2019.11.19

EMA症例59:3月症例解説

みなさま
数多くのご回答をありがとうございました。
多くの方が「閉塞性イレウスではないか」「外科医に手術をお願いする」と回答してくださいました。

53gazou1

ズバリ正解の病名を答えてくださった先生も数名おりさすがのレベルの高さですね!
動画にしてしまったので一枚ずつの画像をコマ送りで見にくかったようで申し訳ございません。

今回の症例は画像の読影が主なテーマなので画像の解説から行いたいと思います。
一見して拡張した腸管が目立ちます。通常小腸は2.5cm以上で拡張していると考えるため小腸は拡張していると言えるでしょう。そこから何らかの小腸閉塞であることがわかった先生方は多かったのではないでしょうか。大腸の拡張が乏しく、限局性の腸管拡張を認めるような時は、麻痺性イレウスではなくて機械的な小腸閉塞を疑いたくなります。
今回はそこから一歩進んで画像を読んでみましょう。小腸閉塞をきたした患者ではclosed loopを呈していれば手術が必要になる可能性があり、保存療法では管理が困難です。cloosed loopは一般に、腸管の離れた2点が1カ所で絞めつけられ、一部の腸管が閉鎖腔になる現象をさします。このようになると内腔の圧力の逃げ道がなくなり、数時間で腸管壊死に陥ることもあります。そのため拡張した腸管を追い、closed loopを呈していないかの確認をしなくてはなりません。今回も緊急手術が必要ではないかと言う視点で腸管を追っていくと、一方が盲端で終わっていることに気づきます。(矢印)。

53gazou2

それに加えて既往歴の胃がん術後に注目すると、、

そう、今回の診断は輸入脚症候群でした

【輸入脚症候群】
輸入脚症候群は胃切除後の患者の1%程度に発症すると言われる比較的まれな疾患です。
幽門側胃切除でBillroth II法(ブラウン吻合の有無は問わない)か胃全摘でRoux-Y法で再建された患者に生じるもので、幽門側胃切除後でもBillroth I法での再建では生じません
吻合部の狭窄や腸間膜の欠損部に輸入脚のループが入り込んで絞扼をきたすことで発症するとされています。
以下、急性の輸入脚症候群について解説します。(慢性的な通過障害も輸入脚症候群として扱われますが今回は省略します)
症状としては
強い腹痛を呈しますが、食物の通り道とは関係のない部位の閉塞であるため、通常の腸閉塞と異なり嘔吐をあまり認めません。また、同様の理由から排便排ガスもなくなったりすることが少ないのが特徴です。
一方で、拡張した輸入脚の内圧が上昇すると胆道からの胆汁排泄や膵液の排泄が阻害されるため、膵炎や胆管炎などを合併したとする報告が散見されます。
輸入脚症候群はれっきとしたclosed loop obstructionであるため緊急手術を要します。頻度がまれで症状が腹痛のみであることが多いことからか診断の遅れから死亡率が高いことが知られており、適切な診断が求められます。
特に前述した膵炎や胆管炎などの症状が前面に出た場合はそちらの内科的治療が優先され手術が遅れる原因となるため注意が必要です。

本症例では緊急手術となり、腸間膜の欠損部に輸入脚が入り込んでいることが確認されたため閉塞の解除が行われ腸管の温存ができました。

今回のポイントは
・closed loop obstructionであることが画像から判断できる
・胃切除後の患者が腸閉塞をきたした場合は輸入脚症候群を想起する(そのためには術式の把握が重要)
・輸入脚症候群はclosed loop obstructionなので緊急手術の対象となる
です

今後も教育班のコンテンツをお楽しみに!

【参考文献】
Sabiston Textbook of Surgery, Nineteenth edition; Chapter 49 stomach
JSLS. 2006 Apr-Jun;10(2):270-4
Ann Surg. 1967 Feb;165(2):323-4
Cir Esp. 2016 Feb;94(2):106-108