2019.04.24

EMA症例95:3月症例解説

今月は100名近い方々から回答をいただきました。ありがとうございます。学生や看護師など、幅広い分野の方々からの意見を賜りました。

●今回の症例は

 それでは症例の解説に移ります。今回の患者さんは脳梗塞です。「MRIの拡散強調画像(MRI-DWI)で変化がなかったのに・・」と思う人もいるかもしれませんよね。実はMRI-DWIは急性期脳梗塞の検出にある程度有用かもしれませんが、偽陰性率は発症3時間以内の場合26%、12時間以内でも19%という報告もあり1)、何もなかったからと言って脳梗塞は否定できませんので注意が必要です。というか、MRI-DWIでの変化は脳細胞の不可逆な変化を示唆します。脳梗塞超急性期でMRI-DWIで変化が無い場合というのは、可逆的な病態なのです。なんとしてでも迅速に血流の再開通を目指したいところなのです。というわけで今回のように、どうみても脳卒中らしいけれどもCTとMRIではっきりとした異常を指摘しにくいという症例にどうアプローチすべきか、という点を復習していきましょう。

●救急隊からの連絡を受けて

 今回の患者さんは急性発症の片麻痺があり構音障害を認めておりました。脳卒中が疑われる状況です。PSLS(Prehospital Stroke Life Support)ではCPSS(シンシナティ病院前脳卒中スケール)の使用を推奨されており、次の症状のうち1つでも当てはまるなら脳卒中の可能性が高いものとして、適切な医療機関選定を行うこととしています。

その他、病院前で脳卒中を拾い上げる方法としてKPSS(Kurashiki Prehospital Stroke Scale)やFAST(Face、Arm、Speech、Time)といったものがあげられます。地域の救急隊がどんな情報を利用しているのかは共有しておくと良いです。病歴聴取の上で、救急隊から脳卒中に関する情報を受けたら、いかに早くスムーズに治療に結びつけるかということを考えなくてはなりません。

●脳卒中への準備

 脳卒中が疑われる人が来院することがわかった場合に、どこまでの準備をしておくかというのは悩ましい問題です。みなさんへの質問でも、回答が分かれました。

 実際の対応を考えてみましょう。とにもかくにも気道や呼吸の確保をして、ショック状態でないかをみます。ABCが安定していれば脳卒中に焦点を絞って対応します。ただし、脳卒中以外の病変検索もしなくてはなりませんので、血糖値の測定とエコーで頸部の血流の評価をしつつ、大動脈解離の可能性も頭によぎらせながら初期対応をしていきます。純粋に脳卒中が疑われる場合には頭部CTを撮り、脳出血がなければ脳梗塞として対応をしていかなくてはなりません。まとめますと、救急では気道と呼吸と循環の担保をしながら、脳卒中以外の疾患を除外しつつ、脳出血と脳梗塞の鑑別を行い、脳梗塞であれば治療介入を迅速に図るというのが大まかな戦略になります。

 時間のロスを避けるために、蘇生に関わる物品準備のほか、治療まで見越した血液検査を施行しておくのが良いでしょうし、すぐに画像検査ができるように準備しておくことが望ましいでしょう。みなさんへの質問として、やっておくべき血液検査を尋ねましたが、凝固、線溶系の検査のほか、血液型や感染症(肝炎など)の検査を行っておくという意見が多かったです。先を見越した行動をされているのが伝わってきました。

 救急隊からの入電の時点で脳神経外科医やカテ室スタッフに連絡を入れておくというのは少数派でしたが、もしカテ室のスタッフや脳神経外科医が常駐でなく、今回提示したシチュエーションのようにオンコールだったりすると、どのタイミングで声を掛けるかを各施設考えなくてはならないですね。

●治療

 脳梗塞の治療は、tPA(アルテプラーゼ)と血管内治療です。2005年にtPA静注療法が日本でも適応となり、当初は発症3時間以内の適応だったのが2012年に4.5時間まで延長しました。その後血管内治療の黎明期となっていましたが、2015年から血管内治療による血栓除去の効果を認める研究発表が相次ぎ、メタ解析でもその有用性が確認され2)、今では標準治療となっています。目まぐるしく治療が進化しておりついていくのが大変ですが、現在において大事なのは、tPAの適応と血管内治療の適応をいち早く見極めることです。脳卒中の人では、迅速に頭部CTを撮像して出血の有無を確認し、tPAの適応を判断していくということになります3)

 基本的にtPAの適応がないのは、発症から4.5時間を超える場合、非外傷性頭蓋内出血の既往がある場合、胸部大動脈解離が強く疑われる場合、頭部CT、MRIで広範な早期虚血性変化がある場合ですが、そのほかにも適応外とされる場合がありますので4)、見極めるためにも適切な血液検査検体確保と早めの検査が重要です(図1参照)。

<図1>

 脳卒中疑い症例で、どこまでの画像検査を行うか、すなわち広範な早期虚血性変化を頭部単純CTのみで判断するか、頭部MRIやMRAまで行って判断するかは、各施設の事情にもよるかもしれません。アンケートでは大動脈解離の除外を含めるためにも、造影CTを頭部から胸部まで撮影するという意見も散見されました。

 検査にも時間がかかるので、どこまでの検査を行うかというのも非常に悩ましいところなのです。なにせtPA投与は早いほどよいのです。脳梗塞になると1時間おきに1億2000万のニューロンが死んでいきます。TIME IS BRAINです5)!もちろん血管内治療も早ければ早いほど良いです。血管内治療の研究を見ると、多くは6時間以内に介入されており、12時間以内で有効であったという報告があったり(ESCAPE trial6))、24時間以内でも有効であったという報告があったり(DAWN trial7))もします。ただ遅れれば遅れるほど予後は悪化しますので、基本的には6時間以内。日本では一応8時間までが適応とされていますが、なるはやで再灌流を目指すのが良いです。各施設、診断精度と診断速度との兼ね合いから適切解を見出さねばなりません。

●血管内治療の適応と対策

 どんな患者さんで血管内治療が有効かというところですが、前方系の大血管の閉塞です。脳梗塞を早期に疑うには、単純CTで出てくる所見を読むことも重要です。以前もEarly CT signについてまとめました(http://www.emalliance.org/education/case/解説-ema症例26:◯月症例-60歳女性-突然の意識障害?)が、復習しておきましょう。

 今回の症例ではどうでしょうか?実は左のMCAにHyperdense MCA signと考えられる高吸収域があります。左MCA閉塞を疑い、血管もしくは血流の評価をしなくてはなりません。もし見つけられなくても、脳卒中が強く疑われる状況で脳出血を示唆する所見がなければ、血管や血流の評価を考えなくてはなりません。

 追加でどんな検査をすれば良いかですが、造影剤を用いてCTAを行うというのが一つ。前方系の近位血管閉塞があれば血栓の場所、サイズ、性状を把握できるほか、aortic arch の蛇行、Willis動脈輪やくも膜の側副血行も確認することができます。その他、CT perfusionが有効です。これは造影剤を急速静注して撮像することにより、脳血流量、脳血液量、平均通過時間、ピーク到達時間を評価する方法です。脳血流量が落ちていれば、脳梗塞が疑われます。逆に脳血流量が増えているような場合には、てんかん発作など脳梗塞以外の病変を考えなくてはならなくなります。CTAとの最も大きな違いは、毛細血管の血流量を定量的に測定することができるので、penumbraがどの程度存在しているかを評価することができる点にあります。

 MRAでは造影剤を用いることなく脳動脈の評価ができますが、時間がかかることや、MRIを撮像できない人がいること、CTAほどはっきりと血管が描出されない可能性があることを認識しておく必要があります。あからさまに近位部の閉塞があるような場合には、有用な検査となります。また、MRIではガドリニウムを使用して、CTと同じようにperfusionを行うこともできます。

 みなさんの回答を見てみると、この時点でtPA投与や血管内治療に動くという意見のほか、MRAやCTAで血管の評価を行うという意見もありました。

 今回はMRAを行いました(筆者は禁忌がなければ頭部単純CTにMRI-DWIとMRAを行う方針でやっております)。MRAでは左MCAのM1遠位部の閉塞が疑われ、tPAを行いつつ緊急で血栓回収術を行う方針となりました。

●めざせ時短

 24時間体制で血管内治療が行えるだけのスタッフが院内に待機している施設は、日本中どこにでもあるわけではないというのが現状です。夜間は脳神経外科医や、カテ室の看護師や放射線技師、臨床工学技士をオンコールで呼び出しにしているというところも多いかと思います。どのタイミングでどの検査まで行い、どの時点で血管内治療に動いていくのかということをある程度プロトコル化しておくことをおすすめします。例えば、脳卒中疑いの搬入依頼がかかった時点で、放射線検査室に優先的にCTやMRIが撮像できるよう連絡を入れておく、脳神経外科に一報入れておく、血液検査項目を決めておく、検査室へ迅速な結果報告が求められる旨を伝えておく、血管造影室への連絡をしておく、などということをマニュアル化しておくことです。tPAを投与する際には体重を測定しなければなりませんし、凝固など検査の出し忘れや、検体の凝固により検査が不可能になってしまった場合などは検体の採取に時間をロスしてしまうこともあります。tPAの適応判断とともに、禁忌の判断も適切にしなければなりません。ERのスタッフ全員が時間短縮のために一丸となって動く必要があります。あとは、頭部CTで出血がなかった時点で脳神経外科にERに来てもらうのか、搬入以来の時点でERに呼ぶのかといった点も意外と毎回悩ましいので、部署間でコンセンサスを得ておくとスムーズです。検査では、CTAまで最初から行うのか、routineでperfusionを行うのか、MRIは施行するのかしないのか、やるならMRAとDWIのみ行うのか。様々なことを決めておけば、時間短縮につながり、door to needle timeが縮められます。

 では、もし自院で血管内治療が行えない場合はどうしましょうか。近年、急性期脳梗塞治療における効果的な医療連携の概念として「Drip, ship and retrieve」が提唱されています。診断後速やかにtPAを開始し、血管内治療可能な病院へ搬送し、血栓除去を行おうというものです。転院の準備は意外と手間取ります。文書作成や画像CD作成、そして転院先の選定と搬送の用意。血管内治療可能な病院は地域でも限られているので、病院間で連携を取り、適応患者をスムーズに転送できるようにしておくことも重要です。

●血管内治療適応群の拾い上げ

 できれば血管内治療の可能性がどのくらい高いかを事前に知りたいところですよね。昨年、血管内治療の適応となる大血管閉塞を予測するスコアリングシステム、ELVO screen(emergent large vessel occlusion screen)を日本医科大学が開発して報告しています8)。大血管閉塞に伴う皮質徴候を検出するために、眼球偏倚の存在をチェックし、2つの質問を行います。1つ目は眼鏡か時計を見せて「これはなんですか?」と質問、2つ目は4本の指を見せて「指は何本ありますか?」と質問するものです。前者は失語や意識障害に焦点をあて、後者は視野欠損や半側空間無視に焦点をあてています。眼球偏倚があるか、質問のどちらかに正解できなければELVO screenは陽性です。大血管閉塞予測の感度は85%、特異度は72%ということです。

 もう一つ、兵庫医科大学からJUST score (Japan Urgent Stroke Triage score)というものが発表されています9)。脳卒中を疑った時に、脳卒中の可能性だけでなく、その病型(主幹動脈閉塞、その他の脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)を分類するスコアリングシステムです。21項目の所見から、それぞれの疾患のらしさを求めるもので、スマートフォンやタブレット型端末のアプリとして公開されています。こういったものも有効活用し、できるだけ血管内治療への時間短縮を進められるとよいですね。病院前の使用だけでなく、院内でもCT、MRIの優先度や、スタッフ召集の参考にできるかと思います。

Take Home Message

・脳梗塞の治療は迅速なtPAと血管内治療の適応判断が重要

・MRI-DWIに映らない超早期脳梗塞を救おう

・プロトコル作成するなど、治療までの時間短縮を目指そう

参考文献

1) Chalela JA, Kidwell CS, Nentwich LM, et al. Magnetic resonance imaging and computed tomography in emergency assessment of patients with suspected acute stroke: a prospective comparison. Lancet 2007;369:293

2) Badhiwala JH, Nassiri F, Alhazzani W, et al. Endovascular Thrombectomy for Acute Ischemic Stroke: A Meta-analysis. JAMA. 2015 Nov 3;314(17):1832-43.

3) Zerna C, Thomalla G, Campbell BCV, et al. Current practice and future directions in the diagnosis and acute treatment of ischaemic stroke. Lancet. 2018;392:1247

4) 日本脳卒中学会 脳卒中医療向上・社会保険委員会 rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法指針改訂部会. rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法 適正治療指針 第二版

5) Saver JL. Time is brain--quantified. Stroke. 2006 Jan;37(1):263-6.

6) Goyal M, Demchuk AM, Menon BK, et al. Randomized assessment of rapid endovascular treatment of ischemic stroke. N Engl J Med. 2015 Mar 12;372(11):1019-30.

7) Nogueira RG, Jadhav AP, Haussen DC, et al. Thrombectomy 6 to 24 Hours after Stroke with a Mismatch between Deficit and Infarct. N Engl J Med. 2018 Jan 4;378(1):11-21.

8) Suzuki K, Nakajima N, Kunimoto K, et al. Emergent Large Vessel Occlusion Screen Is an Ideal Prehospital Scale to Avoid Missing Endovascular Therapy in Acute Stroke. Stroke. 2018 Sep;49(9):2096-2101.

9) Uchida K, Yoshimura S, Hiyama N, et al. Clinical Prediction Rules to Classify Types of Stroke at Prehospital Stage. Stroke. 2018 Aug;49(8):1820-1827.