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/heatstroke2015.pdf
2)総務省消防庁 熱中症状況
http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/fieldList9_2.html
3)Atha WF. Heat-related illness. Emerg Med Clin North Am. 2013 Nov;31(4):1097-108.
4)Santelli J, et al. Heat illness in the emergency department: keeping your cool. Emerg Med Pract. 2014 Aug;16(8):1-21.
5)Misset B, et al. Mortality of patients with heatstroke admitted to intensive care units during the 2003 heat wave in France: a national multiple-center risk-factor study. Crit Care Med. 2006 Apr;34(4):1087-92.
6)Casa DJ, et al. Exertional heat stroke: new concepts regarding cause and care. Curr Sports Med Rep. 2012 May-Jun;11(3):115-23.
7)Hadad E, et al. Heat stroke : a review of cooling methods. Sports Med. 2004;34(8):501-11.
8)Lee EJ, et al. Successful treatment of severe heat stroke with selective therapeutic hypothermia using an automated surface cooling device. Resuscitation. 2013 Jun;84(6):e77-8.