2019.11.19

EMA症例57:1月症例解説

それでは解説に移ります。
今回の患者さんは尿路結石として鎮痛剤が処方されるも改善しない左わき腹の痛みを主訴とした40歳代の男性でした。

アンケートの結果をお示しします。
98名の方が回答を寄せてくださいました、どうもありがとうございました。

・質問1:現段階で最も気にかかる疾患について

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複数あげてくださった方は最初の症例を集計しています。多くの人が腎梗塞を挙げてくださいました。尿管結石と記載された方にも「r/o腎梗塞」と書かれた方もいました。

・質問2&3:1つだけ検査を追加するとしたら?

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多くの方が腹部骨盤造影CTと回答されていました。採血は心筋梗塞や血管疾患を疑った方が選択をされていました。

では患者さんの経過をお示しします。
再度受診したこの患者さんは、持続する腹痛と再発した血尿の原因精査のため腹部造影CTを撮影されました(CT供覧)

画像1)
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画像1では左腎臓に造影不染領域があり被膜に沿って帯状に造影されるcortical rim sign(後述)を認めており、梗塞をきたしていることがわかります。

画像2)
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左腎動脈本幹には非閉塞性の塞栓があり、画像2では左腎動脈から後方に伸びる枝に閉塞性の塞栓を認めています。

以上より左腎梗塞と診断され入院となりヘパリン投与が開始されました。原因検索として心電図検査(結果:洞調律)、経胸壁心臓超音波検査(結果:血栓・シャントを認めず)、凝固機能異常をきたす疾患の有無が調べられましたが原因は特定されませんでした。外科治療は不要と判断され、ワーファリン内服に切り替わった後に退院となっています。

<腎梗塞とは>
腎梗塞とは腎動脈本幹またはその分枝が塞栓や血栓により閉塞し、その末梢の循環障害が起こり腎虚血に陥った状態です。
リスクファクターとしては心房細動、虚血性心疾患、僧房弁疾患、血栓塞栓症の既往、心筋症などがあげられます[1]。特徴的な症状に乏しいため、1度で診断がつく患者は50%未満とも言われています。

<腎梗塞の症状>
94人の腎梗塞患者を調べた調査で患者に多く見られた症状・検査結果を表に示します[2]

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                                        (参考文献[2]より)

側腹部痛で受診し尿検査をしたら血尿あり、となると尿路結石では?と思いがちですが、発熱や血圧上昇がある場合は腎梗塞の可能性を考慮する必要があります。血液検査では、LDHが上昇しているにもかかわらずAST、ALPがほとんど上昇していない場合は腎梗塞の可能性を強く示唆するという報告もあります(感度・特異度不明)[3]

<腎梗塞の診断>
尿路結石を疑う患者さんでは単純CTが一般的に用いられますが、腎梗塞の診断には有用ではありません。2004年に実施された研究では腎梗塞の診断の感度は腎動脈造影100%、ラジオアイソトープ97%、造影CT 80.8%、超音波検査 10.7%でした[4]。CTの解像度が上がっている現在では侵襲度・客観性を加味すると造影CTが第一選択となります。側腹部痛や血尿があり尿路結石を疑って超音波検査や単純CTを実施しても尿路結石を疑う所見がない場合、「所見がないけど尿路結石だろう」と結論付けずに腎梗塞も鑑別に入れて造影CT実施を考慮します。

造影CTでは、終末動脈の血流供給域を反映する楔状の不染域所見が重要です。また腎梗塞の50%にcortical rim signという、側副路からの血液供給により皮質が被膜に沿って帯状に造影される所見が梗塞発症後数日以降に認められます。腎梗塞と同様に腎実質の造影不染域所見を有する急性腎盂腎炎や急性細菌性腎炎では、このcortical rim signを欠くため鑑別に有用な所見です。
超音波検査では、発症初期に腎臓の腫大や濃度変化は見られないためBモード像のみでは診断が非常に困難です。カラードプラー(特にパワー表示)を用いると、梗塞区域に一致した楔状のカラー欠損が描出され診断に有用です。

<診断後の対処>
入院の上、ヘパリン静脈注射による治療を開始します。外傷性以外の腎梗塞で手術が必要となることはほとんどありません。
予後は約6割の患者で正常腎機能を維持している一方、基礎疾患を有している患者が多いこともあり、診断後1年間の死亡率は14.3%という報告があります[1]

<Take Home Message>
・血尿&(側)腹部痛、でも尿路結石がない!場合は腎梗塞も忘れずに!
・発熱、血圧上昇の有無や採血でのLDH上昇がないか確認を。
・確定診断は造影CTで!

<参考文献>
1 Kansal S, Feldman M, Cooksey S, et al. Renal artery embolism: a case report and review. J Gen Intern Med 2008;23:644–7.
2 Bourgault M, Grimbert P, Verret C, et al. Acute renal infarction: a case series. Clin J Am Soc Nephrol 2013;8:392–8.
3 Winzelberg GG, Hull JD, Agar JW, et al. Elevation of serum lactate dehydrogenase levels in renal infarction. JAMA 1979;242:268–9.
4 Hazanov N, Somin M, Attali M, et al. Acute renal embolism. Forty-four cases of renal infarction in patients with atrial fibrillation. Medicine (Baltimore) 2004;83:292–9.